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泌尿器科学講座
Department of Urology
教授 松田 公志

1. 泌尿器腹腔鏡手術の基礎的臨床的検討

 手術侵襲の低減をめざして、泌尿器科でも腹腔鏡手術が導入された。教室はわが国で最も早く泌尿器腹腔鏡手術を開始した施設の一つで、根治的腎摘除術、尿管剥離術、腎固定術、精巣固定術など多くの新しい術式を開発してきた。
 腹腔鏡手術では二酸化炭素による気腹操作を行うが、その呼吸、循環、内分泌動態への影響について、麻酔科と共同で検討を行った。特に内分泌への影響については、臨床例で気腹直後に血漿カテコラミンが上昇すること(Mikami et al. (1996) J Urol 155:1368-1371)、動物実験でこの上昇は気腹圧の大きさに左右されることを明らかにした (Mikami et al.(1998) Arch Surg, in press)(図1)。褐色細胞腫に対しても腹腔鏡手術を行うことがあり、気腹によるカテコラミン分泌の解明は、手術の安全性を高める上で臨床的に重要な情報と考えられる。
 腎や尿管に対しては、後腹膜腔に直接気腹ガスを注入する後腹膜鏡手術の行われることもあるが、この術式でも内分泌動態への影響について検討を行っている。

図1 気腹操作による血漿エピネフリンの上昇
CO2/R以外は気腹前(Baseline)や腹腔内圧10mmHgと比べ,腹腔内圧20mmHgで有意に上昇した。
(S:仰臥位、R:右側臥位、L:左側臥位、Air:空気気腹、N2O:笑気気腹、CO2:二酸化炭素気腹)

2. 男性生殖における血小板活性化因子の研究

 血小板活性化因子(Platelet-activating factor; PAF)はリン脂質性のケミカルメディエーターであるが、我々はモルモットおよびラットを用いてPAFが男性生殖器(精巣、精巣上体、精管、精嚢、前立腺)にも存在し、精嚢のPAF活性はアンドロゲンによって調節されていることを報告した(Muguruma K et al. (1993) Biol Reprod 48:386-392)。
 PAFは精子にも存在することが報告されている。我々はラットを用いて、精子にはPAFのde novo合成系の酵素が存在し、精巣上体液にはPAFをlyso-PAFに分解するacetylhydrolase活性が、さらに精子にはlyso-PAFを分解するlysophospholipase D活性が存在することを報告した(Muguruma K et al. (1997) Biol Reprod 56:529-536)。精子は射精直後は受精できないが、女性生殖器内を移動する間に受精能を獲得する。精子をPAFで処理すると先体反応が惹起され、体外受精の系で受精率が上昇することが報告されており、PAFおよびacetylhydrolaseが受精能獲得に関与している可能性がある(図2)。今後はPAFの受精における生理的役割および精巣上体液中のacetylhydrolaseの生化学的特性について検討を行いたい。

図2 精子におけるPAF代謝と受精における役割(仮説)
 精子が精巣上体で貯蔵されている間は産生されたPAFは直ちに分解される(A)が 、受精の場に到達すると卵胞液中のprogesteroneによりPAFの産生が亢進し、精子はPAFの刺激により先体反応を起こし受精出来る様になる(B)。

3. 尿路および男性生殖器における各種イオン輸送体の局在と変動

 上皮における各種イオン輸送体の局在には組織特異性があり、作り出されるイオン環境は、その組織の機能に応じたものとなる。腎尿細管において、それは体液環境の調節に関連し、男性生殖器においては、精子の成熟、運動性に影響する。一方、組織を取り巻く環境の変化、例えばホルモンの変動や、ある種の病的状態により、イオン輸送体の局在または発現に、変化がみられることが予想される。本学第1生理学教室の協力のもと、Na, K-ATPaseおよび液胞型H-ATPaseについて、主に免疫組織学的手法を用いて、腎尿細管、精巣、および精巣上体におけるこれらの局在と、その変動について検討している(Kawa et al.(1994) J Am Soc Nephrol 4:2040-2049)。また、細胞内レベルでの局在にも着目し、最近では、液胞型H-ATPaseが、精子アクロゾームの酸性化に関与していることを示唆する結果を得ている(図3)。

図3  精子細胞における液胞型H-ATPaseの局在(黒染部分)

4. FISH法によるヒト精子染色体分析

 男性不妊症に対する治療として卵細胞質内精子注入法(ICSI)が開発され、精子の選別が人為的に行われる現在、個々の精子の染色体分析の必要性が認識されるようになった。また、男性不妊症では染色体異常の頻度が3-4%と高いことからも、精子染色体の検討は遺伝学上重要である。教室では精子に対する3-color fluorescence in situ hybridization(FISH)法を確立した(図4)。これまでに、47,XYYの男性不妊症患者の精子を分析し、性染色体異数性の頻度が正常に比べて有意に高いこと、25,XYY精子を少数ながら認めることなどを明らかにした。今後、 がん化学療法や放射線療法の精子染色体への影響、不妊症患者における精子染色体異常などの分析を行う予定である。

図4  47,XYY症例で認めた24,XY精子
(赤:12番染色体、青:Y染色体、オレンジ:X染色体)

研究の展望

 泌尿器科学教室では、アンドロロジー(男性学)および泌尿器腹腔鏡手術に関した研究を行っている。アンドロロジーでは、閉塞性無精子症に関する臨床的研究や、上記の基礎的研究のほか、温度感受性遺伝子について共同研究を開始している。近い将来、婦人科とともにリプロダクションセンターを開設し、男性生殖学に関して基礎・臨床を組み合わせた研究を進めていきたい。
 腹腔鏡手術では、気腹操作の生理作用を明らかにした。新しい腹腔鏡手術手技の開発と安全性の向上は、手術侵襲の低減をめざす時代の要望に答えるものとして重要である。今後は、各種手術の侵襲を客観的かつ容易に判定するシステムを開発すべく臨床研究を行いたい。
 腎移植については、第1病理学教室と共同で基礎的実験を開始した。計画中の移植センターに参加するとともに、将来の臨床への応用をめざしたい。

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