関西医科大学第7回市民公開講座 |
「いびきと睡眠時無呼吸症候群−こども、おとうさん、大丈夫ですか?」 |
岩井 大(関西医科大学附属洛西ニュータウン病院耳鼻咽喉科部長) |
平成16年(2004年)12月18日(土) |
ホテル京都エミナース |
司会(栗本
匡久・関西医科大学附属洛西ニュータウン病院病院長) |
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司会(栗本 匡久・関西医科大学附属洛西ニュータウン病院病院長)
いびきと睡眠時無呼吸症候群について岩井先生にお話をしていただきます。睡眠時無呼吸症候群というのは昔はあまり関心を集めていなかったのですが、新幹線の運転手が突然居眠りをした事件から関心が急速に高まってきました。いろいろな病気の一つの遠い原因になりうるということと子供にもありうるということ、詳しくは今からお話がされると思います。
岩井先生をご紹介します。岩井先生は耳鼻咽喉科の専門医であり、さまざまな学会でも活躍中です。耳鼻科領域のみならず耳鼻科領域の一つである頭頸部の外科に非常に堪能です。洛西ニュータウン病院には平成15年9月から着任されて、現在部長として活躍中です。それでは岩井先生、よろしくお願いいたします。
岩井(関西医科大学附属洛西ニュータウン病院耳鼻咽喉科部長)
( slide No. 1 )
小児科の荻野先生は「おかあさん、こんな時どうしますか?」という副題をつけておられましたが、こちらでは「こどもとおとうさん」にしてみました。ここで大事なのは「大丈夫ですか」です。ほんとうは「大丈夫ではないのではないですか」という意味を含めています。きょうは大丈夫ではない怖いお話をしてみたいと思います。
( slide No. 2 )
新聞の写真です。 広島県呉市で船が陸に登ったという話は1カ月前のことですから覚えていらっしゃる方も多いと思います。船頭多くして船山に登ると言いますが、陸に登るには船頭はたくさん要りません。操縦士がちょっと居眠りしただけで大きな事故が起こってしまいます。たいへん怖い居眠りですが、これも睡眠時無呼吸症候群と関係があります。
( slide No. 3 )
いびきと睡眠時無呼吸症候群。昔からいびきをかいて寝ている、スヤスヤ寝ているというのはよく寝ている指標のように皆さん思われていたでしょう。確かにいびきはよく寝ているという面がありますが、いびきをかく人の中に睡眠時無呼吸症候群という病気があって、それがいろいろな合併症を起こすことがわかってきました。
( slide No. 4 )
さて、この睡眠時無呼吸症候群というのはどういう病気でしょうか。睡眠中に無呼吸、低呼吸を繰り返し、その結果、種々の症状を呈する疾患の総称です。息が止まったり、呼吸をしていても酸素を十分吸っていない、そして血中の酸素濃度があまり高くならない、そういうふうな無効な呼吸がたびたび繰り返されるのを睡眠時無呼吸症候群と呼んでおります。
( slide No. 5 )
それは閉塞性、中枢性、混合型の3つに分類され、ここで取り上げるのは閉塞性です。上気道は鼻、口、舌など喉仏より上の部分をいいますが、そこを閉塞することによって呼吸障害が起こります。閉塞性が一般的な睡眠時無呼吸症候群です。中枢性は酸素が少なくなると呼吸しなさいと指令する脳の呼吸中枢に支障があって起こる機能障害です。そして、もう一つはこれらの混合型となります。今回はわざわざ閉塞性睡眠時無呼吸症候群と申しませんが、閉塞性の無呼吸症候群について話をいたします。
( slide No. 6 )
まず表題にもありましたように、いびきと睡眠時無呼吸症候群のうちのこどもの場合。乳幼児と小児についてお話しします。
( slide No. 7 )
原因としてまずアデノイド増殖症。後で詳しく説明いたしますが、鼻の奥が詰まって鼻づまりになった状態です。もう一つ、扁桃肥大でも同じように喉が狭くなってきます。これが2大原因です。
( slide No. 8 )
ではアデノイドと扁桃とはどういうものか。これは大人の側面像ですが、扁桃が大きくなると鼻からも口からも呼吸ができず、これによっていびきが生じます。アデノイドは大人になると普通退縮して小さいのですが、子供では口蓋垂(のどちんこ)の上のところのアデノイドが非常に大きく腫れることがあります。これがアデノイド増殖症です。こちらが扁桃肥大です。
( slide No. 9 )
レントゲン像を見ておわかりになるでしょうか。これが先程の扁桃です。空気は黒く写ります。ここに空気が入っていますが、ここに大きな扁桃があります。アデノイドを点線で描いていますが、これが正常のラインです。ともに肥大して空気はここをちょろっと通っているだけでほかは詰まっています。この子は扁桃肥大とアデノイド増殖が重なって鼻呼吸ができない、口呼吸もできないという非常につらい状態です。普通にしていると息ができないので、舌をちょっと前に出して口呼吸をしています。
( slide No. 10 )
扁桃肥大とはどういうものか。左図が正常の人です。口蓋垂があってこれが扁桃です。ここでごはんを食べたり口呼吸もできますが、右図のように扁桃が左右とも大きくなって、この子の場合はほとんど口呼吸です。この三角形のすきまで呼吸をしているようなものです。
( slide No. 11 )
これが典型的な顔貌、表情です。まず鼻が詰まっているので口呼吸をします。いつも口を開けていますので、口を閉じる筋肉が弱って上唇が富士山のようになります。口を閉じる筋肉が弱って口の周りが盛り上がる魚のようなもわっとした唇。眼と眼が離れます。最近はご本人の顔を載せられませんから写っていませんが、全体的に締まりのない顔になります。これが典型的なアデノイド増殖症の表情です。
( slide No. 12 )
アデノイドが大きくなると合併症が出てきます。私たちは鼻をかむと耳にツーンときます。耳管を通って鼓膜の裏まで空気が入るからですが、アデノイドが増殖するとその入り口(耳管咽頭口)がアデノイド増殖によって圧迫されて空気が入っていきません。そのために中耳炎を起こしてきます。
( slide No. 13 )
これは耳の絵ですが、音がくると鼓膜が振るえます。続いて3つの小骨が振るえて内耳にある水を振動させて音として聞こえます。この外耳と鼓膜の裏の空気が同じ圧のときに鼓膜はよく振動します。そこに空気を入れるのが耳管です。ところがこの耳管がアデノイドで閉塞するとここに空気が入りません。陰圧になって水がたまって滲出性中耳炎になります。ですからアデノイドの子は聞こえが悪い。
( slide No. 14 )
小児での症状は(1) 鼻づまり(鼻閉)。(2) 扁桃があれだけ大きいからごはんがなかなか食べられない、ゆっくりしか食べない。(3) よく寝ているけどもなかなか起きてこない。ただし大人と違って子供はそれほど眠気を訴えません。子供はだいたい朝早く起きて飛び回っているものですが、「14時間くらい寝ています」という子供もいました。(4) 注意力欠如や多動。(5) うつらうつら眠るので夜尿。熟眠している間に成長ホルモンが分泌されますが、(6) 睡眠障害によってホルモンが分泌されず身長がなかなか伸びない。そして(7) 滲出性中耳炎、耳が遠いという症状が出ます。
( slide No. 15 )
乳幼児の症状はちょっと違います。(1) 鼻づまり。おっぱいを吸うときは口で呼吸できませんから、乳幼児は本来鼻呼吸です。ですから鼻呼吸ができないと(2) 哺乳障害になります。おっぱいが十分飲めないので(3) 体重増加の不良。それから息を吸おうとして一生懸命胸をふくらますのに、鼻や口から空気が入ってこないので、お腹のほうがへっこんでしまう(4) 陥没呼吸になってしまいます。
( slide No. 16 )
この病気の診断は顔を診る、鼻が詰まっているかどうかを診る、細いファイバースコープ(内視鏡)で鼻の奥をのぞく、レントゲンを撮って強い扁桃肥大やアデノイドがあるかどうかなどを診ます。睡眠中の5秒以上の呼吸停止が1時間で数回、一晩で5〜10回あるかどうか。大人では1時間に20回以上になると危険だと言われますが、子供では数回あるだけで異常と考えています。
( slide No. 17 )
この治療法としてアデノイド増殖症には切除術です。手術は10秒、外来で採ることができます。一応一泊二日入院していただきます。扁桃肥大に関しては摘出術です。全身麻酔でしっかりと手術をして術後管理をします。約10日間の入院となります。扁桃肥大があってこの手術をする場合、アデノイド増殖症とそれに合併してくる滲出性中耳炎があればそれについても手術します。中耳炎に対し鼓膜に小さな孔を開けて(鼓膜切開をして)水を出したり、ストローのようなチューブを留置して換気をよくします。
アデノイドが大きくなると鼻が詰まって富士山のような唇になると言いましたが、小学校に入るまでに手術をすると顔はかなり元に戻ります。しかし小学校過ぎてから手術をすると締まりのない顔はずっと続きます。ですから早めに手術をしたほうがよいかと思います。
( slide No. 18 )
次に睡眠時無呼吸症候群の大人の場合を考えてみます。
( slide No. 19 )
習慣性いびきの頻度をみると男性は5人に1人 (21.3%) 、女性はその 1/3、 7.6%です。この習慣性いびきの中に睡眠時無呼吸症候群が隠れています。男性は 3.3%、女性は少ないです。おしなべてみると、この症候群は人口の2%です。いびきをかく人の中に睡眠時無呼吸症候群の人が隠れています。
( slide No. 20 )
人口の2%、全国で 200万人が睡眠時無呼吸症候群であると言われています。しかしひとりで寝ている方、自覚のない人も含めるとこの数倍いると考えられています。そしていつの間にか合併症である生活習慣病が進んでいる可能性が考えられています。
( slide No. 21 )
ここで睡眠障害について説明いたします。ちゃんと眠れない人はすべて睡眠時無呼吸症候群というわけではありません。うつ病の方、不眠症ももちろんそうですし、いろいろある中で睡眠時無呼吸症候群は一つの睡眠障害に分類されています。
( slide No. 22 )
健康な睡眠とはどのようなものか、脳波から分類してみます。人間のような高等な動物の睡眠には大きく分けてレム睡眠とノンレム睡眠があります。健康な人はほぼ90分周期でレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返しています。レム睡眠は夢をみているときの睡眠で、脳波は起きているときと似通っています。まぶたの下で目が動くのが観察できることから rapid eye movement(REM)、レム睡眠と名付けられています。ノンレム睡眠では、脳波をみると最も浅いまどろみの状態からぐっすり眠っている熟眠までいろいろあります。睡眠時無呼吸症候群ではこの2つがやられてしまいます。
( slide No. 23 )
これが健康な人の睡眠です。レム睡眠、ノンレム睡眠。下にいくほど深い眠りです。眠りはじめてまず深いノンレム睡眠が出ます。そして朝方になるとレム睡眠が出てきます。それでもこれは目が覚めた状態ではありません。このような波形が健康な人の睡眠です。
( slide No. 24 )
ところが睡眠時無呼吸症候群の方の脳波のパターンを見ると、ノンレム睡眠がない、それからレム睡眠が小さくあるだけです。つまり無呼吸が起こって酸素が不足して苦しい、脳が何度も起きて熟眠できていません。
( slide No. 25 )
大人の原因もやはり子供と同じように喉が狭くなることから発症しますが、アデノイドは大人ではまず萎縮しているので、これが原因になるとは少ないです。扁桃肥大。慢性扁桃炎、タバコを吸う人には多いかもしれません。肥満と関係して舌や上気道に脂肪が沈着したり舌が重くなって落ちたり(舌根沈下)、それによって上気道が狭くなります。これはアメリカ人に多い。日本人では肥満と無関係に舌の筋肉がたるんで喉に落ち込むことで上気道を狭くすることも多い。
( slide No. 26 )
肥満になるとここに脂肪がたまってきます。そうするとここに落ちて喉が狭くなります。日本人でアメリカ人より比較的多いのが筋肉弛緩です。筋肉がゆるんでペターと落ちてきます。お酒を飲んで泥酔したときも筋肉が弛緩するので、この状態になっているかもしれません。扁桃肥大をしている人では扁桃がぺたっと後ろに当たって睡眠時無呼吸症候群が起こります。
( slide No. 27 )
これは平成15年3月12日の新聞記事です。力士の半数は睡眠時無呼吸症候群と書かれています。それからこの記者は、成績まで調べあげています。普通体重が重ければ重いほど勝率が高くなるそうですが、睡眠時無呼吸症候群の力士は体重が重くなってもかえって勝率が下がります。5割を切っていると書かれています。
( slide No. 28 )
大人の睡眠時無呼吸症候群の症状は、いびき、呼吸が止まる、熟眠感がない。起床時の頭痛は割合多い症状です。それからもちろん日中の傾眠、ふーっと寝てしまいます。
( slide No. 29 )
傾眠とは何か。普段十分な睡眠を取っているつもり、一生懸命寝たつもりでも、映画館、講演会、会議、コンサートなど昼間に寝てしまいます。重要な仕事中や運転中にも寝てしまいます。重要な仕事中というのは大事です。この症状の強い方は普通に話をしていてもほんとうにすーっと寝てしまいます。
( slide No. 30 )
ノンレム睡眠・レム睡眠がなくなって途切れた眠りになるといったい何が起こるのか。交通事故。昼間の眠気。集中力がなくなって記憶力の低下。性格の変化。うつ状態。どのような状況かと想像するとなかなか厳しい現実が見えてきそうです。例えば明日までに仕上げなければならない仕事ができない、仕事の成績が下がってやる気がなくなる、みんなから非難される、昔は元気だったのに元気でなくなる、うつ状態になる等々、いろいろなことに影響してきます。
( slide No. 31 )
これは新幹線の運転手の居眠りに関する記事です(2003.02.27)。最高時速 270kmで8分間、自動制御で停止させて車掌に起こされて初めて目が覚めたというので有名になりました。
( slide No. 32 )
こちらは裁判中に裁判官が居眠りをしたときの記事で(2001.03.05)、埼玉県の女子大生殺傷事件の公判中に居眠りがあり、全くシビアな内容にもかかわらず判事が居眠りをして出席者が怒ったという話です。日本ではこのような記事で取り上げられて広まりましたが、アメリカではかなり前から取り上げられています。
( slide No. 33 )
アメリカでは日本よりずっとたくさんの報告が出ています。スリーマイル島の原子力事故、スペースシャトルにも多いんだそうです。こちらの記事は1995年のスター・プリンセス号のアラスカ沖座礁事故。石油が漏れて大変なことになりました。交通事故の多発。家庭内不和。学校で居眠りし、いじめに遭う。成績が下がる。朝起きると遅いので学校にも行かない。いじめに遭うから嫌と。いろいろなところに影響が出てきます。
( slide No. 34 )
これは睡眠時無呼吸症候群と交通事故の関係を調べたものです。模擬運転装置は何ということはない、ゲームセンターの車の運転で、一定時間内の衝突回数でみています。正常群は 100回くらいしからぶつからないのに対して、飲酒群では 180回、睡眠時無呼吸症候群では 250回くらいです。この論文では睡眠時無呼吸症候群のほうが飲酒群よりも衝突回数が多い、飲酒運転よりも睡眠時無呼吸症候群のほうが怖い、より運転事故を起こしやすいと述べています。
( slide No. 35 )
平成13年の道路交通法改正(平成14年実施)に睡眠時無呼吸症候群が日本でも遅ればせながら認められました。免許の拒否、保留、取消または停止の対象となる病気の中に「重度の眠気の症状を呈する睡眠障害」、また免許申請時及び更新申請時に申告する症状の中に「十分な睡眠時間をとっているにもかかわらず日中活動している最中に眠り込んでしまうことが週3回以上ある方」が入りました。
( slide No. 36 )
ではどういうことから睡眠時無呼吸症候群の合併症が起こるのか考えてみましょう。
睡眠時無呼吸症候群になると熟眠障害が起こります。昼間眠い→缶コーヒー症候群。なかなか目が覚めない、眠いので何個も缶コーヒーを飲み、甘い缶コーヒーを飲むと肥満に近づきます。眠い→運動しない→肥満になるというルートも考えられます。眠い→口を動かしていると目が覚める→過食→脂肪燃焼障害。それから寝ている間にホルモンが出ますが、熟眠障害→ホルモン分泌障害→肥満になったり、また肥満でなくても糖尿病になったりすることがあります。眠い→目を覚まそうとしてタバコを吸う→喫煙の増加。
もう一つの大事な症状に睡眠時無呼吸によって血中の酸素濃度が減ることがあります。臓器は酸素がほしいので、少ない酸素をできるだけ供給しようとして心臓が一生懸命働く→心臓が肥大する。心臓が一生懸命働く→高血圧になる→さらに酸素が不足するので虚血性心疾患や脳血管障害。こういったルートを経て生活習慣病が現れてきます。
( slide No. 37 )
高血圧は健康な人に比べて3倍にふえます。心疾患は報告によって違いますが、 1.2〜6.9 倍。重症の人は肥満であってもなくても糖尿病を合併する可能性があります。脳卒中は10.8倍と言われています。非常におそろしい、しかし今まで私たちがあまり知らなかった病気でもあります。
( slide No. 38 )
これは睡眠時無呼吸症候群の患者さんが8年後にはどれだけ生存しているかを示すグラフです。有名な報告です。重症の睡眠時無呼吸症候群では生存率は63%、逆に言えば37%も死亡しています。軽症なら生存率は95%で大したことはありません。高血圧、心疾患などいろいろな病気を合併していると、睡眠時無呼吸症候群で死亡したというのではなくて、脳血管障害や心筋梗塞で死亡したと片づけられるかもしれませんが、ほんとうは睡眠時無呼吸症候群があってそうなった可能性があります。
( slide No. 39 )
睡眠時無呼吸症候群にならないために、まず初めに自分の生活を見直しましょう。眠れないから睡眠薬を使うことも考えられますが、これはお酒を飲むのと同じで、かえって筋肉が弛緩して喉を狭めるので無呼吸になる可能性があります。また、肥満は大敵です。肥満で舌根が沈下してきます。ですから一生懸命やせましょう。ただし睡眠時無呼吸症候群になると脂肪が燃焼しないし、一方では昼間は眠いので運動しない、かえって太ってしまうという両者は相関している場合があります。
( slide No. 40 )
睡眠時無呼吸症候群と診断するためにまずアンケート型の自己診断をしていただきます。エップワースというアメリカの病院で作られた有名な表をレジュメに載せていますので、休憩時間にされたと思います。座って読書をしているときに眠くなることは「ない」0点、「時に」1点、「多い」2点、「いつも」3点として日中の眠気重症度をチェックします。テレビを見ているとき、会議中や映画館で座っているとき、他人の車に1時間以上同乗中、午後横になっての休憩中、座って誰かと話をしているとき、昼食後静かに座っているとき、自分で車を運転中信号待ちのとき。皆さんどうですか。
( slide No. 41 )
検査と治療の実際。(1) 外来受診、(2) 入院検査、(3) 治療法の決定の順に進んでいきます。こんなことでなぜ入院して検査をしないといけないのかと思われますが、睡眠中の検査ですからどうしても夜間のデータが必要になります。
( slide No. 42 )?
まず外来受診時に眠気、いびきの程度、生活習慣、高血圧などの合併症に関して問診を行います。先程の眠気重症度テストも行います。次にどこで気道が狭くなっているか責任部位を確定します。鼻から喉までのファイバースコープによる内視鏡検査やレントゲン、MRIなどをするかもしれません。疑われる場合は入院検査になります。病院によっては簡易検査をするために器械を貸し出して自宅で体につけて行う場合もあります。重症以外では見落としたり端子が外れていたりして信頼性に欠けることがあり、うちのところでは主に入院検査をしています。
( slide No. 43 )
ポリソムノグラフィー polysomnographyで一度に多くのことを検査します。呼吸をしているかどうか回数を測ります。動脈血の酸素飽和度はどうか。体位センサー。なぜ体位センサーが要るかというと、寝返りをうつときは割合息を止めます。ですから寝返りを1時間に5回すると5回息を止めているので、その回数分を割り引いて考えなければなりません。それから心電図。また、血中酸素濃度が少ないと心臓が暴れ出して不整脈を起こすこともあるので、不整脈の有無も調べます。胸とお腹の動きは呼吸と連動しているか。それから脳波検査。このような検査を寝ている間に行います。
( slide No. 44 )
実際にはこれだけの検査用端子が体に付きます。鼻にもセンサーが付きます。たいへんです。最初の1時間、2時間は遠慮しつつ寝返りをしますが、深夜になると日頃の眠りになります。これで眠れるのかと思いますが、まず一泊で検査はしっかりできます。この症候群は働きバチの方が多いので、どこの病院でも翌朝早々に退院し、病院から出勤できるように配慮しています。
( slide No. 45 )
呼吸が10秒以上停止する無呼吸と血中酸素濃度が低下する低呼吸が睡眠中に何度も起こると睡眠時無呼吸症候群と診断されます。AHI(asleep apnea hypopnea index:無呼吸低呼吸の指数)に従って1時間に20回以上呼吸が異常を起こしたときに治療を開始します。30回を超すと不整脈が起こるので重症のサインと言われています。
( slide No. 46 )
耳鼻咽喉科のスタッフの紹介をここでしておきます。写真の中のこれは私です、こちらは井上先生。最近こちらの病院に来た金子先生、ちょっと緊張しています。島野先生。そして看護師の方々です。この人たちが洛西ニュータウン病院の耳鼻咽喉科です。
( slide No. 47 )
ではどのような治療をするのか。
( slide No. 48 )
CPAP(経鼻的持続陽圧呼吸法)が第一選択になります。生活指導、鼻が詰まっているときにはその治療もします。またアデノイド増殖症で詰まっているような重症の場合には手術をします。ですから内科的治療と外科的治療があります。
( slide No. 49 )
これがCPAPです。できれば覚えてください。鼻マスク式の持続陽圧呼吸法で閉塞性睡眠時無呼吸症候群の第一選択となっています。
( slide No. 50
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このように装着します。
( slide No. 51 )
寝ているときに鼻と口にマスクをして陽圧をかけることによって舌が前に出て広くなります。そこで陽圧の空気を送り込んで上気道を閉塞しないようにします。こんな器械を装着して眠れるかと思いますが、重症の人はこの器械を使用するとほんとうに手放せなくなります。ほんとうに寝られるようになった、これがあって嬉しいとおっしゃいます。大きさはこれくらいです。最近はもう少し小さい機種が出ています。僕の友人でも出張のときに荷物を一つ多くしてまで持って行く程、重宝しています。費用はレンタルでは3割負担で月4500円です。割合高いかもしれませんが、この症状と診断された人は全く手放せないとおっしゃいます。
( slide No. 52 )
内科的治療には鼻から空気を送り込むCPAPが第一選択ですが、その前に鼻が詰まっていると具合が悪い。蓄膿症、鼻茸(鼻ポリープ)、鼻中隔弯曲、扁桃肥大、子供ではアデノイド、そのようなことが原因で鼻づまりの症状があると、外科的な手術が必要です。
( slide No. 53 )
極端に喉が狭い場合には口蓋垂軟口蓋咽頭形成術(uvulopalatopharyngoplasty:UPPP)をします。扁桃をとる、ここを広くするためにさらにとる、縫い付ける、広げる、口蓋垂を少し切る等の手術です。ただしこの病気の先進国であるアメリカではこの術式がさんざんされましたが、成績はあまりよくありません。やっても再び狭くなったり奥に落ち込んだりして、この手術の効果は比較的少なく、半分くらいで、この手術をする患者さんは比較的減っています。一方、子供の扁桃肥大の場合には大事な手術です。
( slide No. 54 )
治療によってどう変わるか。まず脳波はここでノンレム睡眠が出てきます。レム睡眠も出てきて、良質の睡眠になっています。苦しいと寝返りをします。横に向くと舌が落ち込まないので、横に向きたくなります。上を向くといびきがでます。治療後には寝返りがほとんどなくなりました。そして酸素不足も全くなくなりました。正常の人でもいびきを少々はしますが、いびきがかなり減り、無呼吸もなくなりました。治療の結果、この方は一晩で大喜びでした。
( slide No. 55 )
治療の効果をみると、睡眠の質がよくなる、眠気が消失する、日中の活動が増加して、元気になって体重は減少します。仕事も活性化してきます。夜中に眠れなくてトイレに立っていたのが減ってきます。高血圧などの合併症が消失します。まさにいいことだらけです。
( slide No. 56 )
先程の模擬運転のゲームでも、治療前これだけ衝突回数が多かったのに、治療後は正常人とほとんど同程度まで改善しています。
( slide No. 57 )
これはCPAPによって生存率がどのように変化したか、その成績です。未治療群は6割ぐらいですが、CPAPをすると6年経過してもほとんど死亡していません。統計学的な有意差をもって違ってきています。
( slide No. 58 )
睡眠時無呼吸症候群は眠りを破壊します。生活を破壊します。生活習慣病や合併症と密接に関係します。社会的にも悪影響を及ぼします。肥満、高血圧、心疾患、脳卒中、事故、短命などにつながるたいへん怖い病気の一つですから、心当たりの方は早期に受診していただければと思います。