英国のBirmingham大学麻酔科のPeter Hutton教授は学生の教育に熱心で、関西医大にも招聘したことがあるが、彼が英国の医師会の決定を紹介している。英国の医師会は日本のそれより強い権限をもつ。医師会いわく「最近の医学の発展は目ざましく昨年教えた亊が今年は古くなっている。今の医学生諸君が医師となって活躍 する十数年さきのことは我々にも想像がつかないし教える自信もない。従って何も教えるな」というのである(British Journal of Anaesthesia,1995;74:3-5. EDITORIAL. Anaesthesia and the undergraduate medical curricurum)。
京大内科の菊池武彦教授の講義は臨床の事象を断定しない講義であった。例えば虫垂炎では熱が出ることもあり、出ないこともある。白血球が増加することもあるが増加しないこともある、という具合で私を含めて学生には評判がよくなかった。先生には随分親しくお世話になったが、臨床上の事象は決して断定が出来ないことが真実であると分かるようになったのは私が60歳をすぎてからであった。ただ私は断定して教える自信がなく、何も教えない先生として知られていた。英国人は時々目を見はるほどの大発見をする。私は英国に行く度にその秘密を探って見たが見つけ出せないでいる。欧米の一流誌の編集者から「よい論文である、日本から来る多くの論文のなかで最も良い、といわれた論文が約5編あり編集者は責任をもって私の論文の欠点を直して掲載しようとしてくれた。さらにビ−トルズのように音楽の世界でもユニ−クなものが英国で生まれる。関西医大の医局員に欠点を指摘せず良い点のみを取り上げ、何も教えないで自分で考えさせておくと数年後には自分独特の味のある良い研究するようになり、立派な論文をつくった者が何人かいた。チヤ−ルス・ダ−ウインの「種の起原」を翻訳し岩波文庫で出版した八杉竜一氏が最近高齢で他界された。御冥福を祈る。(元教授・麻酔科学)
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