長年に渡って蓄積された子宮頚癌、子宮体癌、卵巣癌などの多数の症例について臨床統計を解析し、治療プロトコールを検討してより有効な手術ならびに化学療法の確立をめざした臨床研究を進めている。特に近年増加傾向にある卵巣癌については、強力な化学療法とその補助療法、新たな薬剤の導入などを積極的に進めてきた。教室の伝統の一つである臨床細胞学においては、産婦人科細胞診断室のスタッフと産婦人科病理専門医により、行政、地域医師会と協調しつつ子宮癌の集団検診事業を進めてきている。現在なお予後不良な子宮頚部腺癌については、放射線科の協力のもと動脈内抗癌剤投与法(術前補助化学療法として)の有効性を確認しつつある。また診断上の問題の多い腺異形成とその関連病変については、各種の成長因子やその受容体、糖鎖抗原などの発現パターンを免疫組織学的に詳細に解析しその発生病理に関する基礎研究を行っている。さらに癌化過程における成長因子、サイトカインの関連やアポトーシスについて、免疫組織学的検討を行っており、各種癌細胞株の樹立、それらを用いた癌の浸潤、転移機序の解明をめざした研究も行っている。
図1 子宮頚部腺癌におけるLeY抗原(癌関連糖鎖抗原)の免疫組織染色。 図2 ラット妊娠子宮(A、上)および胎盤(B、下)中のPAF活性。 図3 黄体ホルモンにより誘導される遺伝子(UK10)の月経周期に伴う変動(Northern Blot解析)。 産婦人科教室では、婦人科腫瘍、周産期、生殖内分泌という3つの領域において、それぞれ臨床に即した研究テーマについて基礎的、臨床的検討を加えている。腫瘍においては臨床病理学を中心に診断・治療法の確立を追求し、周産期ではMedical Electronics(ME)を駆使した臨床研究と動物実験による胎児発育、分娩に関する研究を行い、生殖内分泌ではホルモン治療の基礎、不妊病態の解明、ヒト子宮内膜の増殖分化機構の基礎研究を行っている。形態学的手法と生化学・分子生物学を組み合わせて、常に各種病態を標的とした研究テーマを追求している。
腺癌細胞に非常に強いLeY抗原の発現が認められる。
2. 周産期に関する研究
超音波の画像診断を用いた胎児出生前診断、胎内治療ならびに周産期胎児管理に関する研究を行っている。すなわち、最新の超音波機器を用いて、パルスドップラーやカラードップラー検査にて胎児異常や胎児循環動態を正確に評価し、胎内治療の適否、子宮内胎児発育遅延や胎児仮死の発症予測についての臨床研究を進めている。基礎研究ではこれまで実験動物を用いて活性脂質、ステロイドホルモン、喫煙などの胎児発育、肺成熟に対する影響を検討してきたが、特に血小板活性化因子に注目した研究が中心となっている。血小板活性化因子は微量濃度で血小板のみならず好中球、単球、好塩基球などの炎症性細胞の活性化、血管の透過性亢進などの作用を有しアレルギー、炎症に関与する生理活性物質として知られているが、それ以外に降圧作用、子宮・血管などの平滑筋収縮作用を有する。この生理活性物質はアレルギー、炎症などの非生理的な状況下のみならず恒常的に各種細胞・組織で産生され、パラクリン・オートクリン的に作用していると考えられ、さらに、血小板活性化因子受容体を介した細胞刺激によって、細胞増殖やサイトカインの遺伝子発現に関与することも示唆されている。これまでの研究で本物質の平滑筋収縮作用、血管透過性亢進作用、細胞内カルシウム動員作用などが妊娠の維持や分娩発来機序に関与することが解明されつつある。
妊娠経過につれて子宮でのPAF活性の上昇と胎盤での低下が認められる。
3. 生殖内分泌に関する研究
思春期・性成熟期婦人の内分泌疾患ならびに不妊症に対する臨床研究、特に多嚢胞性卵巣症候群の臨床症状、超音波所見、内分泌異常を統計解析し、診断・治療方針に対する検討を行っている。さらに、染色体異常婦人、術後卵巣欠落症候群ならびに更年期・老年期婦人に対するホルモン補充療法の評価ならびに問題点を検討している。基礎研究では受精・着床過程におけるホルモン・サイトカインの相互作用と役割について検討しており、特にヒト子宮内膜の増殖分化過程における各種調節因子に関する研究から着床不全の子宮側因子の解明、臨床応用をめざしている。子宮内膜は性周期に伴って増殖・分化さらには妊卵の着床によって脱落膜に変化する。この増殖・分化または脱落膜化には性ステロイドホルモンが重要であるが、この性ステロイドホルモンの作用は増殖因子、サイトカイン、プロスタグランデインさらにはセカンドメッセンジャーとしてcAMPなどを介していることがわかってきた。また最近、これら増殖・分化・脱落膜化に関与する遺伝子も明らかになってきている。我々が行ってきたこれまでの遺伝子サブトラクション実験でも、幾つかの新たな遺伝子が見いだされてきておりその解析を進めている。今後着床過程における各種局所因子の意義、着床障害の診断・治療への応用を期待している。
着床期子宮内膜および妊娠成立後の脱落膜での発現が認められる。
研究の展望
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