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医療情報の統合運用による活用基盤の 整備を求む
―クライエントが求める 医療者の創出のために―

広島大学医学部教授・附属病院医療情報部
石川 澄

 母校の創立70周年の記念誌にお加えいただき、まことに光栄に存じます。卒業と同時に他に転じたため、ご恩返しができないままにおります。非才の身ながらいずれの日にか幾ばくかのお役に立てることを念じて、研鑽に勤しみたいと存じます。

 今、新しい世紀の幕開けを前に、先進国、途上国を問わず、それぞれ異質でとてつもなく大きな問題を克服せんとしています。それらは私達の健康に深く係わっており、社会体制のみならず、生活文化および科学技術にも見直しを迫っています。中でもわが国の医療に対して、かつてこれほどまでに倫理の再確認と経済性への配慮を求めた時代はなかったでしょう。

 私が医学部で学んだ事の大半は、生物学としての機能異常への対応の視野でした。若いころ臨床医として目指したものは、一分一秒でも心臓ポンプを動かす技術の獲得でした。思い出されるのは、重症心筋梗塞で緊急入院したある高名な日本画家。約4週間にわたるポンプ不全との戦いの末、家庭生活が営める見通しがついたある朝。主治医としては一種の勝利に似た心地よさをいだいて訪室した時のこと。「あんた、社会死ということ知ってなはるか」。自らの足で山野を歩き成功をおさめた氏の、それが叶わなくなった落胆の言でした。それからの毎日は、その前の4週間よりも困難な、氏の葛藤に耳を傾ける対話の毎日でした。 古来から「価値ある生をまっとうし、やがて来る死を尊厳を持って迎える」ことが人類の耐えざる願いです。20世紀後半の医学は分子生物学と遺伝子工学に代表される「分析の科学」を礎に、生命を「物」と「情報」として捕らえることに成功しました。医療の実践者はその技術を使い、生命の量をホンの一部制御して、平均寿命を約40年延ばすことに成功しました。副次的に急速な高齢化と経済環境の歪みを産み、地球規模の視野で解決に迫られています。次世紀に再び獲得する経済的果実は、生命の質の確保に向けられるべきです。医療はサービスと言われます。すべての医療者は、いつもクライエントが今どのような病状にあり、どのような心理状態にあるのか。どのような状態になれば最も大きな満足を得、リスクを最小にできるのかを判断する「統合の科学」を研ぎ澄ます必要があります。それには何よりもクライエントと医療チームの仲間との信頼関係を築くコミュニケーション能力と、正しい情報の整理統合力が求められます。その修得は大学の箱庭で一朝一夕にはできません。卒前の実社会を場とする体験教育と卒後の積極的な人事交流が不可欠ではないでしょうか。(43 回生)

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