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関西医科大学第7回市民公開講座
「かぜと花粉症 −アレルギーに悩むあなたへ、恐れるあなたへ」
久保 伸夫(関西医科大学附属男山病院耳鼻咽喉科部長)
平成17年(2005年)1月15日(土)
八幡市立生涯学習センター
司 会(豊 紘・関西医科大学附属男山病院長)

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 司会(豊紘・関西医科大学附属男山病院長)

 それでは早速市民公開講座に移ります。まず最初に「かぜと花粉症−アレルギーに悩むあなたへ、恐れるあなたへ−」という表題で男山病院耳鼻咽喉科部長の久保伸夫先生にお話をしていただきます。久保先生は昭和60年関西医科大学大学院を修了されて平成11年に関西医大耳鼻科助教授、平成12年に男山病院耳鼻咽喉科部長になられています。アレルギーや花粉症について全国的に有名な先生ですので、このシーズンになると花粉と一緒に全国に飛び回っております。男山病院の外来もたいへん忙しくなっております。それでは久保先生、よろしくお願いいたします。

 久保(関西医科大学附属男山病院耳鼻咽喉科部長)

( slide No. 1 )

 ことしは花粉飛散が非常に多い年で、近年では最高の飛散ではないかと考えています。元々関西はスギ花粉飛散の少ない地域なのですが、ことしはこれまでと全く違った実態になると思います。

  きょうは一つにはインフルエンザを中心とする上気道の炎症について。かぜと花粉症はいずれも上気道の炎症疾患で類似したところがあります。共通のキーワードの一つとして私が開発しているマスクをどのように使えばよいかを含めて、上気道の炎症を中心にお話ししようと思います。

( slide No. 2 )

 上気道は鼻からつながった空洞をさします。鼻の周囲には副鼻腔という空洞と中耳腔という空洞があります。どちらも鼻と小孔や管でつながり先が広がったフラスコ構造をしています。口が下にあり逆さまに向いている中耳腔と前頭洞というフラスコと口が上にあり上を向いているフラスコとがこういう位置に配置されているのが上気道の特徴です。副鼻腔に膿がたまると蓄膿症になり、中耳腔に膿がたまると中耳炎になります。

( slide No. 3 )

 耳は耳の一部ですが、もともとは喉の一部です。耳管咽頭口から伸びる耳管の先端が膨らんで中耳になります。外耳は皮膚の一部であり、内耳は神経の一部で、中耳は呼吸器の一部になります。したがって中耳腔も発生学的には上気道に属します。ほとんどの中耳炎は鼻から感染します。

( slide No. 4 )

 生まれたときには副鼻腔は存在しません。これはお腹から出てくるまで顔(脳から下の頭)は必要なく、そのため産道を通ってから顔は成長していきますので、副鼻腔も0歳から12歳くらいまでどんどん成長していきます。つまりもともとは小さな入り口しかなく、空洞部分は後から成長しやすい方向にできてくるので、最終的にフラスコ構造を持つようになります。

  フラスコ構造ですから、こちらの倒立(逆立ち)したフラスコ構造ではいったん膿がたまってしまうと、一升瓶に水をいっぱい入れて逆さまにしたような感じで、中の圧力でなかなか落ちてこなくなります。逆に上向きのフラスコ構造では重力に逆らって中身を排泄しないといけないので、線毛運動といわれる機能がないとこれは維持できません。

( slide No. 5 )

 人間の上気道は他の動物と比べて気道感染をしやすい(かぜを引きやすい)、また蓄膿を起こしやすい構造になっています。人間は直立しているので、上向きフラスコでは重力に逆らって排泄をしなければならないということと、手で鼻をかむために周囲の空洞に炎症が広がりやすいという2つの不利な条件を持っています。

( slide No. 6 )

 さらに最大に不利な条件は、人間は前脳が発達したために、チンパンジーなどと比べると脳が鼻の上にあることです。ほとんどの動物の鼻は脳の前にありますが、人間に関しては脳が鼻を押しつぶしている形です。嗅覚を含めて人間の鼻の機能は脳の進化の犠牲になり退化しています。

  さらに樹上生活に対応するために目も前方に出ています。両眼視という両方の眼で同じものを見る機能は人間のかなり特異な機能です。例えば魚は体の両側についているので、左右で全く違うものを見ています。蛙も頭に眼がついているので、前方は左右でだぶって見ているとしても側方では左右で違うものを見ているに違いないのですが、人間は左右の眼で同じものを見る機能を持っています。そうしないと遠近感が得られず木から落ちてしまうので、両眼が前に出て、しかも鼻が邪魔なので退化してへこんできています。鼻のいくつかの機能は非常に退化しています。樹上生活への対応は人間の進化において非常に重要で、例えば声が出るというのも基本的には樹上生活への対応の結果です。

( slide No. 7 )

 鼻は脳の下にあるために鼻中隔(鼻の中心線)はどちらかに曲がる傾向があります。ほとんどの方はどちらかに曲がっていますが、その程度によって鼻中隔弯曲という病名がつきます。加齢すれば、軟骨が骨に変化するため、彎曲の程度はひどくなります。

( slide No. 8 )

 人間の鼻は脳に圧迫されたためにいくつかの機能が退化していますが、基本的に鼻には吸い込んだ空気を加温・加湿して下気道を通って肺に送る働き、肺に入ったゴミを取り除く異物排除、嗅覚、それから臭って不利な条件に出会うと呼吸制御をするために一酸化窒素を作って肺に供給するという4つの機能を持っています。

  加温・加湿の機能に関して、鼻粘膜には海綿静脈洞という陰茎と同じような構造があります。吸気を加温・加湿する目的で、鼻内の表面積を拡げるために、甲介という骨が突出しその周囲の粘膜が発達していて熱交換をしますが、その構造は鳥や他の哺乳類に比べて非常に単純になり、熱交換機能は低下しています。異物排除機能は直立していると非常に不利なのですが、手で鼻をかむという機能が追加されています。また線毛運動機能は強化されています。嗅覚はご存じのように犬の十万分の一まで退化しています。このように人間の呼吸器は他の動物とは違うハンディキャップがあります。それを補うためには、異物排除機能が非常に重要です。

( slide No. 9 )

 前脳が発達することによって鼻が退化して嗅覚、加温・加湿機能が落ちています。直立するために重力に逆らって異物を排泄する必要があるので、線毛運動機能が強化されています。手で鼻をかむというのは非常に有利なのですが、それによって中耳炎や副鼻腔炎になりつづけるという反面もあります。鼻が詰まるというとき、ほとんどは粘膜が腫れているのであって、鼻水がたまっているわけではありません。ですから鼻をかんでも鼻は通らないのですが、粘膜が腫れているにもかかわらず1回で通らなければ、2度3度続けてしまいます。それ以上かむのは無意味なのですが、結果的に圧力が逃げ場を失って中耳炎や副鼻腔炎を多発してきます。耳鼻科に来る患者さんの7割くらいはこの行動によって発症しています。

( slide No. 10 )

 気道粘膜全体は線毛で被われ、この毛がムカデの足のように動くことよって、その上に乗っている粘液層を移動させていきます。ちょうどベルトコンベアーのベルトのようなもので、この上に乗っている花粉やゴミを喉のほうに送っていきます。人間はそれを飲み込んだり痰として吐き出したりして線毛を維持しています。この線毛運動は非常に重要で、だいたい4時間あれば肺に入っているものは排泄されます。ただこの速度が遅くなると花粉やウィルスは粘膜中に落ち込んで、感染したりアレルギー反応を起こします。

  この速度を遅くする最大の要因は乾燥と低温です。特に冬に気道感染が増加する一つの原因はこの線毛運動が低下することにあります。先天的に線毛運動が低下している病気、Kartagener's syndrome (カルタゲナー症候群)の患者さんは肺の慢性気管支炎、気管支拡張症、慢性副鼻腔炎、蓄膿症を必発します。それ以外に精子の線毛も動かないので男性不妊症などいくつかの合併症を持ちます。線毛運動は人間の気道を守る働きの最上位にあるので、この機能が落ちると必ず病気になります。それが人間の場合、重力に逆らって運動しないといけないので、回復するのに非常に不利な状況にあります。

( slide No. 11 )

  線毛の表面では線毛の先が乗っかっている粘液層をムカデの足のように引っかいて動かしていきます。粘液層はいわば使い捨てのベルトで、この上に乗っているゴミを喉に向かって排泄します。この粘液の分泌量は1日1〜1.5リットルに達します。

( slide No. 12 )

 異物排除には人間の場合、ほぼ3つの機能があります。鼻に入った体に有害なもの、例えばコショウやウィルスをくしゃみや鼻水で外に出す緊急排除機構としての働き。別に人間にとって危険ではないもの、例えば花粉、ほこり、ダニなどを4、5時間かけてゆっくり喉へ向かって出していく線毛運動。それ以外に手で鼻をかむという排除方法があります。

  花粉症患者さんの場合、自分にとって有害でないものも緊急排除機構を使って排泄しようとするところがまず病気です。従ってくしゃみや鼻水は、生理上不可欠な神経反射で、これがなければ、手で鼻をかめない動物は死にます。くしゃみや鼻水がこの病気の本質ではなくて、花粉やゴミやダニが自分にとって有害だと認識することがこの病気の本質です。これを寛容性の低下と呼んでいます。寛容性が低下すれば宗教でも社会でも暴力的になり排他的になります。全く同じ現象が人間の免疫系でも起こっています。ただどうしてこれがスギの花粉であってマツの花粉でないのか、ということについてはよくわかっていません。一つにはスギ花粉やダニはここ30年間に環境中に急速に増加した因子であることには間違いありません。膨大な植林の結果、スギ花粉の数もふえましたし、アルミサッシの普及で室内のダニは急増しています。人間にとって快適な環境はダニにとっても快適な環境です。このような寛容性の低下がアレルギー性鼻炎という疾患の一つの本質的な原因です。

 かぜ(風邪)

( slide No. 13 )

 かぜの話をします。かぜの感染経路として一番多いのはウィルスや細菌やカビを自分の手で鼻に持っていくことです。人間は1日に何十回と鼻を触るのでそのときに運んでいきます。直接他人の吐いた唾や痰を吸い込むということは滅多にありません。これを「ドアノブ感染」と呼んでいます。鼻を触った手でドアノブを触り、次の人はドアノブを触った後自分の鼻を触ることで感染が広がっていきます。そう考えると気道感染の最も有効な予防法は手洗いです。これに勝るものはありません。

  いったん鼻に入ったウィルスや花粉などのアレルギー源は通常線毛運動で排泄されるのですが、低温、乾燥、喫煙、それから慢性炎症があると線毛運動がゆっくりとした速度になるので、ウィルスが線毛層を通り抜けて上皮細胞に感染(生着)してしまいます。花粉もそのまま上皮層に落ちてしまうとアレルギー反応が起きます。その結果鼻が腫れたり熱が出たり、炎症反応で痛みも起こってきます。かぜに伴うくしゃみ、鼻水、鼻づまり、発熱が起こり、さらにこうなると慢性炎症となってますます線毛運動機能が落ちてきます。上気道感染のきっかけはほとんどウィルス感染ですが、2、3日経ってくると繊毛運動の低下の結果、細菌感染も併発してきます。その状況で鼻をかむと、その感染は周囲の中耳腔や副鼻腔にも広がっていきます。また鼻が詰まると口で呼吸するので喉も痛くなり、鼻水が流れると咳や痰が起こって、次第に気管支から肺まで下気道に広がっていきます。このようにすべての気道感染症は鼻から始まります。

( slide No. 14 )

 実際には病原体ウィルスとしてインフルエンザが有名ですが、その他にもアデノウィルス、RS(respiratory syncytial) ウィルス、パラインフルエンザウィルス、SARSの原因となったコロナウィルスなどがあります。インフルエンザについては検出キットがあるので比較的簡単に診断がつきます。アデノやRSの検出キットはありますが普及していません。消化器感染症のロタウィルスは明らかにされていますが、実際には臨床レベルでウィルスを同定することは難しく、保健所に依頼するしかありません。RSは特殊なウィルスではなくて日常的に出るウィルスです。この時期の小児のかぜで一番多いのはRSです。細菌やウィルス以外にもクラミジアやマイコプラズマなどの一般的な感染症もあり、これからはカビ(真菌)がふえてくるだろうと言われています。喉が痛いという症状の初期はほとんどウィルス感染であり、その後細菌が混じって混合感染となります。

  基本的に気道ウィルスに効く薬はインフルエンザ用しかありません。インフルエンザに対して有効な抗ウィルス薬は日本では3剤ありますが、他のウィルスや細菌には効きません。接種されているワクチンも型特異的です。昨年のインフルエンザワクチンは型が急速に変化したために大はずれで、有効率は15%ぐらいしかありませんでしたが、ことしもB型がはやり、結果的にははずれでした。

  普通日常臨床でウィルスを同定することは非常に難しく、キットが普及しているのはインフルエンザで、アデノとRSに関してはキットはあってもそう普及していません。男山病院にはインフルエンザとアデノの検出キットを常備しているので、この2つに関してはいつも検出できますが、外れた場合にはRSかなあと小児科と耳鼻科で予想しながら治療しています。

  インフルエンザの最大の弱点は逆に高温に弱いことで、これは気道ウィルスに一般的に言えます。インフルエンザ、コロナなど冬に流行するウィルスは高温では増殖できません、25℃以下の環境でしか増殖できないので、温めることが最も確実な治療法です。人間は発熱することによってこのウィルスを殺しています。パスツール研究所での研究では42℃の吸入を1日に4回すれば治るという報告もこれまでにあります。温熱療法が提唱されています。

  インフルエンザに対して乳幼児は抗体を持っていないので、非常に高い率で罹患しますが、脳症を起こさなければ死ぬことはありません。高齢者は逆に感染することによって肺炎を合併して高率に(3%以下)で死亡します。最近これに対して、肺炎球菌のワクチンを打つと死亡率を減らせるという報告があり、いくつかの都道府県ではこのワクチン接種が公費負担で進んでいます。

  このような気道ウィルスは人間には基本的に生着(寄宿)できないので、ウィルスに感染すると人間が死ぬかウィルスが死ぬか、どちらかの結末しかありません。その点、ヘルペスウィルスのような人間と共存できるウィルスとは違います。

( slide No. 15 )

 ウィルス以外にも肺炎球菌、インフルエンザ菌、ブドウ球菌、連鎖球菌、モラクセラ・カタラリス Moraxella catarrhalisなど細菌が気道に感染します。これらが問題になっている細菌群です。蓄膿症であり中耳炎であれ、鼻から広がっていきますので、気道感染の起炎菌は皆同じになります。

  細菌を培養して同定するには約1週間あれば簡単にできますし、外来でも顕微鏡で見ればある程度わかります。ただどの抗生物質が効くかという感受性検査には非常に問題点が多い。男山病院では私が関係する範囲では最も優秀な感受性検査を施行しています。従来のDISC法で耐性に関する診断は不正確でしたが、現在は全例でMIC(最小発育阻止濃度)で測定しますので、どの抗生物質が効くか、非常に vividな検査ができます。耐性菌の遺伝子診断を1週間待たずにその場でできるようにしたいのですが、DNAチップがどの程度普及するか次第で、まだ数年はかかると思います。そうなれば外来でその場で耐性菌かどうかその遺伝子診断がつくようになります。

  ブドウ球菌はもともと人間の常在菌ですので、常在菌が耐性化したMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)などは常在する方が自然で、ずっと居つづけます。薬で殺すことが難しい。蓄膿症にしても中耳炎にしてもみんな鼻から広がっていくので同じ菌で発症して慢性化してくると、このような菌以外にも緑膿菌が関与してきます。

  MRSAも含めて耐性化した菌に対して抗生物質が効かなくなっていること、特に幼稚園や託児所で広がっている耐性菌が問題になっています。園内、院内、市中感染、日和見感染。昔は耐性菌は院内感染でしたが、今は全く違ってそこらじゅうに広がって、気道感染症の約半数は耐性化しています。僕たちは日常的にも抗生物質やステロイドを使っていますが、今後はカビが非常に重要な起炎菌になると考えられています。これについてはいい薬がないので大きな問題になると思います。

( slide No. 16 )

 インフルエンザについて簡単に説明しておきます。インフルエンザは人類最大の疫病です。高齢者にとってはろうそくの火を吹き消す疾患と言われています。日本では年間にだいたい100万人が死亡していて、そのうちの1%はインフルエンザによる肺炎を併発した死亡例と言われています。

  インフルエンザ脳症は子供に多く、年間100〜300人発症して、3割が死亡、1/4に後遺症が残ります。発症時に解熱剤を使うべきかどうか今でも議論があり、解熱剤には基本的に熱を下げるリスクと熱を下げないリスクがあります。どちらかのリスクを取るか、自己責任で決めないと前に進まない問題です。正解はありません。なるべく使わないようにしようというのが今の流れです。インフルエンザ治療薬にタミフル(oseltamivir) があるので、インフルエンザには消炎鎮痛剤を使うことは比較的減ってきました。

  大流行 pandemic として有名な1930年代のスペインかぜでは世界中で3800万人が亡くなったという統計があります。アメリカで55万人、日本国内で38万人がこの疾患で死亡しています。新しいインフルエンザウィルスの流行、例えば鳥インフルエンザが人から人に感染するようになることが考えられます。N5H1というタイプの鳥インフルエンザの人感染が始まると、最悪の場合世界で30億人が感染し、そのうち半数が肺炎になって、5億人が死亡すると予想されています。今考えうる新型インフルエンザは中国を中心にカモ−鶏−豚−人の流れです。つい最近ベトナムで鳥インフルエンザ感染者が確認さていますが、今のところ鳥と接触した人間しか感染していません、人から人への感染は確認されていません。

(slide No. 17 )

 N5H1がヒト−ヒト感染すれば 5億人、世界人口の10%が減ると予想され、去年初めてこの抗体が患者さんから採れたことから、WHOは既に鳥インフルエンザH5N1型に対してワクチンの準備を開始しています。国内でもことしから準備を始めています。

  インフルエンザは高齢者を中心に死亡例が多いので、HIV感染のように国を滅ぼすことはないだろうと言われています。HIV感染者(エイズ)は世界で3500万人いますが、ほとんどがサハラ砂漠以南のアフリカ諸国にいます。この地域では1日6000人が死亡し南アフリカでは1日に600人の速さで死亡しています。

  HIV感染の恐ろしいところは若い人が感染することで、まず配偶者にそして子供に感染していくので、若い人間から死亡していく傾向があります。日本の少子高齢化を考えれば、今の日本の高齢者は人口の19%です。2050年には39%、逆に子供の数は14%からわずか8%になります。このように50年くらいかけて徐々に減って国を衰退させていきます。しかしエイズで子供が死ぬという恐ろしい事態が起こっているアフリカの国々では日本の50年間かけて衰退する分をおそらく数年で進んでしまう可能性があると言われています。若い生産人口が減ると高齢者も餓死していきますから、その面から考えればHIV感染は恐ろしい疾患ですが、インフルエンザにはそういうことはありません。

 かぜの治療

( slide No. 18 )

 実際にウィルスによる上気道感染にかかるとどういう治療をするか。

  インフルエンザに関して言えばタミフルという薬を使います。ただ厚生労働省と製造元のロッシュという製薬会社は0歳児には使わないほうがいいという指示を昨年出して、適応から外しています。実際に0歳児に使って死亡した事例は今のところないのですが、ネズミの実験から使わないほうがいいだろうという判断です。6カ月までは親から抗体をもらっていますが、それ以降はワクチンしかないので非常に危険とされています。

  0歳児のワクチンは日本の場合使う量が少なくて、0.1mlしか打てません。そのため今のところその効果は少ないだろう、逆に0.25mlぐらい打てるともっと効果が上がるだろうと言われています。勇気のある小児科医は今も0歳児にタミフルを使っています。この他に吸入剤のリレンザ(zanamivir) という薬も使われています。

  抗生物質はウィルスには効かないので混合感染が考えられる4日以降でいいのではないか、不必要なときに、これを使うことによって細菌の耐性化が進んでいるのでなるべく使わないようにしようという流れになっています。消炎鎮痛剤は解熱のリスクと解熱をしないリスクのどちらもあるので、慎重に投与するべきであると言われています。

  きょうご紹介しようと思うのはマスクを使う治療です。マスクには予防以外に治療効果もあります。これはユニ・チャーム社と私が協同で開発している立体型のマスクです。睡眠中もマスクをすることによって気道環境は25℃以上になるので、薬も何も使わずにウィルスの増殖を抑えることができます。

  手洗いが最も重要な予防法であるということは先程申し上げました。その他に、鼻うがいはたいへん効果的な方法で、いったん鼻に入ったウィルスを溶かすことと線毛運動の低下を補うことができます。これは花粉症についても言えます。実際に鼻をうがいするのは難しいので、スプレーを使って鼻の中を加湿して、それで鼻をかむだけでも大丈夫です。そういう方法で鼻うがいをするのも有効です。

  このときにイソジン(povidone-iodine) の使い方に大きな誤解があります。実際に口のうがいに使うイソジンは濃すぎます。15%のイソジンは皮膚に使えば、例えば手を洗うのに使えば非常に有効な殺菌効果がありますが、粘膜はそれほど強くないので濃いイソジンを使うと逆に粘膜を傷つけてしまいます。うがいには0.5%以下で十分ですが、それよりもお茶を飲むほうがはるかに有効です。次に出てきますが、唾液が出ているかぎり感染は成立しません。喉は痛くなりません。寝ている間に唾が減ることで乾燥してかぜを引きます。睡眠中にマスクをすればそういうことも防げます。

  高齢者には、かぜにかかると同時に併発しやすい肺炎に対して肺炎球菌ワクチンを接種しようという流れがだんだん広がってきています。

( slide No. 19 )

 かぜの治療の従来の問題点を挙げています。

  何でもかんでも抗生物質を使ってきたこれまでの我々の医療が耐性菌を増加させて、特に子供たちが難治性反復性の中耳炎に罹患しています。イギリスやオランダではかぜどころか中耳炎にも最初は抗生物質を使わないという方針を立てています。つまりこれによって10000人に1人は髄膜炎になって死亡するかもしれませんが、それでも耐性菌を減らそうというのが社会的な合意になっています。

  インフルエンザにはその場で診断できるキットと治療薬がありますが、それ以外のウィルス感染になると診断法や治療薬が見当たらないのでどうしたらいいかわらかない。結局抗生物質を飲んでいるというのが現状です。

  消炎鎮痛剤の使用は効果と副作用が相反するので難しい。温度(体温)を高めることでウィルスを死滅させている、一方解熱すると楽にはなりますが、結局感染期間が長くなるというジレンマがあります。

  イソジンでうがいをすると粘膜を傷めることがあり、総合感冒薬と呼ばれるかぜ薬には抗ヒスタミン薬が入っています。例えばクロルフェニラミン(d-chlorpheniramine)2mgはウィスキー3杯分ほどの眠気をもよおします。ウィスキー3杯飲んで車を運転するというリスクを考えれば、総合感冒薬は危険な薬剤と考えられます。

( slide No. 20 )

 予防と治療を考えたときに、マスクを着用することは薬を飲むより予防効果が非常に高い。

  かぜの原因行動のほとんどは手で起炎ウィルスや起炎菌を鼻へ運ぶと申し上げましたが、マスクをすることによってまず手で鼻を触れない。これが実は非常に重要です。もちろん飛沫感染も防げます。ただメッシュがどんなに細かい不織布のマスクであってもウィルスの直径の10倍以上のメッシュがあります。ここにある不織布のマスクのメッシュは広いもので10μm、こまかいもので2μmです。これでもウィルスの10倍の大きさがあるのでウィルスそのものの侵襲は防げませんが、飛沫感染の場合は大きさが200μmぐらいであるので防ぐことができます。

  マスクには抗生物質を初めいろいろな薬を使わずに治すことができること、安全で誰でもできるといったメリットがあります。ウィルスであろうが細菌であろうがインフルエンザであろうがマスクは気道環境を改善することによって有効に作用してくれます。しかも花粉症まで有効であるというのは重要な点です。

 特に唾液の分泌が減る睡眠中にマスクを使うと加温・加湿の効果もあり線毛運動が活発になるので、ウィルスを死滅させ治療効果を上げます。中でも立体型のものは睡眠中の装着に適しており、2時間以上装着すると抗ウィルス効果が現れます。

( slide No. 21 )

 これは幼稚園や保育園で広がっている中耳炎には全く薬が効かなくなってどんどん難治化しているという記事です。4歳以下で集団保育すると子供は肺炎球菌の抗体を持っていないので、園内でどんどん感染が広がっていきます。昔なら抗生物質でとにかく治っていましたが、最近では熱が下がらないという子供が非常にふえています。熱が下がらないから保育園で預かってくれない、おかあさんは仕事に行けないというジレンマになっています。保育園は非常に園内感染の密度の高い環境で広がっています。

( slide No. 22 )

 中耳炎は4、5歳に多い病気だと言われていましたが、実際には自分で「耳が痛い」と言えない0〜4歳の間に多い。この年代の発熱の原因の1/3は中耳炎によると言われています。ただ今までこの年代の鼓膜を診る技術が小児科医はもちろん耳鼻科医でも十分でなかったのでよくわからなかった。とりあえず抗生物質を飲ませると熱が下がった。ところがこの「とりあえず」が効かなくなるくらい菌が強くなって、病気が非常に潜延化しています。

( slide No. 23 )

 肺炎球菌の感受性について検討してみると、今や耐性菌の数が薬が効く感受性菌の数を上回っています。半分以上が耐性化しています。

( slide No. 24 )

 2番目に多いインフルエンザ菌−−インフルエンザのウィルスとは違うものです−−は抗生物質に感受性がありますが、β−ラクタマーゼ産生株という抗生物質が効かない菌が現れています。その中間のものも40%ぐらい、BLNAR(アンピシリン耐性インフルエンザ菌)という抗生物質耐性菌がふえています。他の菌についても同様の傾向があります。

( slide No. 25 )

 こういうものをなるべく減らすために抗生物質の使用を減らそうとしています。そのための一つの方法として私はマスクを使ったりセルフケアで治すという方向に向かっています。

( slide No. 26 )

 ウィルスと湿度の関係を示すグラフです。インフルエンザウィルスは湿度が高い環境ほど死滅しやすい。ウィルスは乾燥するほど生き残りやすいと言えます。

( slide No. 27 )

 そこで立体型のマスクを使うと湿度は約 100%まで上がります。これは従前の口を被うマスクでは測れませんが、立体形状のマスクでは口元に空間ができるので、そこの湿度を測定しています。この空間内ではウィルスは生存することができないと言えます。

( slide No. 28 )

 実際に男山病院でかぜ症候群に対する睡眠中のマスクの効果を調べてみました。朝まで装着できていた人は61%、外れていた人は39%でした。外れていても喉の痛みは和らいでいます。つまり2、3時間装着できればある程度の効果は期待できると思います。

( slide No. 29 )

 粘膜もこのように色調が改善します。

( slide No. 30 )

 こちらは急性の咽喉頭炎を伴う咽頭痛を有する患者さんを対象に検討した結果です。抗生物質を使った群とそうでない群を比較しても治療成績は変わりない。消炎鎮痛剤に関しても効果判定にあまり影響していません。結局違いはマスクを使ったかそうでないかという点です。ただ4日以降になると混合感染が始まるので、抗生物質を使うことによる効果は若干上がってきます。

( slide No. 31 )

 マスクの装用効果を喉の痛みの継続日数で評価しても、熱発で使っている日数で評価をしても有意に差が出ています。

( slide No. 32 )

 かぜインフルエンザの予防のためには手洗いが最も重要です。人込み、一番危険なのは病院ですね。日本の病院は廊下で患者さんを待たせるので非常に危険な環境です。ですから病院に来るときにはマスクをしておくほうが安全です。男の子では半ズボンは控えたほうがよい、長ズボンのほうがいい。大人もがまんできないことを子供にさせるのは絶対にやめたほうがいいと思います。

  今の子供は弱いと言いますが全く反対で、昔は乳児死亡率が高く、虚弱だと少しのかぜでも亡くなっていた時代でした。頑丈な子供だけが6歳まで生き残ったとも言えます。現在では全部の子供を大きくしないといけないので、もっと愛護的に扱う必要があります。

  インフルエンザにはもちろんワクチンが有効ですが、発熱する前のかぜに予防的効果が最も高いのは葛根湯だと言われています。鼻かみは1回だけで、2回以上すると中耳炎になることもあります。うがいは有効ですが、イソジンを使うならなるべく薄くして使ってください。うがいよりもお茶を飲むだけでも十分です。鼻うがいや鼻スプレーは効果があります。

( slide No. 33 )

 唾液は非常に重要で、喉を守る最も重要な因子です。ライオンや北京原人はいつも何かを食べていますから、唾が出っぱなし、歯がすり減っていくので虫歯にもなりません。かぜは寝ている間にひくというのは食べていないので唾が出ていないことにも因ります。そこでウィルスなどが生着していきます。

  唾は日常的に1日に2〜3リットル分泌しているので、分泌されているかぎり感染はしません。いわばうがいをしているようなものでしょう。ところが高齢になると歯が悪くなって固いものを噛まなくなるのと同時に唾液量も低下してきます。積極的に噛むことが唾液の分泌には重要ですが、歯が悪いので「しゃべる・笑う・しゃぶる」を積極的にするようにお勧めしています。噛まなくてもしゃぶるだけで十分です。アメリカの陸軍のマニュアルによれば、砂漠で遭難した場合には口に石を入れると唾が出るので数日間は survival できると言われています。そこで僕は梅干しの種を食後30分くらい口の中に入れてもらうように勧めています。舌出しの運動や笑うことで唾液の分泌を亢進して、喉の違和感や口の乾燥感を防ごうとしています。

  今の子供も同様に唾がどんどん減って、口内乾燥の原因になっています。テレビを見ながら食べているので、噛まずに飲み込んでいることが多い。噛まないことが子供でも唾液低下の原因になっています。下顎狭小は顎が小さいことですが、これも一つの原因になっています。

  その他、口臭、睡眠時無呼吸、胃酸逆流なども原因になっています。

  唾液は非常に重要な咽頭防御因子です。

( slide No. 34 )

 子供のうがいは口の中でグジュグジュしているだけで喉まで届いていないので効果はあまりありません。そこでお茶を飲むことを勧めています。イソジンではなるべく薄く、3%以下、1%程度でいいと思います、それで10秒以上。今市販されている喉にシュッと吹き付ける薬は濃度が15%もあるのでよくないです。痛みは確かに治まりますが、炎症期間が短くなるという保証はありません。ただイソジンそのものは古い薬なので、これを作っている製薬メーカーには詳しい情報がないのが実情です。イソジンを過って飲み込んだときには牛乳か卵を飲ませて固めてください。

  少なくともイソジンによるうがいでは、細菌を殺す効果はあってもウィルスを殺す効果はありません。細菌には有効ですが、ウィルスには無効です。

 花粉症

( slide No. 35 )

 これは全国38地点の2005年のスギ・ヒノキ科花粉飛散予測です。京都はだいたい7000個予想をしています。去年とことしを比較していますが、神戸では40倍飛散する予測です。今は寒いから減るだろうと思うかもしれませんが、12月が暖冬で実は山はそれほど寒くない。近畿周辺の花粉は丹波から飛散するので、丹波の山々の温度がある程度高まれば必ず飛びます。

( slide No. 36 )

 2005年の花粉症の全体像として最大だった1995年に次ぐ第2位の予想をしています。京都は7000個で、去年が 180個でしたから35〜40倍量です。ヒノキの花粉が非常に多いのもことしの特徴で、予測の数字はヒノキとスギの合計ですが、ヒノキの割合が多いだろうと考えられています。

  ヒノキはもともと西日本に多く植林され、これが史上最大の飛散量になるだろうと予想されています。ヒノキとスギの植林面積は関東ではスギのほうが多くヒノキは3割程度と言われていますが、西日本では1:1.5とヒノキのほうがやや多い。西日本ではヒノキが多く花粉の量は同じだろうと踏んでいます。先にスギが飛びはじめて3月末に終わり、その後ヒノキが飛び始めるのですが、ことしは2月から4月末くらいまでずっと飛ぶとすると、3カ月間花粉が飛びつづけます。長くなれば症状も重くなり、薬も効きにくくなってきます。さらにことし新たに200万人くらいの人が発症するだろうと言われています。

  そうすると社会生活も生産活動・生産効率も混乱するのではないか。まず特に車の運転事故がふえるだろうと予想されます。住民の30%が花粉症にかかって涙眼になって鼻がつまって運転する上に、抗ヒスタミン剤を飲むことで、おそらく事故が多発するだろうと思います。交通機関に限らず作業現場もたいへん混乱すると思います。

  タクシーやバスの運転手さんが実際に運転していいかどうか、その許可を誰が出すかという問題があります。この薬を飲んでいいかどうか聞かれて、雇用主は答えようがないし、医者も事故が起こると怖いので運転をやめておいてくださいとしか言いようがない。そうなれば30%の交通労働者が作業できなくなり、ダイヤが組めない。もう一つ、この時期には入学試験があります。3割の受験生が花粉症になると、この不利益は社会的に許容できなくなってきます。きょう1月15日はセンター試験をやっています。この時期はまだましですが、2月、3月に入試が行われる選抜試験については法的な公平性が問われかねないと思います。

  ことしは飛散が多いので薬だけでなく、鼻うがいをする、鼻スプレーを使う、マスクやゴーグルを装着する、いろいろな対策が必要になります。登山やゴルフはいわば自殺行為ですね。早い時期に薬物治療をすることをお勧めします。国民の15%は花粉症を発症していますが、さらに15%の方は既に体の中にスギ花粉の抗体を持っていながら発症していない方です。自分がそれに該当するかどうかは血液検査をすればわかります。そういう方は発症を先延ばしにするために今からマスクを着用することを勧めています。人口の15%、2000万人の国民の中から1〜2割、200万〜400万人が新たに患者になってくると思います。特に若年者を中心に。

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 大阪の花粉は全国的にもかなり少ないほうです。花粉の多いところは地形から、南側に海があって北側に山がある地域です。東京湾、相模湾、駿河湾、伊勢湾、広島湾、日本の大都市圏はこの地形に該当しています。大阪だけ例外的に西に海があるので少ない。

  大阪や京都のスギ花粉は丹波の山々から飛んでくると言われていて、山の気温が10℃に達すると放出されます。南斜面の麓の木から飛びはじめて山頂にむかって、北斜面の木へと降下していきます。それが北風に乗って高度300mで数百km飛んで落ちます。舗装道路では落ちた花粉が舞い上がって、ちょうど鼻の高さあたりで浮遊しています。都市の地理条件と植林という非常に不利な条件が重なっているのは日本的と言えば日本的でしょうか。人間のたくさん住んでいるところに花粉をたくさん飛ばしているので都市型自然災害とも言えます。

  スギ・ヒノキ森林は日本の国土面積の15〜18%を占めています。このうち3/4は戦後の植林です。関西の場合はヒノキが多い。生態学の常識から同じ植物が増加することは問題です。国土表面の15%も同じ木を植えつづけた林野庁は全く無反省ですし、それを誰も止められなかったのも日本的です。暖冬だと多く飛ぶ傾向にありますが、飛ばない年の翌年にはよく飛ぶという豊凶循環をしています。去年少なかったので、ことしはたくさん飛びそうです。国土表面の15%のスギ・ヒノキを伐採してしまうのは無理ですね。戦後1955年から1965年くらいまでスギを植えていましたが、スギの市価が下がってきたので高値で売れるヒノキを植えています。この頃植えたスギが樹齢30年に達した1980年頃からスギ花粉症が始まりした。80年間くらいは大量飛散するようですから2030年から2040年くらいにピークを迎えて、以降だんだん減ってきます。その後にヒノキがピークを迎えます。

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 先程言いましたようにスギの花粉症患者さんは人口の15%、抗体陽性者はだいたい2割と言われています。ダニの抗体陽性者は学童で3%、成人で10%です。この抗体は加齢によって減ることはありませんが、症状はこれまでの常識では60歳を超えると軽くなる傾向にあります。ただことしは常識を覆す可能性があります。

  たくさん住んでいる都市に発生する都市型自然災害であり、若者を主に襲います。首都圏に非常に多く飛散するので、病気としてはかぜ様ですが、経済的な損失は年間3000〜4000億円と言われています。

  近年の最大のトピックは子供の花粉症が激増していることです。京都も実は子供の花粉症が多い。最も多いのは千葉県で、千葉県の小学校では年々5%ずつ抗体陽性者がふえています。抗体陽性者は小学校2年の段階で既に全体の20%、卒業時には45%になっています。名古屋でも15歳の時点で5割が抗体を持っていて、この人たちはいずれ発症していくだろうと予想されます。

  今では花粉症対策に薬代だけでも年間1000億円というお金が使われています。もっと面白いことにマスクも含めて民間療法やセルフケアも約1000億円の市場だと言われています。

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 ただ最近では花粉症患者さんの自分の病気に対する認識がだんだん変わってきています。最初はびっくりして病院に行きましたが、毎年の経験といろいろなマスコミ情報から学習されて、どういう治療法が自分にフィットしているか考えるようになってきています。それがいいかどうかは別にして、患者さんも成熟して疾患について費用対効果で考えるようになってきたというのも事実です。病院では長く待たなければならないし、薬局の薬も結構値段がしますし、眠気も起こるといった問題点もあります。

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 飛散時の花粉症のセルフケアについて。自然災害なので外出する回数を減らす、風の強い日は避ける、マスクをする、眼鏡についてはあまりいいものがなく、ゴーグルをするかプロゴルファーが使っているようなサイドガードのある眼鏡がある程度有効です。眼を洗う、鼻うがい、鼻スプレーは有効です。山に行かない等々。

  花粉が多い東京や名古屋には出かけないほうがいいようです。沖縄と北海道は大丈夫ですが。朝タオルで鼻を温めることは役に立ちます。朝交感神経の目を覚まさせる効果があります。タオルを絞って電子レンジで温めて蒸しタオルにして、それで30秒間温めます。朝会社に行く前とお昼休みにやってください。かぜにかかると非常に病気を悪化させます。

  花粉を家に持ち込ませないというのはすごく大事です。花粉症の患者さんは神経質にはたきますが、家族は無関心ですからそのまままき散らしてしまいます。いったん家の中に花粉を持ち込んでしまうと、風が吹かない家の中では花粉は夏までずっと残っています。5月になっても鼻をグズグズさせるのはイネ科ではなくて実は家の中の花粉だという話があります。

  生後6カ月までの乳児は外出させないほうがいいかもしれません。この時期に外に出ると6歳以降に花粉症になる確率がふえます。秋生まれの子供に花粉症が多いと言われる理由はここにあり、4月以降に外出させたほうがいいと思います。

( slide No. 41 )

 マスクについて従来のガーゼマスクは花粉の大きさに対してすけすけだと申し上げました。花粉用として売られているマスクでもあまり効果がありません。不撚布というおむつに使われている布では目が詰まっているので、花粉をここでトラップできます。

( slide No. 42 )

 くしゃみと鼻水は異物排除の神経反射機構で、体を守るための防御機構ですが、鼻づまりは炎症反応です。くしゃみと鼻水、鼻づまりは違う症状なので分けて考えたほうが合理的です。特にことしのように花粉の飛散期間が長くなると違うと理解したほうがいいと思いますし、僕たちも分けて対応を考えています。治療については専門的になるので今回は省きます。原因に基づく治療法として原因感査療法やワクチン療法、薬を使った対症療法がありますが、いずれにしても根治療法は今のところ見いだされていません。

( slide No. 43 )

 鼻の粘膜の表面には線毛があり、それが入ってきた異物を運んでいますが、この線毛層の下に大きな海綿静脈洞が発達しています。この中に血液が流れ込んで膨らんだり縮んだりすることによって鼻が詰まったり通ったりします。この機序はペニスの勃起とほぼ同じです。プクーと膨らむことでこの容積をふやします。

( slide No. 44 )

 レーザーによって鼻を焼く治療法は関西医大で私どもが開発しました。

  元々はダニによる年内続くアレルギーの治療として開発しましたが、スギ花粉症に対しても飛散数が2000〜3000個なら有効です。ただし、ことしほど飛散すればレーザーだけでは効果は不十分かもしれません。

( slide No. 45 )

 薬局で販売されている点鼻薬にはいろいろなものが混合されて非常に有効です。この中に入っている血管収縮剤によって鼻が通るのですが、5日以上使ってはいけないとされています。花粉症の間、延々とこれを使うと習慣になって手放せなくなる危険性があります。

 どうもありがとうございました。

 

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