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関西医科大学第7回市民公開講座
「急な発熱・嘔吐・下痢−おかあさん、こんな時どうしますか?」
荻野 廣太郎(関西医科大学附属洛西ニュータウン病院小児科部長)
平成16年(2004年)12月18日(土)
ホテル京都エミナース
司会(栗本 匡久・関西医科大学附属洛西ニュータウン病院病院長)

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 司会(栗本 匡久・関西医科大学附属洛西ニュータウン病院病院長)

 きょうは主に小児に関連したテーマを選びました。おとうさん、おかあさんは子供さんを連れてこのような会にご出席されるのは難しいので、お孫さんのために勉強されておとうさん、おかあさんにお伝えいただきたいと思います。最近、テレビでは健康番組がいろいろ放映されていますが、かなり極端な例がつなぎあわされて一つの番組を作っているので、番組を見るとみんなびっくりしてしまうようなことが言われています。きょうは各専門家からお話をうかがいますので、正しい知識を身につけていただければと思います。

  それでは急な発熱・嘔吐・下痢について小児科の荻野部長にお話をうかがいます。簡単に荻野先生のプロフィールを紹介します。小児科の専門医であり、洛西ニュータウン病院の小児科部長を長く務められております。特にきょうの発熱の原因にもなる川崎病についてずっと臨床研究を続けられ、日本でも有数の川崎病の研究者です。そういった話もきょうはしていただけるかもしれません。では荻野先生、よろしくお願いいたします。

 荻野(関西医科大学附属洛西ニュータウン病院小児科部長)

 講演の進め方にもいろいろありますが、さんざん悩んだ結果、きょうの前半はお手元の資料に沿って進めたいと思います。そこに出ている名前は私の子供の名前です。同じ名前のお子さんがおられましたらご容赦ください。

  発熱・嘔吐・下痢を考えたときにどのような状況設定ができるか、状況設定問題から考えてみます。夜中急に熱を出す、もどすあるいは下痢をすると、さんざんおかあさん方はお悩みになると思います。ある程度じっくり様子をみていてもよい病気もあり、早急に病院の門をたたいたり救急車をお願いする病気もあります。そのあたりのことを少しご理解願えたら、きょう私がお話しすることの意図するところになりますし、幸いなことに思います。

* おかあさん、こんな時どうします
* 以下に示すような状況にお子さまがなられた時、どう対処されますか。   
* 次の (a)〜(c) のうちで私ならこうするだろうと思う項目を選んでください。
* (a) ただちに病院に連れて行く。
* (b) 翌日かかりつけの病院(医院)に連れて行く。         
* (c) 自宅で様子を見ていてもっと悪くなるようなら連れて行く。

(a)、(b) 、(c) の3つのパターンがあると思います。ご参加もらえるのであれば、1つの 状況設定をどのようにとらえるか、手を挙げながら参加していただきたいと思います。

* こんな場合(1−1)                  
* 平成16年12月のある晩のことです。2歳の幸子ちゃんが急に
* 38.6℃の熱を出しました。思い返せば2日前から軽い鼻水と咳
* をしていました。熱が出てからも鼻水と咳の様子は変わりませ
* ん。熱のためかハーハーいっていますが、おかあさんが持って
* きた冷たいジュースを美味しそうに飲んでいます。2時間後に
* 熱を測ると40.1℃になっていました。しんどそうにしています
* が、受け答えはでき、嘔吐も下痢もありません。おかあさんは
* 心配でたまりません。救急車を呼んだらいいのか、深夜でも診
* てくれる病院を探して連れて行ったらいいのか、このまま朝ま
* でみていたらいいのか、頭の中はぐるぐると回るばかりです。
* おかあさん、こんな時どうします?

(a)、(b) 、(c) で挙手をお願いできますか。−−(b) が一番多いようですね。

* こんな場合(1−2)                  
* 真夜中の午前2時頃になって突然2回続けてもどしました。
* 吐物の内容は夕食に食べた鶏の唐揚げ、トマト、ごはんなどで
* 血は混じっていませんでした。このときの熱も39.7℃で下がる
* 様子はありません。しばらくして冷たい麦茶を飲ませたところ
* コップ半分くらいは飲んでくれました。          
* おかあさん、こんな時どうします? 

(a)、(b) 、(c) で挙手をお願いできますか。−−この(1−1)と(1−2)は、かぜ症候群、いわゆるかぜを意識して例題を作りました。基本的にどういうふうにみるかというと、まず熱の高さは病気の重さとは比例しないということです。その他の大事なポイントはまずまず機嫌がよいこと、水分が摂れていることから、家庭でみていてもいい状態だと思います。夜走るということは熱を出してしんどい様子のお子さんにとってもストレスになります。そのあたりをどう考えるか。これは難しい問題ですが、この例題ではそのように考えます。

* こんな場合(2)                    
* 平成16年12月のある昼頃のことです。生後6カ月の広和君が
* 急にぐずり出しました。熱を測ると38.2℃ありました。おかあ
* さんは冷えピタを貼ってミルクを飲ませました。飲ませ終わっ
* た頃急にもどしました。嘔吐はその後も続き午後3時頃までに
* 3回ありました。そしてこの時から下痢が始まりました。おむ
* つを替えるたびに水様の薄い黄色の下痢便がみられ、同時に
* 白っぽい顆粒状のネバネバしたものも付いていました。便は鼻
* を突くような酸っぱいにおいがしました。便はおむつからはみ
* 出ることもしばしばでした。夕方6時までに嘔吐は5回、下痢
* は7回あり、ぐったりしていてミルクも飲んでくれなくなりま
* した。心なしかヨダレが減ってきたような気がします。  
* おかあさん、こんな時どうします?

−−これは冬のポピュラーな状況設定で、冬場に多くみられるロタウィルスの胃腸炎を考えて例題を作ってみました。この場合はやはり(a) 、すぐに連れていくことが正解だと思います。この問題で一番大事なことは脱水症で、このような疾患の場合には常に問題になります。ミルクが飲めないというのは大きなポイントの一つです。すぐに連れてきてください。点滴が要ると思います。

* こんな場合(3)
* 生後8カ月の広和君が急にぐずりだしたので、おかあさんは
* 抱っこをしてあげました。体は熱くてかなり熱があるようでし
* た。さあ熱を測らなくっちゃ、と思ったそのとき、広和君は白
* 目をむいて体を硬くしてひきつけを起こしました。少しすると
* 手足は両方ともがくがくと震えてきました。おかあさんの頭の
* 中は真っ白です。名前を呼んでも反応はありません。1分くら
* いでひきつけは治まり眠りはじめました。取りあえず熱を測っ
* てみると39.7℃ありました。広和君が熱を出したのは今回が初
* めてでした。30分ちょっと寝て目を覚ましました。熱があって
* 機嫌は悪いのもの、おかあさんがあやすとにっこりし、お白湯
* も飲みました。熱以外の症状はありません。        
* おかあさん、こんな時どうします?

−−これはけいれんを伴った発熱です。生後8カ月でしかも生まれて初めての発熱、そして熱が上がるときにけいれんを起こしています。突発性発疹症という病気で合併してきた熱性けいれんを意識して作りました。熱性けいれんは子供の人口の3〜4%にみられる非常にポピュラーな病気です。好発年齢は6カ月〜3歳くらいで、1、2歳でピークを持っています。基本的にけいれんの時間が1分と短いことと、起きたらにこっと笑っておかあさんとアイコンタクトが取れていること、すなわち意識があるということからゆっくりみていていいのではないかと考えます。けいれんの持続時間は5分くらいまでは、みていていいと思います。ただ、1日のうちでいったん治まってまた次のけいれんがくる場合には急いだほうがいいかもしれません。また次の例題のように熱がずっと前からあって、そしてけいれんを起こしてくると急ぐ場合があります。

* こんな場合(4)
* 1歳のお誕生日を迎えた幸子ちゃんは昨日の夜から38℃台の
* 熱を出していました。咳と鼻水が少しあります。おかあさんは
* かぜだろうと思ってお医者さんには連れて行きませんでした。
* 朝38.3℃だった熱は昼頃には39.6℃に上がり、かなりしんどそ
* うな顔つきになってきました。ミルクを与えるとまずまずの量
* を飲んで眠ってしまいました。おかあさんは頭を冷やしてやり
* ながら幸子ちゃんをみていました。2時間くらい寝たでしょう
* か、急に立て続けに3回もどしました。何となく目がトロンと
* しています。なんか変だなあと思っているとひきつけが始まり
* ました。                        
* おかあさん、こんな時どうします?

−−(3)と(4)のけいれんで違う点は(4)では発熱が約1日前から出ています。もう一つは、「目がトロンとしている」という表現がいいのかどうかわかりませんが、少し意識レベルが下がっている状況を考えてみました。熱、嘔吐、けいれん、そして熱が出始めてから少なくとも12時間以上経っている場合には髄膜炎という病気を考えなくてはならない状況だと思います。したがって(4)の場合にはただちに病院に連れていくのが正解です。

* こんな場合(5)                    
* 生後5カ月の広和君が突然火のついたように泣きだしまし
* た。それまでは全く元気だったため、おかあさんには訳がわか
* りません。唇も真っ白になり、嘔吐もみられました。オロオロ
* しているうちに急に泣きやみ、ケロッとした表情に戻りまし
* た。唇の色もピンクです。おかあさんはホッとしました。10分
* ほど経ったでしょうか、また急に泣きだしました。泣き方は尋
* 常ではありません。しばらくするとまた泣きやんでケロッとし
* ています。こんな状態がしばらく続きました。熱は何回測って
* も平熱でした。おむつを替えると今までに見たことのない粘液
* 混じりのイチゴゼリーに似た血便が見られました。     
* おかあさん、こんな時どうします?

−−これは、腸重積症を想定して文章を作りました。後で写真を提示しますが、間欠的な腹痛が特徴です。非常に強い腹痛を訴えていて、腸の蠕動(ぜんどう)がその場を去るとケロッとして何もない、そしてまた起こってくるという間欠的な腹痛と、反射的な嘔吐があることと血便を伴っていること、そして生後5カ月を考えるとやはり腸重積症が疑われます。すぐに連れてきてください。

* こんな場合(6)                    
* 生後1カ月と20日の幸子ちゃんが午後2時頃からぐずりだし
* ました。熱を測ると38.5℃ありました。熱以外に咳や鼻水、嘔
* 吐、下痢はみられません。おっぱいもやや少ないながら飲んで
* くれています。1時間後にもう一度熱を測ると39.1℃まで上 
* がっていました。同居している家族でかぜを引いたり熱を出し
* たりしている者はいません。               
* おかあさん、こんな時どうします?

−−この設問は発熱以外に症状が何もないことと生後1カ月と20日を大きなキーポイントにして作ったつもりです。赤ちゃんはおかあさんから胎盤を通して免疫物質をもらっているので、6カ月くらいまでは発熱しないのが普通です。そこで発熱した場合、特に1カ月未満のお子さんではまず真先に赤ちゃんが産道を通るときの感染症が発病した可能性を考えます。また生後3カ月に満たないお子さんが発熱すると、膀胱炎や腎盂炎のような尿路感染症、中耳炎、もっと怖い敗血症、髄膜炎のような中枢神経系の病気などが隠れている可能性がかなり高い状態です。我々小児科医は非常にドキドキしながら診なくてはならない病状です。

  したがって基本的に意見が2つに分かれると思います。病院が開いている時間帯ならすぐに連れてきてください。もし真夜中であれば翌日の朝一番に連れていけばいいかと思います。このようなお子さんが熱を出した場合、約 2/3の患者さんには入院していただきます。3カ月未満の発熱は少し大きなお子さんの発熱とは趣を異にして、少し重症と考えて急いでもらいたい病状になります。

( slide No. 1 )

 発熱、嘔吐、下痢を認めたときの基本的な考え方です。これまで6場面をみてきました。最初に認められた症状の次にどんな症状が加わるかを詳しくみていただくことが大事だと思います。我々医者たちはおかあさん方の一言を非常に大切にしています。特に「なんかいつもと違うんです」、この言葉は我々をキリッとさせます。おかあさんがいつもと違うと感じていることきちんと我々に伝えてください。正しい診断にたどり着くための我々とおかあさん方との共同作業はおかあさん方が我々にお話ししてもらうことから始まります。どんなささいなことでも教えてください。病院に来られたときにはどうかよろしくお願いいたします。

( slide No. 2 )

  発熱を考えた場合、まず平熱(正常体温)は何℃か押さえておきます。我々人間の平熱は基本的には朝起きたときが一番低く、夕方から夜にかけて徐々に高くなってきます。また運動後、食後に高くなる傾向があります。

  日頃からお子さんたちが元気なときの夜では何℃、朝一番では何℃という体温を知っておいていただければ、熱に対する考え方がよりはっきりしてきます。平熱は大きなお子さんでは35℃台から赤ちゃんでは37.1℃、37.2℃まで幅があります。年代、その時々で変わっていきますので、平熱をちょっと意識して元気なときの体温を覚えておいてください。

  子供の場合、何℃から発熱ととらえるかという問題が次にあります。小児科医は37.5℃以上を発熱と考えています。また平熱がわかっているお子さんでは平熱より1℃以上高くなると発熱と考えることが多いです。

  熱を測るとき、水銀体温計を使っている方はいらっしゃいますか。1人、2人くらいですね。水銀体温計は5分間きっちりと腋窩で測っていただきます。この5分という数字が非常に大事になります。ほとんどのご家庭では電子体温計を使っておられると思います。これは予測値を求める体温計ですから、その仕様によって徐々に上がっていく機種とずっと上がって下がってくる機種があります。ですからピピッと鳴るまで我慢して、最後にピピッと鳴ったときの数字しか信じないでください。例えば39.1℃まで上がって、ピピッと鳴ったときには38.5℃になっていると、これは38.5℃です。そういう面で電子体温計は特殊なものです。水銀体温計は時間が経てば経つほど上がります。最高体温計という形で使っていますので、一番上がりきったときがそのときの体温です。電子体温計と水銀体温計とは少し違うのでご注意ください。

  もう一つ、体温計でも耳で測るミミッピという体温計があります。この前提は耳垢がないことです。耳垢がなくて鼓膜まできちんと入れば、ミミッピは早く的確に体温を表示してくれます。耳垢があると測定の波型がそこでブロックされて正確な体温を表しません。ミミッピは耳垢がない状態で使ってください。

  熱型の種類と病気について。いろいろな熱型があり、その多くは1℃以上上下しながら平熱に戻らない弛張熱のような熱型です。

 怖い病気では敗血症、気管支肺炎、結核、ウィルス性感染症などがあります。一番多いのはこのようなパターンだと思います。体温がずっと高く座薬などを使わないかぎり高いままという稽留熱、1日1回は正常まで戻る間欠熱、それから、出て下がってを繰り返すマラリア熱のような波状熱。僕自身はマラリアをみたことがありませんが。

  ですから熱がわらかないときにはおかあさん方に1日3〜4回、決まった時間に熱を測って熱型表をつけてもらいます。そうするとどのパターンか、いつから下がったか、薬を飲みはじめてからの下がり具合などが見えてきます。薬の効果がうまく反映しているか、我々にも役に立ちます。お願いするときにはご協力をお願いします。

( slide No. 3 )

 発熱から考えられる病気にはたくさんあります。発熱しても元気がある場合にはほとんど放っておいてもよいですし、翌日にゆっくり病院に連れていってもいいと思います。

  高熱とともにひきつける場合、熱性けいれんでは5分以上も続かない、多くは1分から数十秒で終わって眠って起きれば普段と同じという場合には慌てる必要はないと思います。ただ意識障害、頭痛、嘔吐があったり発熱がしばらく続いた後けいれんを起こした場合には髄膜炎が疑われますので少し急いだほうがいいです。

 嘔吐、下痢などの症状が併存するものにはこのようなものがあります。この中で問題になるのは急性虫垂炎、俗に言う盲腸で、腹痛が非常に強いので急がなくてはならない病気の一つです。

  咳があって呼吸が困難な場合、呼吸が早い場合と熱がほとんどない場合で分かれますが、1日で命にかかわるという病気はまずないグループです。食べるときに痛がるのには流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)と夏場にある口内炎としてヘルパンギーナ。耳の痛みの場合には中耳炎、尿が濁って排尿時に痛がるのは尿路感染症。高温多湿の環境に長くいると熱中症。この夏も何人か外来に来られました。熱が持続して食欲がない場合、出血斑が出る、関節痛が出る、不定愁訴があると、小児癌、膠原病、心身症などが隠れています。

  もう一つ、ぐったりしていて意識がない場合にはすぐに連れてきてください。脳膿瘍や脳炎などが考えられます。意識の有無は大人も同様ですが、非常に大事なチェックポイントになります。

  発熱と発疹が出る病気にはいろいろあります。解熱とともに発疹が出るのは突発性発疹、水疱をともなっていると水痘、コプリック斑が出ると麻疹。これは非常に減ってきました。後頸部のリンパ節が腫れると風疹、蝶型紅斑になると伝染性紅斑(リンゴ病)、全身のリンパ節が腫れると伝染性単核症、イチゴ舌になって口周囲が蒼白になると溶連菌感染、それから発疹があって浮腫があって落屑があって眼が真っ赤になってBCGの瘢痕が赤くなると川崎病と、いろいろな病気があります。

  総じて急いで診ないといけない病気はひきつけを伴ったグループ、意識がないグループ、熱があって非常に腹痛が強いグループとなります。

( slide No. 4 )

 まず突発性発疹。急な発熱として絶対に避けて通れない病気です。ヒトヘルペスウィルスの6番あるいは7番による感染症で、突然39〜40℃くらいの高熱が出ますが、2〜4日持続してストンと下がります。そして下がったときから発疹が出てきます。これが非常に特徴的です。熱があるときに発疹が出ると突発性発疹という診断名はつきません。好発年齢は乳児期、合併症は熱性けいれんが多いです。根本的な治療法は何もなくて対症療法だけです。多くの子供にとって初めて経験する熱性の病気です。背中の写真を見ると、風疹様あるいは麻疹様と表現される紅斑が出てきます。

( slide No. 5 )

 ヘルペスウィルス−6の感染による突発性発疹症は生後6、7カ月を中心にピークがあります。最高の体温は非常に高く、39〜39.5℃のあたりにピークがあります。発熱期間はだいたい4日間、そして発疹が解熱後に出てきます。これが突発性発疹です。乳児で高熱があれば、医者は必ず「突発疹(突発性発疹)済んだ?」と聞きます。乳児で初めての発熱となれば、我々はまず真先に突発疹を疑います。

( slide No. 6 )

 もう一つはずせない冬の熱はインフルエンザです。この秋から冬にかけて関西医大の中では未だに1例もインフルエンザを確認できておりません。もうしばらくして1月に入れば診ることになるだろうと思っています。現在では0です。

  病原体にはインフルエンザウィルスA型、B型、C型があり、日本においてはA型とB型が主流です。好発時期は1〜2月。一般のかぜと違う特徴はまず突然に少なくとも38℃以上の高熱が出ます。全身倦怠感や筋肉痛があり、全身症状が非常に強く、見た目にも非常にぐったりしています。走り回っている子供はおりません。呼吸器症状を伴います。呼吸器への飛沫の吸引あるいは接触感染で、潜伏期間は感染してから発症するまで1日〜3日と非常に短いのが特徴です。感染する可能性がある時期は発症前1日から発症後3〜5日、子供ではもう少し長くて約1週間くらいはうつすと考えられています。診断はインフルエンザウィルス迅速抗原検出キットを用いて行います。

 熱が出て2時間くらいでおかあさんと来院されて「この子はインフルエンザではないですか。調べてください」と訴えられることがよくあります。これが我々には一番困りものです。インフルエンザかもしれませんが、インフルエンザウィルスは発熱後、最低8時間、できれば12時間経たないと鼻の奥で増殖して検出できる程度までウィルス数がふえてきません。ある程度ウィルス量が多くならないとこの検査をしても検出されないことと、鼻の奥に綿棒を突っ込んで採取するので、子供に対してやりたくない検査の一つになっています。ですから熱が出て間もないときは検査をしても出ないことが多い。だいたい発病後1日の検出感度は低く、特に12時間未満、もっと言えば8時間未満の検出は非常に低くなります。

  治療は対症療法です。最近では抗インフルエンザウィルス薬が使われています。鳥インフルエンザのときにもさんざん問題になりましたが、その薬が使われることが多いです。世界で生産されている抗ウィルス薬の90%を日本がインフルエンザ治療のために使っています。欧米ではインフルエンザに抗ウィルス薬を使うことはないと聞いています。予防にはワクチン接種があります。

  よくおかあさん方はインフルエンザ脳炎、脳症の問題を心配されています。日本でインフルエンザ脳炎、脳症はだいたい年間 100〜300 例くらい起こっています。死亡率は発症すれば30%と高く、発症してから中枢神経系の症状が出るまでにだいたい 1.4日と非常に早いことがもう一つの特徴です。熱が出て1日半経つ前にけいれんを起こして意識がなくなるほど非常に早く進みます。5歳以下に好発して、多くは3歳くらいの子供にみられます。ただ非常に低い頻度の病気ですから、むやみやたらにインフルエンザを怖がる必要はないと私は思います。

( slide No. 7 )

 国ではインフルエンザの発生を定点観測しています。その過去10年分の報告数を週別にグラフにすると、早くは11月には報告され、毎年だいたい1月の終わりから2月にピークとなります。2004年の春は赤で示されるこの程度の流行でした。ことしの冬から来年の春にかけてどのように流行するのかまだわかりません。

( slide No. 8 )

 もう一つはずせない怖い病気の髄膜炎について。

  脳の解剖図を見ていただきます。これは脳の実質です。脳の表面を被っている膜が軟膜です。ここにクモ膜下腔があり、ここにクモ膜があります。この部分に炎症を起こしてくるのが髄膜炎で、昔は脳膜炎とも呼ばれていました。原因は細菌性のもの。ウィルス性のもの、結核性のもの、真菌性のものもあります。私が医者になったときに初めて担当したのが結核性髄膜炎でした。毎日腰椎穿刺をやって、何とか元気になってほっとしたのを今でも思い出します。細菌性髄膜炎には予後の問題がいろいろあります。症状として発熱、頭痛、嘔吐、不機嫌。発症して数日以内に意識障害、けいれんが出てきます。新生児ではおかあさんがおっしゃる「何となく元気がないんです」という一言で常に疑っていかなくてはならない怖い病気です。経過は急速で、早期発見と早期治療が予後を左右します。

 起炎菌は新生児と乳幼児とで違ってきます。

  ウィルス性ではエンテロウィルスという夏のウィルスや、一番ポピュラーなものでは流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因であるムンプスウィスルによるウィルス性(無菌性)髄膜炎があります。我々は大泉門の膨隆を診察のときによくチェックしています。ここが張っていると要注意です。頸を曲げようとしても曲げられない。かなり進行すると、頸を持ち上げると体も一緒についてきます。また寝かせて足をお腹のほうに持ってこようとすると痛がります。そういうときには髄膜炎の疑いを持って精密検査を始めます。

( slide No. 9 )

 次に嘔吐の話です。嘔吐にもいろいろな原因があります。回数・量が少ない場合、他に異常がなければ放っておいてもかまいません。

  回数と量が多くなると、新生児期で問題になってくるのは生後3週頃から始まる噴水状の嘔吐で、やや特異な嘔吐です。赤ちゃんの顔にどろっとかかるのではなくて文字通り噴水状にほんとうにピューと飛びます。それが起きると肥厚性幽門狭窄症を疑います。こちらに絵がありますが、胃の出口の幽門の筋肉が非常に厚くなってきて、胃の内容物の通りが悪くなって嘔吐します。薬で治療する方法と手術で狭窄部分を広げる方法があります。熱はありません。

  突然泣きだす、泣きやむを繰り返す腸重積症については後で申し上げます。それから急がないといけないのは鼠径ヘルニアの嵌頓(かんとん)です。嵌頓して戻らなくなっています。発熱が続いて項部硬直やけいれんがある髄膜炎、幼児では元気がなくて蒼白になるアセトン血性嘔吐症、急性虫垂炎も急がないといけない病気に入ってきます。

( slide No. 10 )

  続いて先程例題で挙げた腸重積症についてです。主要症状は間欠的な腹痛、嘔吐、血便です。好発年齢は3カ月〜9カ月の乳児ですね。実際にはこれが一番典型例で、回腸が大腸側にぐっと入り込んでいます。そのときに腸間膜にある血管も一緒にたくしこまれて、ここで圧迫されます。そうすると血液が腸管に酸素を運べなくなり、腸が壊死を起こして放っておくと死につながってしまいます。我々小児科医として絶対に見落としてはいけない病気の一つです。治療としては高圧浣腸をします。お尻からバリウムを入れて、だいたい1mの水の高さだけで押し戻します。この場合、押し戻せるなら空気でもいいのですが。そして無事に戻せれば手術をしなくてもよい。1歳未満で間欠的な腹痛と嘔吐と血便を見ると、腸重積症を常に考えます。

  もう一つのタイプは回腸−回腸ですが、回腸と回腸の間に同様のことが起こります。これはほんとうに診断が難しくすんなりとはいきません。

( slide No. 11 )

 超音波検査では偽腎臓サインとか腎臓様サインと言われている像が描出されます。入り込んだ様子を縦に切った画像を示しています。検査と治療を兼ねてお尻から造影剤を入れて見ると、ここに腸管がはまりこんでいます。そこでカニの爪のように造影剤が写っています。蟹爪様の陰影欠損と呼んでおります。このようなものがあればこの病気が診断されます。そして圧をかけて戻ってしまえば治療の確認になります。

( slide No. 12 )

  次に下痢の話です。例えば病原性大腸菌O157 は新聞等で騒がれ、かつて堺市で大流行しました。その他にサルモネラ菌が生卵で問題になっているのをよく見ます。こういった細菌性腸炎による下痢と冬場に非常に多くなるウィルス性の腸炎から下痢につながってくるものがあります。特にロタウィルスが問題になります。非感染性のもので常に頭に入れておかなければならないのはアレルギー性のものです。食物アレルギーによる下痢や血便がままみられます。下痢をみたときには常にアレルギー性のものを考えておくことが大事かと思います。

  12月、1月になるとロタウィルス性胃腸炎があります。このシーズンはまだロタウィルスを検出していませんが、冬場大流行します。

 このような車軸状のウィルスが便から検出されます。好発時期は冬、好発年齢は0〜1歳。主要症状は発熱、嘔吐、下痢です。便の色は淡黄色から白色で、先程の例題に出たように鼻を突くような酸臭があります。合併症は何をおいても脱水症です。良性の乳児けいれんを起こしてくることもあります。治療の原則は脱水症の予防と治療で、特にロタウィスル胃腸炎の根本の治療になってきます。

( slide No. 13 )

  脱水症について。ここに新生児、乳児、幼児〜成人の絵がありますが、新生児の全体重の8割、幼児〜成人になると体重の6割が水です。したがって小さな子供ほど脱水症を起こしやすくなります。

  どんなときに脱水症が起こるかその原因を見ると、まず水分摂取ができなくなるとき。例えばロタウィスルに感染して嘔吐が強いために水やミルクが飲めないときです。熱があると体から大量に水分が失われます。嘔吐と下痢が重なると水分が体から出ていきます。腎臓からも喪失します。特に新生児期では濃いおしっこにする能力がまだ未熟なので、水分を体の中にためるような指令が出てもそれに応えられない。新生児期では腎臓機能にからんだ脱水症があります。皮膚からも水分が喪失します。高温多湿下では発汗が多くなったり、やけどなどによって喪失します。このような原因で脱水症になってきます。いかにこの脱水症を是正するが大きな問題となります。また、脱水症だけでも高熱が出ます。

( slide No. 14 )

  脱水症の程度をみるために体重から計算式で出しています。

(元気なときの体重−しんどいときに体重)÷元気なときの体重×100(%)

  これでどの程度体重が減っているかパーセントで表すことができます。脱水症が認められると、いつもおかあさん方に「元気なときのこの子の体重は何kgですか」と尋ねて、そのときの体重からおおよその重症度をみています。その重症度の程度は乳児と年長児で違いますが、乳児では5%以下を軽症、5〜10%を中等症、10%以上を重症としています。日頃の元気な時の体重を知っておいて下さい。

  その重症度がわかりにくいときには症状から判断します。皮膚はピーンと張っているかへこみやすいかという皮膚の緊張度、青白いか斑点状かその色調、四肢は冷たいかひんやりしているか、口唇の粘膜はからからになるほど乾燥しているか、脈は正常か早いか、血圧は低いか普通か、尿量はどうか。おしっこの量についてもおかあさん方に尋ねています。口の渇きも軽度から強度まで。泣いているときに涙が出ているとまだ安心です。涙が出なくなるとかなり進んでいるとみます。大泉門がへこんでいるかどうか。髄膜炎のときは腫れてきますが、脱水症のときにはへこみます。これらも大きな観察ポイントです。

( slide No. 15 )

  最後の one point lesson です。

(1) とにかく全身状態をよく見よう。そのときに意識はどうか。意識レベルはウトウトなのか、全く元気なのか。特に意識のチェックを忘れないでください。
(2) 熱の高さは病気の重さを表しません。例えば突発性発疹の熱の高さはピカ一ですが、病気の重さからみればそれほど重い病気ではありません。おかあさん、あわてないでください。
(3) 生後3カ月未満の子供の発熱は要注意です。病院が開いていればその日に、病院が休みなら遅くとも翌日の朝には必ず連れていってください。
(4) 次々と出てくる症状に気をつけよう。次にどんな症状が加わるか、嘔吐が加わるとか、そういった次々出てくる症状をメモしていただくと非常に役立ちます。
(5) 発熱、嘔吐、下痢を見たときには常に脱水症の出現が大事になります。脱水症をうまくコントロールしないと熱も下がらないし状態が悪化します。子供と脱水症は非常に大事な関係にあるので、日頃の体重をチェックしておいてください。
(6) 嘔吐と下痢、その性状と回数は? 何回くらいもどしたり下痢しているのか、これは非常に大事です。それに何かおかしいと思ったら便も吐物も見せてください。それが百の言葉よりも我々には役に立ちます。

( slide No. 16 )

  急いで病院に行かなくてはならない病気、少しは家でみていてよい病気、この判断はおかあさん方には非常に難しいと思います。実際にほんとうに難しいと思います。今回いくつかのチェックポイントをお話しいたしましたが、きょうの話が少しでもおかあさん方、そして保護者の方々のお役にたつなら幸いです。ご静聴ありがとうございました。


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