抄録:
 シナプス両側の特殊化された細胞内のサイトには、足場タンパク質、神経伝達物質の放出機構、受容体、イオンチャネル、シグナル伝達分子などの複合体が集積し、効率的な神経細胞間の情報伝達を支えている。これらのタンパク質複合体の量を調節することは、シナプスの伝達効率や可塑性を調節する上で重要であると考えられるが、これらのシナプスタンパク質の量がどのように調節されているかは不明な点が多い。
 我々はシナプスのタンパク質分解系に着目し、シナプスの活動性を調節する分解系の因子として、E3ユビキチンリガーゼSCRAPPERを同定した。SCRAPPERはプレシナプスの可塑性調節因子RIM1に結合し、ユビキチン化を行い、プロテアソームでの分解に誘導する。
SCRAPPER欠損マウスの神経細胞ではRIM1の半減期は長く、ユビキチン化は減少し、mEPSCの頻度が増加する。このSCRAPPERを介したmEPSCの調節は、カルシウム濃度に依存的である。さらに、RIM1の増加やmEPSCに与えるプロテアソーム阻害剤の効果は、SCRAPPERの欠損により阻害される。以上の事から、SCRAPPERはRIM1のプロテアソーム依存的な分解を介したシナプスの活性の調節に重要であることが明らかとなった(Yao et al., Cell 2007)。今回、これらの知見をご紹介したい。