まず私自身の学習体験から語ろう。
私は戦時下、結核蔓延期の臨床医として、労働者の結核診療から出発し、産業結核の調査と対策にかかわった。戦後、生産再開期における労働者保健・職業病の調査と対策に従事した。経済成長期以来、各種の健康被害が頻発した。私は大気汚染、有害食品(森永砒素ミルク中毒)、薬害(スモン病)、さらに自動車災害などの、健康被害の実態と要因、被害者医療救済と防止について調査、検討した。また、住民の健康を守るべき地方自治と衛生行政、保健所の機能、医療保障の在り方を学習研究の課題とした。極力、患者、健康被害者、労働者、住民に接しつつ、それらの究明にあたり、時には健康被害の防止と医療救済の実際に関与した。
私は、それらの学習体験から「社会医学研究の体系」として、
1)人々の衛生医療事情の実態と問題点を究明する「実証科学」、2)実証的知見の法則性をつきとめる「法則科学」、3)法則的知見に基づき保健衛生の具体策を提言する「政策科学」、4)提言する方策の実践によって、法則的知見の可否を検証する「実践科学」、以上4つの学習段階を想定している。なお研究業績を総説的にまとめて、著作集「社会医学の現代的課題」を上梓した。
「人間は使命的存在である」(三木清)という。とくに「医学研究」の取り組みは、領域の違いを越えて、「生命倫理」にたいする「使命的自覚」に根ざしていよう。
私の半世紀にわたる研究者生活はかならずしも平坦ではなかったが、私は「使命的自覚」のもとに、時代的要請に対応しつつ、「実学」として、実践的学習に心がけてきた。「たこつぼ」に墜ちこまないように、細部に拘泥しないで、「学際的取り組み」を重視し、「体系的把握」を志向した、といえよう。後輩諸氏にいささかでも「他山の石」になりうるものがあれば幸いである。 (名誉教授・公衆衛生学)
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