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関西医科大学第7回市民公開講座
「前立腺ガンの早期発見は可能か?」
室田 卓之(関西医科大学附属香里病院泌尿器科部長)
平成17年(2005年)1月29日(土)
寝屋川市立総合センター2階中央公民館講堂
司 会(濱田 彰・関西医科大学附属香里病院長)

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 司会(濱田 彰・関西医科大学附属香里病院長)

 土曜日のお昼から何かとご予定がありますところを第7回関西医科大学市民公開講座にご参集いただきまことにありがとうございます。本日は泌尿器科の室田先生と小児科の安原先生から講演を各々約1時間予定しています。その後、少しお時間をいただいて来年1月から開院する予定の附属枚方病院についてご説明いたします。

  それでは1題目の講演を泌尿器科の室田先生にお願いいたします。

 室田(関西医科大学附属香里病院泌尿器科部長)

( slide No. 1 )

 我が国では前立腺癌の患者数が急増して、平成8年度くらいから前立腺癌検診が全国的に広まってきています。守口市の市民検診の中の前立腺癌検診は関西医大泌尿器科が主体となって平成8年度から2年程行ってきて、今では守口市がおこなっています。寝屋川市においても昨年6月から寝屋川市医師会と寝屋川市とが協力して実施することができました。どうして前立腺癌検診を推奨するか、その理由をご説明するとともに初年度の寝屋川市市民前立腺癌検診の中間報告を申し上げます。

( slide No. 2 )

 前立腺とはどういう臓器かとおっしゃる方がたくさんいます。名前は知っていてもどこにあるか、どういう働きをしているのかということがなかなか理解されていません。ある女性の方から「私は前立腺癌検診をしなくてもいいのですか」と尋ねられるくらいです。男性にある臓器と説明していますが、あまり聞き慣れない臓器だと思います。

( slide No. 3 )

 腎臓で尿が作られて、膀胱でいったんためておいて、尿意を感じて排尿します。これは男性も女性も同じ臓器です。その下に前立腺が男性にはあります。この前立腺は精液の一部となる前立腺液を分泌したり、膀胱とともに排尿を調節する働きをしています。また男性ホルモンの依存性が高い特徴があります。

( slide No. 4 )

 前立腺の病気にはまず細菌が尿道から入って前立腺で炎症を起こすことがあります。これが急性前立腺炎。男性が非常に高熱を出す場合、喉の炎症や腎盂炎、前立腺炎が考えられます。39℃、40℃という熱が出て、前立腺が腫れます。

  前立腺は栗の実と同じくらいの大きさで、みかんの構造を考えていただければいいと思います。外皮があって、中は房になっています。この房が炎症や男性ホルモンの変化によって大きくなってきます。前立腺肥大症や前立腺炎が起こると、前立腺の中の部分(内腺)が大きくなり尿道を圧迫して、尿が出にくくなります。また膀胱を持ち上げるので、残尿感があります。さらにどんどん大きくなると前立腺が膀胱のほうに突出して、「おしっこに行きたい」という排尿の刺激症状があった瞬間に漏れそうになってトイレに走る状況が起こってきます。

  もう一つ考えなければならないのは前立腺癌です。これは前立腺肥大が起こる内腺とは違って外側(外腺)にできやすく、前立腺癌になっても初期の場合は前立腺肥大症や前立腺炎のような症状はあまり出ないかほとんどありません。そのためなかなか見つけることができません。前立腺癌が大きくなればもちろん膀胱を刺激するので、おしっこに行きたいと感じたり、出にくくなったり痛みがあることもあります。もちろん前立腺肥大症の方でも癌は外側にできてくるので、前立腺肥大症と前立腺癌が合併している方もたくさんいます。ですが、前立腺肥大症から前立腺癌になることはありません。外側に前立腺癌ができる場合と、中に点在して小さな癌ができる場合もあります。

( slide No. 5 )

 日本の前立腺癌の罹患数を1975年からの統計で見ると、1975年には年間2000人ぐらいでしたが、1995年には1万人を超えてどんどんふえてきています。泌尿器科医が一生懸命見つけるからふえるという人もいますが、いろいろな要因があります。

( slide No. 6 )

 まず人種と食生活です。このグラフから、アトランタにいる黒人男性は10万人中 140人が前立腺癌になっています。続いてロサンゼルスの黒人、アトランタの白人、ロサンゼルスの白人……という順になっています。中程にロサンゼルスの日本人があります。そしてずっと下がって日本があり、大阪府は少なく群馬県は高い。群馬大学泌尿器科の山中教授が一生懸命前立腺癌撲滅のために尽力されているからでもあります。大阪府の数字が少ないのは癌患者数が少ないのではなく、見つかっていないことに因ります。人口が多いと集団検診が困難になる傾向があり、人口が少ない地域ほどきちんと検診を受けているとも言えます。これで見ると、黒人、白人、中国人、ベトナム人など人種によって全く発生率が違います。

( slide No. 7 )

 ところがロサンゼルスの日本人とハワイの日本人は高くなっています。なぜかと言えば食生活です。僕らが20年ほど前に習った泌尿器科の教科書には、アメリカ人の書いた論文から日本食 Japanese dietがよいと書いています。同じ人種でもロサンゼルスの日本人は3倍くらい高い。ところが現代の日本人では欧米化の傾向になり脂質を多く摂っているので、それによって前立腺癌の発生が多くなっています。

( slide No. 8 )

 どの年齢で前立腺癌が見つかるか年齢別でみると、40代、50代はほとんどいません。私の経験では一番若い方は40歳台でした。ほとんど65歳以上の方です。また85歳、90歳になると前立腺癌があると考えてください。これは前立腺の中にあるだけで、おとなしくしていて大きくなってこないだけです。男性ホルモンは高齢になればなるほど、80歳頃から下がってくると言われています。ですから前立腺癌の芽があっても男性ホルモンを供給しない状態にすれば前立腺癌は大きくなりません。持っていても発病していない状態です。

( slide No. 9 )

 リスク因子をまとめると、黒人、白人に多い。日本人は少なかったのですが、食生活が変わってきているのでふえるかもしれません。もちろん高齢化してきますので、患者数はだんだんふえてくるだろうと予想しています。年齢では40歳以下はほとんどありません。一番注意しないといけないのは家族歴です。親や兄弟に前立腺癌になった人がいると、家族にそういう人がいない人と比べて2〜5倍発生します。1人いると2倍、2人いると5倍、3人いると8倍以上と言われています。自分が前立腺癌と診断を受ければ周りの親、兄弟、子供が前立腺癌になる可能性があるという注意が必要になります。私どもは前立腺癌になった方に対して、兄弟がいればその方に一次検査を一度受けて前立腺癌がないかどうか、また子供がいれば40歳になったらそれを確かめるように勧めています。普通は50歳以上の方を対象に勧めているのですが。結果次第ではその検査値が時間とともに上がっていくかどうか経過観察する必要があります。

( slide No. 10 )

 癌検診には胃癌、子宮癌(頸部、体部)、乳癌、肺癌、大腸癌があります。癌検診の中で発見率は胃癌は0.14%、子宮頸癌は0.07%、子宮体癌は0.11%、乳癌は0.09%、肺癌は0.05%、大腸癌でも0.15%、前立腺癌は0.86%です。これは1998年の古いデータで、今では1.3%ぐらいです。一桁違います。大腸癌や胃癌の検査より前立腺癌検診は有意義なものだと考えられています。

( slide No. 11 )

 年齢別に前立腺癌の発見率をみると、人間ドックで検診される方より集団検診で発見される方のほうが少し高い。人間ドックで検診される方は自分の体に対する意識が高く自分で健康管理をされていますが、その中でも差があります。寝屋川市が行っている集団検診の場合は上のラインです。普通0.02%以上の発見率であれば検診の意味があると言われているので、これのグラフからみると50代から上の年齢層にはその意味があります。

( slide No. 12 )

 癌検診の中で、前立腺癌の一次検診では採血してPSA(前立腺特異抗原)を測定するだけですから、楽なことが有利な点です。PSAは前立腺の個々の細胞から分泌されるタンパクで、それが血液の中に入ってきますが、それを調べることによって前立腺の状態がわかってきます。正常な方でも前立腺があればPSAは血液中にあります。肥大症になって前立腺が大きくなったり強い炎症で細胞が壊れてしまうような状態になればPSA値が高くなります。前立腺癌の初期であれば前立腺肥大症の人とあまりかわりませんが、進行すればどんどん高くなります。

  PSAの基準値は4ng/mlです。正常な男性の例えば40代では2ng/ml以下、80代になれば6ng/mlくらいです。高齢になると前立腺肥大症を持っている方がふえてくるので平均値が底上げされていると考えられています。前立腺肥大症の方でPSAを測定すると高い人で10ng/mlくらい、低い人で2〜3ng/mlです。

  PSAを測定するときに前立腺が何かに感染して前立腺炎を起こしていると、PSA値が50、60ng/mlと高まるので注意が必要です。前立腺癌を見つけるためのPSAを測定しているのですから。たまたまこういう数値が出てくると、「これは癌ですか」と慌てて来院されますが、前立腺炎が疑われる場合には炎症を抑えてからもう一度測定しています。炎症が治まった頃に測定すると2、3ng/mlまで低くなります。

  その他、膀胱に尿がいっぱいたまっているとき。これは前立腺肥大症で尿がうまく出ずに膀胱に残尿している場合が想定されます。例えば100mlとか200mlとかあるときに測定するとPSAは高く出ます。このときも膀胱を空にした状態で採血すると正確になります。またPSAを測定する前日に射精をしたときも高くなります。いずれの場合も前立腺を刺激するとPSAは高くなると考えればわかりやすいと思います。

  尿が出にくいと訴える患者さんには初診のときでも前立腺の触診をしていましたが、まず採血してPSAを測定してからになります。排尿の状態が悪いから来院された方にはまず触診があったのですが、今はわずか1ml以下の血液でわかるのですごく楽になりました。

( slide No. 13 )

 寝屋川市の基本検診では1ml採血してPSAを測定しています。PSAでは正常値ではなく基準値を使います。正常値というのは異常のないときの値ですが、正常と思われるPSA4ng/ml以下でもおよそ5〜10%の方に前立腺癌があります。4ng/ml以下であっても、症状があったり前立腺を触ると何かおかしいと思うと前立腺癌が見つかることがあります。前立腺の直腸診で前立腺癌が見つけられる限界は20ng/ml以上で、既に外に浸潤している状態です。癌が前立腺内にある場合には触ってもわからないことが多いです。

( slide No. 14 )

 前立腺癌の一次検診は採血だけです。肺癌では胸部レントゲン撮影、大腸癌では便の潜血反応、その後注腸造影をしたり内視鏡でのぞいたりします。PSAが4.1ng/ml以上の人を対象に二次検診をします。二次検診ではまず超音波(エコー)でみます。経腹的に見るとき、前立腺は恥骨の下にありますから、膀胱に尿がたまっていないと見にくくなります。超音波は骨や腸の中にガスがあると通過しないので、画像が見えません。ですから膀胱の中に尿がたまっている状態で見ます。経直腸エコーは直腸側、つまりすぐに触れる前立腺の腹側から超音波で見ます。その他にMRI、CT、生検があります。エコー、MRI、CT、生検のうち早期癌と確定診断できるのは生検です。その次にMRI、エコー、CTの順です。前立腺の中にほんの数mm大の癌があってもこれらの器械では発見されることが少ないです。

( slide No. 15 )

 これは経直腸エコー像で、直腸側から前立腺を見ています。この方の前立腺の大きさは33mlくらいあります。前立腺は20ml以下が正常の大きさですから、よく見ると前立腺の中心の部分が腫れています。これは肥大の部分で癌ではありません。前立腺癌ができやすい外側のみかんの皮の部分を注意深く見ると、これが前立腺癌です。このような小さいものであれば直腸診でもわかりません。ただこのエコー像だけでは、癌かもしれないし炎症かもしれない。確かに癌かどうかはわかりません。

( slide No. 16 )

 MRIは経時的に同じ場所を撮影していきます。そのMRIで見ると、前立腺はがたがたと。この方の診断は前立腺癌ですが、癌はここにあります。前立腺全体のこの一部分でしかないですね。前立腺癌の病期を見ていくにはMRIは有用です。

( slide No. 17 )

 超音波機器は最近ではどこの診療所にも設置していると思います。ここにあるのはお腹のほうから調べる器械ですが、泌尿器科ではここのところが直腸に入って、細い針で前立腺のあやしいところを採取します。生検とは組織の一部を採取して顕微鏡で癌であるかどうかを調べる検査です。

( slide No. 18 )

 患者さんが横に寝ています。香里病院では仙骨麻酔下に感覚を麻痺させて超音波のプローブを入れていきます。麻酔なしでおこなっている施設もあります。針生検はそれほど痛くなく一瞬で終わりますが、音が大きくパチン、パチンとするのでびっくりされることが多いようです。麻酔をしなくてもいいのですが、前立腺を見るためのエコーガイドを入れるとき多少痛いので、それを楽にするために仙骨麻酔をしています。

  当院の超音波の器械は縦の方向と輪切りの方向を同時に見ることができるので、生検もきちんと思ったところに針を進め安全に採取できます。8カ所採取しています。以前までは6カ所生検でしたが、これでは正診率が落ちます。では12カ所ではどうか、20カ所の施設もあります。20カ所を採るのもたいへんだと思います。関西医大香里病院の泌尿器科では8カ所で十分だろう、それで正診率が下がることもなくこれ以上ふやしても極端に上がることもないだろう、一番無難だろうと考えています。

  針生検とはいえ多少の出血はあります。抗血液凝固薬を飲んでいる方に針生検をするとなかなか止血しないので、事前に飲んでいる薬をチェックして一泊二日で行っています。また肛門から管を入れるので、前日から抗生物質を飲んで採取部分からの感染を予防をしています。香里病院で年間 200件ほどこの検査をしています。ほとんどの方は一泊二日で帰宅されますが、1人か2人くらい発熱して一泊二日の入院が二泊三日になったという方がいます。血尿のために内視鏡による止血処置が必要になった方はいません。多少危険を伴う検査ですが、非常に有用な検査です。

( slide No. 19 )

 CTでは体を輪切りにした像が得られます。こちらが直腸です。正常な前立腺はくるっと丸く見えるのですが、大きな癌組織が全体に置き代わっています。

( slide No. 20 )

 前立腺癌には転移する先が骨であるという非常に大きな特徴があります。他の癌では骨に転移すると普通崩れてなくなる骨融解性になりますが、前立腺癌やホルモン依存性の癌では転移を起こすと骨が作られる造骨性の変化が認められます。こちらは正常で、黒くなっているところが転移です。この方は初診時に既にこの状態でしたが、このような転移が認められても普通に歩いて通院できるほど元気です。痛みもなく排尿時にも症状がありません。このような転移を起こしている場合でも、前立腺の自覚症状がないので、まず例えば腰痛から整形外科を受診することもあります。その場合、整形外科の先生がレントゲンで調べると、どこかから転移している?、前立腺癌の転移ではないか?となり前立腺癌が発見されます。

( slide No. 21 )

 癌には病状の段階(病期)があります。前立腺癌と聞くだけで心配されますが、病期によって治療方法やこれから何年生きられるかという予後に関係してくるので、どの病期かというのが大事になります。病期はMRI、CT、エコーで調べます。限局癌は癌が前立腺の中にある段階、局所浸潤癌は前立腺の被膜を越えて癌がある段階です。みかんの皮のところに癌があるという段階です。そして骨に転移したり膀胱まで浸潤して広がっているというのが進行癌です。

  限局癌の病期で見つけるとほとんど 100%近く治ります。10年間の生存率は80〜90%以上です。浸潤癌でも10年間で7割くらい、進行癌になると10年間で2〜3割になります。ですから限局癌あたりで見つけるのが一番よい。

( slide No. 22 )

 限局癌でも局所進行癌でも症状はほとんどありません。骨に転移していると骨の痛み、例えば運動したときに強い痛みが出るようになります。

  治療法と癌の進行度との関係をみると、限局している場合には根治的治療ができます。前立腺を摘出する手術をしたり放射線療法によって癌を死滅させることができます。最近では131 ヨードという放射線の線源を直接前立腺癌に入れて治療する方法が一昨年10月から日本で許可になりました。アメリカやヨーロッパでは10年以上前から実施されていますが、日本では放射線に関する規定が厳しく、患者さんに線源を入れると放射性物質そのものを持った状態で帰宅されることになるので、普通に扱うことができませんでした。お孫さんを膝の上で抱くのは1年間我慢してくださいという程度の影響しかなく、普通に生活できるのですが、やっと法律が改正されて許可されました。近隣の施設では奈良県立医大で実施されています。関西医大でも滝井のほうで6月に許可が降りるはずです。手術を避けたい方には放射線療法はよい治療法だと考えます。しかしこれは局所癌でないと治療できません。進行してしまうと意味がありません。骨に転移して痛いときに姑息的に放射線療法をして痛みを止めるという方法はありますが。

( slide No. 23 )

 前立腺癌の治療にホルモン療法があるのも一つ大きな特徴です。男性ホルモンを栄養にして大きくなるので、男性ホルモンを下げると癌自体は兵糧攻めにあって小さくなりますが、癌細胞は活動を停止したりやせ細ってきた状態で残っています。そして3〜5年くらいすると、男性ホルモンに依存しない癌細胞に変化して、ホルモン不応性の癌に変化します。中にはホルモン治療を10年くらいされている方もいますが、癌細胞の性質によって変わってきます。

  癌のどの時期かによっても治療法が選択されます。初期の限局癌であればどの治療法でも選択可能であり、前立腺癌が原因で亡くなることは少数であります。香里病院の最近の統計では、5年間で 130人くらいの方に前立腺癌が見つかっています。その中で亡くなった方は20人、その内訳は見つかったときにもう既に全身に転移していた方が4人、残りの16人は交通事故や肺炎、高齢者では心筋梗塞など前立腺癌とは別の病気で亡くなっています。早い時期に見つかれば、ホルモン療法を普通にしていると前立腺癌で亡くなることはなく、癌を持ったまま皆さん元気に過ごされています。そう考えればそれほど怖い病気ではありません。

( slide No. 24 )

 先日寝屋川市の健康増進課の方にうかがうと、6〜8月の間にPSA検診を受けた方は2886人、そのうちPSA4.1ng/ml以上の方が241人でした。6〜12月ではおよそ6000人のようですので、PSA4.1ng/ml以上の方も倍くらいいると思います。そして6〜12月までに香里病院で二次検診を受けた方が170人います。

( slide No. 25 )

 この170人のうち生検を受けた方が109人います。生検をしなかった人にはPSAが4.2ng/mlや4.3ng/ml で来院された方や一次検診を受けたときにおしっこが近くて残尿感があったり、発熱して前立腺炎を起こしていると予想される方が含まれています。そのように経過観察をしている方が61人です。前立腺炎が疑われる人には炎症が落ちついてからもう一度採血するように説明しました。また検診のときには4.2ng/mlだったけれども二次検診では2ng/ml に下がっていたという方には来年度も一次検診を受けるように勧めています。その他、生検を受けた方には説明を聞いた上で、それでも心配だから生検をしたいという方もいます。

  生検した109人のうち陽性者が59人(55%)見つかりました。すべてPSA4.1ng/ml以上の方でした。ですから170人受診された方のうち34%が前立腺癌でした。

( slide No. 26 )

 PSA値から癌の発見率をまとめてみました。4〜6ng/ml では25人中5人が癌でした。4.2ng/mlだから大丈夫だと思っていたら意外に多い。6〜8ng/ml では22人中8人、8〜10ng/ml では11人のうち4人、10〜20ng/ml では29人中21人、20ng/ml 以上では22人中1人を除く21人が癌でした。この1人は市民検診のときに前立腺炎を起こしていた50歳代の方で40ng/ml ぐらいでした。炎症を起こしていたから様子をみて採血してもいいですよと申し上げたのですが、心配して生検を受けた方です。その結果、前立腺炎でした。20ng/ml 以上の人はほとんど癌であろうと考えています。10〜20ng/ml でも8割方です。

( slide No. 27 )

 59人見つかった中で病期を分類すると、43人(72.9%)は限局癌で、進行癌は5人(8.5 %)でした。非常に少ない。5人の中には転移して、PSA値も300ng/mlとか400ng/mlという方がいます。それに対する治療をきちんとすれば十分延命できます。限局癌が73%、二次検診を受けた方でPSAが高いので生検を受けたところ初期で見つかっています。前立腺の周りに少しだけ浸潤している局所浸潤癌も含めるとほとんど90%が局所にとどまっています。

( slide No. 28 )

 局所浸潤癌と限局癌に対しては根治術をすることもできますし、放射線療法もできます。手術を避けたいあるいは年齢が高いという理由でホルモン療法を選択された方もいます。

( slide No. 29 )

 時代とともに高い年齢の方が多くなってきています。それに伴って前立腺癌もふえつつあります。しかし検診によって早期癌の段階で見つけることができます。限局癌で見つかった人にはほとんど症状はなく、どうして二次検診を受けなければならないのかと疑問を持った方がほとんどです。二次検診をやっても何も出ませんよと言いながら出てしまった方、もっと積極的に治療してほしいという方もいます。

( slide No. 30 )

 癌が見つかると暗い気持ちになりがちですが、早期ならば治療の選択の幅があり、向こうには明るい世界があります。

 

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