抄録:
 神経発生の過程において、未分化な神経前駆細胞が神経回路に組み込まれ機能を発現していくまでには、様々な段階を経る事が必要です。主な段階として、a) 未分化な神経前駆細胞の領域と時期に関わる情報の獲得、b) 領域と時期に特異的な神経細胞への分化、c) 神経細胞の移動、d) 軸索のガイディング、e) 最終投射先とそのパターンの決定、e) 最終投射先でのシナプスの形成、f) 機能の発現とその調節、があげられます。それらのメカニズムを探索し明らかにする事は、未分化細胞を利用した機能再生を目的に掲げる「再生医療」に決定的に重要な役割を果たすと思われます。
 本セミナーにおいては、主にa) および b) を中心に、発生期脊髄の前駆細胞群において、1)「場所特異的に発現する転写因子群」と「細胞系譜を制御する転写因子群」が、神経前駆細胞に時期特異的組み合わせ発現を示すこと、2) 各々の転写因子が「単独で」または「組み合わせにより」神経前駆細胞の細胞系譜を制御する活性を保持すること、3) これら転写因子群の「組み合わせ発現」「組み合わせ活性」により、細胞分化の「場所」「時期」「細胞の種類・系譜」が協調的に制御されていることの、一分子メカニズムを話す予定にしています(Sugimoriら, 2007; 2008, Guillemot, 2007; Mizuguchiら, 2001)。