抄録:
 多くの神経系遺伝子は転写抑制因子REST/NRSF (the repressor element-1 silencing transcription factor/neuron-restrictive silencer factor) により発現調節されています。RESTが特異的に結合する配列RE1は神経系遺伝子をはじめ多くの遺伝子上に存在し、RESTはRE1に結合することで遺伝子発現を抑制しています。 私たちはRESTの核移行シグナルとDNA結合部位を特定していく過程で、RESTに結合しRESTの核内輸送に関与する新規タンパク質を発見しREST/NRSF-Interacting LIM domain Protein (RILP) と名づけました。 最近、RESTはハンチントン病の原因遺伝子がコードするHuntingtin (Htt) に結合し、Httの異常はRESTが転写調節している多くの遺伝子に影響を与えることが報告されました。 私たちはRESTに結合するこの両者のタンパク質に注目し研究を行った結果、RILP、Httさらに Dynactin p150Glued が複合体を形成しRESTの核内輸送に関与している事を報告しました。また、心不全等で強い発現誘導を受けているナトリウムペプチド(ANP、BNP)がRESTにより転写調節を受けていることに注目し、心筋細胞の分化と両ペプチドの発現におけるRESTとRILPの関与も明らかにしつつあります。
 RESTの機能異常は神経系のみならず多くの疾患へと進行する可能性が示唆されています。このような遺伝子発現調節に関する研究、すなわちRESTとRILPの機能を明らかにする研究は大変重要であり、さまざまな難病の原因解明、治療に関する研究に応用可能であると考えます。