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神経内科学講座
Department of Neurology
教授 日下 博文

1. 運動ニューロン病の神経病理学的研究

 Superoxide dismutase (SOD1) 遺伝子の変異が家族性筋萎縮性側索硬化症(ALS)においてみつかり、硝子様封入体にSOD1が発現していることが確認されて以来、運動ニューロン病の病理学的研究は、その治療をも視野にいれて,近年加速度的に展開している。しかしながら、運動ニューロン病の細胞病理学的変化はいまだ十分解明されたとは言えない。例えば、ブニナ小体は孤発性ALSや痴呆を伴うALSでは好発するが、後索型の家族性ALSや好塩基性封入体を伴う運動ニューロン病では認めない。ブニナ小体は抗cystatin C抗体に反応するが、その構成成分はわかっていない。こうした問題を解明するうえに、人体病理の重要性はいうまでもないが、古典的病理学的手法を超えた分子生物学的アプローチに寄せられている期待は大きい。本講座でもこれまでの実績(40例を超えるALSの剖検経験など)を礎にして、従来から行ってきた、臨床に密着した神経病理学的研究を継続・展開するとともに、他施設とも共同研究のかたちで例えばSOD1 遺伝子変異をもつtransgenic mouseなどを用いたダイナミックな研究や免疫組織化学的研究を発展していきたいと考えてる。

図1 Bunina小体の電顕像

 

2. 神経・筋生検材料を用いた病態解明

 神経・筋生検は臨床上極めて重要な検査であることは論を待たないが、同時に病態解明上非常に貴重な文字通り「生」の材料を提供してくれる。従来の形態計測、形態学的な検討(これまでに200例を超す生検経験)に止まらず、例えば抗ガングリオシド抗体、接着因子の病態、免疫細胞や種々免疫因子の病態、組織培養への応用などを行い、臨床治療学上有用な知見が究明できるような研究を展開していきたいと考えている。特に組織化学的手法で神経免疫学的な研究に力を注ぎたいと考えている。

図2 Double myelination by a single Schwann cell in the sural nerve.

 

3. 神経回路網の病理学的解析

 中枢神経系に存在する神経細胞は、シナプスを介して綿密な情報ネットワークを形成している。生理的状態では、ある特定の神経細胞に生じた興奮が、情報として順次ネットワーク上を伝わり、その過程で促進と抑制を受けながら吟味され、最終的に個体活動として表出される。神経疾患にみられる臨床症候は、この神経回路網の機能障害により生じると考えられる。従って、個々の神経疾患の病態把握と治療法確立には、破綻した部位と原因を追求することが重要である。私達はこの観点から、各種神経変性疾患における神経回路網の解析を行っている。個々の神経細胞はそれぞれ固有の神経伝達物質や細胞内蛋白質を有しているため、これらを免疫組織化学的に検出することで、ネットワークの断裂部位を同定可能である。図3は、線条体黒質変性症患者の淡蒼球を、サブスタンス P およびエンケファリンで免疫染色したもので、線条体からの投射線維が淡蒼球の腹外側で選択的に断裂していることを示している。個々の神経疾患において、神経回路網の断裂部位を詳細に把握し、この断裂を機能的に再建することが、より有効な治療法の確立につながるものと期待している。

4. 定位的パーキンソン病手術(図4)

 長期にわたり薬物治療を受けてきたパーキンソン病患者は、薬効が減弱したり副作用が生じ、症状のコントロールが困難となってくる。そのような症例に対する有効な治療手段として、最近世界的に定位的脳手術が施行されるようになってきた。現在臨床応用可能な定位的パーキンソン病手術のうち、注目されているのが後腹側淡蒼球破壊術である。これは、直径 1mm の凝固針を脳内に挿入し、淡蒼球を熱凝固する方法で、パーキンソン病のすべての症候に対して改善効果が認められる。この手術を行っている施設は全国で 20施設に満たないが、私達は現在、関連施設と共同して積極的にこの手術を施行しており、良好な成績をあげている。一方、ガンマナイフによる淡蒼球破壊術と、脳深部埋込み電極による電気刺激術は、海外の施設での成績が世界的トップジャーナルに出始めたばかりであり、国内施設からの報告はない。私達はすでに、関連施設と共同でこれらの治療を行うための具体的準備に入っている。なお、私達の定位的パーキンソン病手術の経験と技術は、将来のパーキンソン病遺伝子治療にも発展応用可能である。

研究の展望

 神経内科学講座は平成9年10月1日に本学に創設されたばかりの非常にまだ若い教室である。ゆえに本学での研究歴はないが、エネルギーに溢れている。これから上に掲げたようなテーマを中心に神経内科学の臨床的研究、分子生物学的、神経病理学的、神経放射線学的、さらに神経治療学的研究を幅広く進めていきたい。その上で他の基礎医学講座や関連施設との共同研究を積極的に推し進めたいと考えている。

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