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関西医科大学第7回市民公開講座
「おちつきのない子供たち」
安原 昭博(関西医科大学附属香里病院小児科部長)
平成17年(2005年)1月29日(土)
寝屋川市立総合センター2階中央公民館講堂
司 会(濱田 彰 関西医科大学附属香里病院長)

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司会(濱田 彰・関西医科大学附属香里病院長病院長)

 次は香里病院小児科部長の安原先生にお願いします。「おちつきのない子供たち」いう題に「ADHDの理解と支援」という副題が付いています。安原先生は小児の神経疾患がご専門で、この分野を扱う小児科医が少ないこともあり、神経疾患を持っている小児を非常に多く診療されています。よろしくお願いいたします。

 安原(関西医科大学附属香里病院小児科部長)

 最近レストランでも病院でも元気に走り回っている子供が多いと言われますが、そのような落ち着きのない子供たちが最近になって急にふえてきたわけではなく、昔からたくさんの子供が走り回っていました。僕が子供の頃はそれが当たり前であって、病気とは考えていませんでした。

  僕は寝屋川の香里園でずっと育っていて、第五小学校から三中に進学しましたが、このへんで暴れていました。三中は元気な学校で、落ち着きのない子供を探すと半分くらいはそうだろうと思いますし、第五小学校もいい学校で、グランドで独りで鉄棒をしていたり、丘の斜面に基地を作ったりした思い出があります。でもそれは土曜日の午後では決してなくて、実は授業中なんですね。僕自身がとんでもない落ち着きのない子供だったようです。入学してからしばらく慣れるまでの間、通知簿の最後には「ゴロゴロしない」、「授業中、トランクルームにお尻をつっこんで手を振らない」など書かれていました。確かに昔からそういう子供がたくさんいました。

  うちの母親は心が大きいというより自分も多動なので、自分の子供が多動でも気にならず、僕の場合はたまたま運よく怒られることもなく過ごしてきました。これは僕にとってすごくラッキーでした。落ち着きなく走り回っていて、学校で悪いことをするとトイレ掃除をさせられたり手にシッペをくらったり。そういう先生がいた時代でたいへんだったはずですが、ほめられて「お前ほど元気だったら大丈夫だ」とずっと言われてきました。逆に動くのが止まると、死んでしまうのではないかと不安になるそうですが。

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まわりにこんな子はいませんか?
・とにかく落ち着きがない ・多動 ・気が散りやすい
・好きなことはいくらでもするけども、そうでないとすぐに飽きてしまう
・衝動的 ・身勝手で自己主張が強い ・とてもおしゃべり
・順番が待てない ・邪魔をする
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 このような症状があるとすぐにADHDかというとそうではない。それがもとで周りとうまく合わせることができなくなるとあやしいと思います。周りの子供たちが困ったり大人でも難儀な目に遭ったり。さらに本当のところは、落ち着きがなくて集中できない、うろうろ動き回るために自分自身が困っている場合があります。

  なぜ自分はこんなに落ち着きがないのか、なぜ数学だけ(あるいは国語だけ)ができないのか、そういうことで困っている子がたくさんいます。国語がすごく得意でも算数はいくら勉強してもできないという子がいます。大人になってお孫さんを見ていて、「なぜこの子は算数だけできないのか。国語はこれだけできるんだからさぼっているのに違いない」と思って怒ります。「もっと頑張れ」と。それは子供にとってプレッシャーになります。国語はできるけども算数はほんとうは苦手だという場合があります。

  だから集中力が続かない、ミスが多い、落ち着きがない、衝動的に話をしてしまう、このような人はADHDの可能性があります。しかしこれで自分自身が困っていなければADHDとは言いません。ただ単に落ち着きがないだけです。ADHDの概論。

  ADHDという言葉を使っていますが、ご高齢の方はADHDを知らないという方が多いと思います。これは注意欠陥/多動性障害(attention deficit/hyperactivity disorder)の略です。注意力が足らない(不注意)なこと、大阪弁で言えばあわてん坊ということと多動性障害の2つを組み合わせたものです。両方とも持っている人がいますし、片方だけの人もいます。落ち着きがなくて走り回っているだけ人や、不注意だけでぼーっとしていて集中力が続かないなどいろいろなタイプがあって、診断しているときに難しいと思います。

  「注意欠陥/多動性障害」と言いました。障害ですから何もできないかというと、そうではありません。集中できないわけではない、うまくやればできるのですが、苦手なんですね、特に自分が不得意とするものに対しては。得手・不得手があり、苦手なことでもちょっと工夫すれば持続して集中力を発揮することができるようになります。

  日本語の「障害」にあたる英単語について、日本語には「障害」という言葉が一つしかなくて、すべて生活に支障をきたす handicap のように考えられています。ADHDのDは disorder の意味でうまくできないこと、難しく言えば秩序正しく機能しないことです。ですから工夫すればできます。

  診断はそう難しいことではありません。ADHDの言葉のとおりアメリカから入ってきた病気の概念ですから、アメリカの診断基準を使っています。3歳の子供が走っていても誰も怒りません、そんな年齢だろうと思います。子供が発達するにしたがって、小学校に入っている子が走り回っていたらおかしいと思います。

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ADHDとは
・発達障害である ・小児期に発症する
・症状は比較的長い間続き、どこでもみられる
・症状が日常生活における著しい困難を引き起こす
・他の疾患を除外する
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 成長してくると、子供たちは自分の置かれている状況、例えばここはじっとしておかなければならない場所かどうかわかってきます。それがうまくわからない場合を発達障害と言います。こんな症状は困ったことで簡単にはとれませんし、大人になると治るというものでもありません。それが比較的長い間続きます。日常生活を送るときにうまくいかない、困難があるというのが病気のもとですから、日常生活に困難がなければADHDではありません。

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ADHD診断基準:DSM−IV? 集中障害 6/9
・綿密に注意することかできない
・注意を持続することが困難
・しばしば聞いていないように見える
・しばしば指示に従えない
・課題や活動を順序立てることが困難
・精神的努力の持続を要する課題をしばしば避ける
・課題や活動に必要なものをしばしばなくす
・容易に注意をそらされる
・毎日の活動を忘れてしまう
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 集中障害の診断基準の9項目のうち、6項目が該当すれば集中障害だと診断できます。これは子供の診断基準です。高齢になって頑固になるとこれは全部当てはまりますので、そんなに気にしないでください。子供でも「しばしば聞いていないように見える」、1対1で話しかけても聞いてくれません。診察で「僕のお名前は?」「はぁ」「歳は?」「ふん」「何年生?」「ふーん」「いくつ?」「5」、やっと5歳とわかります。最近の子はこんな感じです。こんなことで怒っていると小児科医は務まりません。「しばしば指示には従えない」。「窓を閉めて」という程度の簡単な指示ですが、これを聞いてくれません。診察場面では「体重測って」と言ってもなかなか立ってくれません。「課題や活動を順序立てることが困難」。簡単に言えば、片付けが苦手ですからADHDの傾向のある子供のいるお宅にうかがうと足の踏み場がないこともあります。程度はさまざまですが、子供たちの机の上には自分のものが山のようにあります。学校に講演に行くと、学校の先生にも10人に1人くらい同じような机の先生がいます。「精神的努力の持続を要する課題をしばしば避ける」。子供の場合は宿題ですね。何度も逃げていく子供を捕まえて椅子に座らせないといけないという状況は危ない。ちなみに僕は家に帰っても捕まるのが嫌ですから、カバンをドアから投げ込んで逃げていました。「課題や活動に必要なものをしばしばなくす」。消しゴムや鉛筆やノートがなくなったり、教科書も時々落としてきます。カバンを道の真ん中に落としてきた子供がいて、それを見た周囲の人は交通事故と勘違いして警察を呼んだことも実際にありました。「容易に注意をそらされる」。窓越しに何かがあると難しい、そちらに注意がそらされますから。幸いこの会場は外が見えないので講演のほうに注意が集中できます。「毎日の活動を忘れてしまう」。歯みがきをせずに寝てしまったり、お風呂に入っても体を洗わずに出てしまうなど。それから友達との約束を忘れることもあります。

 このうち高々6つ当てはまれば、あなたは注意集中障害と診断されます。

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ADHD診断基準:DSM−IV? 多動性−衝動性 6/9
・手足をそわそわ動かし、椅子の上でもじもじする
・教室で座っていることができない
・不適切な状況で走り回ったり高い所へ登ったりする
・静かに遊ぶのが苦手
・“じっとしていない”またはまるで“エンジンで動かされる”ように行動する
・しばしばしゃべりすぎる
・質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう
・順番を待つことが困難
・他人を妨害し邪魔する
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 同様に、多動性−衝動性をみる診断基準があります。これにも9項目あります。こちらは大人が該当することはありませんが。「手足をそわそわ動かし、椅子の上でもじもじする」「授業中きちんと座ることができない」。しばしば教室から抜けていく子供がいます。「不適切な状況で走り回ったり高い所へ登ったりする」。これはさすがに大人にはないですね、子供に多い。「静かに遊ぶのが苦手」。家に帰ってくるとうるさいので、外で遊んできなさいと。お孫さんがいればそう思うことも多いと思います。「“じっとしていない”またはまるで“エンジンで動かされる”ように行動する」。

 つい最近来院した子供さんの話ですが、

親「ものすごく多動なので一度試したことがあります。机の周りを延々と走っているから怒らないでじっとそのまましていると、3時間半走っていました」。

僕「マラソンランナーにしたらいいんではないですか」
親「そうです、こないだ生駒の頂上まで走って上がりました」と。

 すごいですね。多動的な子供たちにはそのくらい活動性があります。とにかく元気な子供たちは走り回ります。

 ここからちょっと違います。「しばしばしゃべりすぎる」。男の子たちには少なく、女の子に多い。クラスで圧倒的にしゃべる子がいると、この病気の危険性があります。しゃべりすぎる子は行動はそうなくて、口の多動と表現したほうがいいかもしれません。3時間半も走り回らない代わりに3時間はしゃべります。女の子にADHDという病名がつかないのはこれで誤魔化されているかもしれません。大人になっても女性たちは3時間しゃべっても疲れないと思いますが。「質問が終わる前に出し抜けに答えてしまう」。「日本で一番高い山は?」「富士山」……アヒルに負けてしまう宣伝がありましたが、ああいう感じですね。学校の先生の質問を最後まで聞かないで途中で答えてしまう。「順番を待つことが困難」。例えばスーパーのレジで5人くらい並んでいると、買おうと思っていたものを戻してスーパーを出てしまいます。「他人を妨害し邪魔する」。一生懸命こちらが仕事をしていても間に入ってきます。またADHDの子供たちのお母さんやお父さんと話をしていても子供は絶対に邪魔を入れます。

  これも9項目のうち6項目に該当すればADHDと診断されます。ADHDと言われていい面もありますが、それは後ほど申し上げます。

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ADHD診断基準:DSM−IV? その他の基準
・多動性−衝動性または不注意の症状のいくつかが7歳未満に発症
・6カ月以上続く
・障害が2つ以上の状況において存在する
・社会的、学業的または職業的機能において著しい障害が存在する
・除外診断:重度発達遅滞、広汎性発達障害、統合失調症
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 多動性、衝動性はだいたい小学校上がるまでに現れてきます。親は幼稚園ぐらいから落ち着きがないなあ、どうしようかなあと心配しはじめて、小学校入ってもなかなか座ることができない、他の子と歩調が合わないと感じたときに受診されることが多くなります。小学校1年生で座れないことは当たり前で、クラスの2/3は走り回っています。勉強も興味が出てくるまではそんなにおもしろくない。でも半年たって夏休みを過ぎる頃になると大半が座れるようになります。それでも2人くらいは走っています。この2人が一応要注意となって、先生方は勉強に困ってないか観察しながら心配があれば保護者と対応を考えていかなければなりません。最も大切なのは「社会的、学業的または職業的機能において著しい障害が存在する」ことで、生きていくために問題があることがあります。子供たちにとって勉強をする上においてトラブルがあるとうまく生きていけませんから、そういうときにはADHDという診断をつけて配慮する必要があります。

  衝動性について。衝動性とは考える前に行動することであって、ひと考えして行動すればいいのですが、すぐに行動するために困った問題を起こしてしまいます。それは相手を叩く、ナイフで刺す、殴る、そういう攻撃性とは決して違います。テレビで「切れる」と表現される、カッとして殺した、刺してしまったという問題と落ち着きのない子供たちとは全く関係ない話です。落ち着きのない子供は脳内のドパミンによる神経のトラブルで起こりますが、「切れる」というのは脳内のセロトニンによって起こっていて、脳の中で使う神経が全く違います。僕のいう衝動性とはおしゃべりであったり出し抜けに答えたり、口が達者すぎて困る、話題を急に変えてしまう、順番が待てない、邪魔をする、このようなことであって、相手を殴る、蹴るということではない。クラスで何か問題が起こるたびにADHD、鑑別で大切な広汎性発達障害という病気、自閉的な傾向のある子供たちのせいにされます。そうではありません。セロトニンによる神経のトラブルは寝不足、ゲームのしすぎ、夜更かしといったことで起こりやすく、健常な子供たちにも起こるチャンスがあります。この点、衝動性は違います。

  ADHDの診断に必要な検査。

  時々脳波に乱れが出てくるので、そのときの脳波がまず必要になります。普通の脳波と比べてADHDの子供たちではこのように尖った脳波を現すことがあります。

  こちらは僕が作ったコンピューターソフトです。モグラの絵が2つあり、片方は眼鏡をかけていて片方はかけていません。どちらかのモグラが出てくるとボタンを押すように指示します。例えば眼鏡をかけたモグラが出てくるとボタンを押すように。モグラたたきの要領ですが、押してはいけないときに押してしまう間違いがADHDには多い。正確にキーボードを押す正当率は84%ぐらいで、16%は早とちりしてしまいます。ADHDでない子供たちは実は97%正解します。1分間に1回くらい間違う確率です。

  ADHDの発症率。

  このように検査をしてADHDだと診断がついた人は実は5〜6%です。この会場に300人いるとすると、15人はADHDです。安心してください。この問題は日本だけの問題ではなく、世界中で困っています。アメリカでは5〜7.5%、カナダは3.8〜9.4%、オーストラリアは3.4%。諸外国でもだいたい似たような数字が出ています。少ないのはオランダで1.3%、多いのはインドで5〜29%。3人に1人がADHDというのは多いと思いますので、統計の取り方に差があるのかもしれません。日本は7.7%という報告があります。これは千葉県のデータです。全国で調査するとすごく少なく2%という数字が出ました。寝屋川でみていても5%ぐらいはいると思いますので、日本のデータは5〜7%ぐらいではないかと思います。

  子供はいつか必ず大人になります。大人になれば落ち着きが出てくるだろうと考えますが、甘いです。先程のアメリカのデータでは子供は5〜7.5%、大人は4.7%です。意外と多く、この人たちは仕事上で落ち着かなくて困っていたりミスして上司から怒られたりしていると思います。生涯にわたって続くと考えられますが、3人に1人は治っているかわからなくなっています。その残りの半分は反対に社長や学校の先生などすごい人物になっている可能性があります。残りの1/3が問題ですね。みんな結構苦しんでいるかもしれません。

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ADHDには3種類ある
・見た目にすぐわかるADHD
・内面だけ混乱しているADHD
・枠組みに頼っているADHD
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 ADHDには3種類あります。見た目にすぐわかるADHD。活発でお調子者で多動ですからすぐわかるし、噂されてしまうような人物です。内面だけ混乱しているADHDは先程の診断基準の中で不注意の項目だけ全部満たして、多動が症状として出ていない子供です。3つ目の枠組みに頼っているADHDはうるさいです。約束事を守らないと徹底的にいじめたり、駅のホームでたばこを吸っている人を見ると線路に落としたくなったり。でも自分はいろいろなことを守れない。

  1.見た目にすぐわかるADHD。−活発なお調子者−

  多動。手を広げすぎてエネルギーが拡散する、いろいろなことをやりすぎます。衝動的。実力を超えたことまでに手を出す。気分の波が激しい。破壊的行動をする。危険にひかれる。単純な作業の繰り返しができない。大人を含めて思い通りにならない状況に耐える力が弱い。長期のプロジェクトが苦手、反面短期のプロジェクトはとても得意。すぐに人のせいにする、会社が俺のことをちゃんとみてくれていないとか。かんしゃくをすぐに起こす。自分のやりたいとおりにやらないと気がすまない。人間関係が持続しない。気に入らないことがあると激しく反発する。

  このような人たちが成功する分野は、お尻が軽いのでさっさと動く営業職、芸能人、海外の芸能人にはたくさんの方々が coming out しています。起業家、ロックフェラーもそうですね。政治家、リンカーン大統領、ケネディ大統領などすばらしい政治家たちがたくさんいます。

  2.内面だけ混乱しているADHD。−おっちょこちょいの空想家−

  このタイプの方は優柔不断で結構難しいですね。ぼーっとしている感じがする。始めた仕事をなかなか最後までできない。いろいろな用事を言われてもすぐに聞いてしまうので、引き受けすぎて最後に首が回らなくなる。燃え尽きてうつ病になる。ひどい人間関係でも別れることができない、はっきり言えない。やるべきことを先送りして、切羽詰まらないとできない。該当することがあるかもしれませんが、その程度の差は医者の立場として自分なりに基準があります。社会生活が送っていける間は大丈夫だと思います。

  この方は空想家ですから技術職、もの作りには向いています。クリエーター、人のケアにあたる仕事、教師、カウンセラー、ソーシャルワーカー、造園業など。

  3.枠組みに頼っているADHD。−正義をふりかざすやかまし屋−

  これはADHDとは少し違うところがあります。具体的には完璧主義で、ADHDにはあまりいません。かんしゃくがある。人に指図をする。整理整頓にこりすぎて、部屋がきちんとしすぎている場合がある。自分のやり方ばかりを通そうとする。このようなことがある難しいタイプです。

  こういう方には軍人、飛行機の操縦士、会計士、コンピューター関係、財務計画、医者も向いているそうです。法律関係の方にも向いているそうです。

 ADHDの原因

 ADHDの概念ができたのは実は20年前、1988年です。それほど歴史はありません。

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原因
・親の躾の悪さではない
・ADHDは脳の機能障害であることが明らか
・右前頭前皮質と大脳基底核にある尾状核と淡蒼球が有意に小さい
・小脳の虫部も小さい
・ドパミンD4 受容体もしくはドパミントランスポーターの遺伝子に変異
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  原因は家族的な要因が大きいと書いていますが、これは親のしつけの悪さではありません。もしお孫さんがADHDっぽいと、嫁のしつけが悪いのに違いないと思っている方が絶対にいると思います。そういうことはない。これは基本的にしつけで左右されるものではなく、遺伝子的なものです。ドパミンD4 受容体に関連する遺伝子の変異で、親がADHDだと子もADHDになりやすい。片親がADHDでは4人に1人、25%くらい、両親がADHDのときは50%以上がADHDになります。

 難しい図ですが、これは脳の右斜め前から見た図です。赤くなっているところが前頭葉で、注意を集中したり相手と何か話をしようとしたり情動面を制御したりします。ここでドパミンという神経伝達物質の流れが悪いと、注意集中が苦手になったり多動になる問題が起こります。だから心の病気でもなく育て方の問題でもなく、脳の神経のトラブルです。さらにこれはイコール問題ということではありません。乗り越えることができます。

  遺伝的な問題以外にもその原因には胎児期の神経発達に異常があったり妊娠分娩時の障害も関係することがあります。親がアルコールやたばこに暴露されているときにもこういうことが起こると言われています。タバコは自分が吸わなくても受動的な喫煙で起こります。周囲がタバコを吸う環境の職場にいればこのようなことが起こる可能性があります。

  これは原因とは別かもしれませんが、睡眠障害とADHDの関係が指摘されています。いびきをかく子供はADHDであることが多く、3人に1人はADHDだと言われています。閉塞型の睡眠障害を持つ子供には居眠りが多い。閉塞型睡眠障害イコール鼻づまりでいびきをかきます。その場合、42%は多動というデータもあります。3つ目、いびきをかく子はIQが12.2低い。IQ100あるところが90まで下がっているということですね。いびきをかかなくなるともっと賢くなります。いびきの治療には耳鼻科にかかってください。

  子供の成長過程で起こる問題。

  ADHDの子供たちにはまず勉強の問題が出てきます。注意集中が苦手ですので、学校の勉強についていくことが苦手になります。学業成績不振90%。LD(学習障害)という病気ともADHDはすごく合併しやすく、学習障害の子供たちの50%はADHD、反対にADHDの90%は学習障害を合併しています。それはうまくやると克服できるのですが、放っておくと高等教育がより難しくなってきます。

  その他、成長して小学校の高学年になると反抗的な態度を示して、なかなか手に負えません。挑戦的な態度を示し、短気です。それから嘘をつきます。「傘を拾ってきた」「お金が落ちてたから拾った」「自転車は駅前に捨ててあった」などかわいい嘘もありますが。自分の物と他人の物との区別がつきにくい。鉛筆を落として、それが他の子供のものでも拾って使っています。僕が小学校の頃は自分の持ち物には名前をしっかり書いていましたが、最近の子供は誰のものでも10本の鉛筆が入っていればいいのです。それは盗むという概念ではなくて、鉛筆ぐらいという考えがあって粗末にしていることもあります。そういう子は攻撃的な要素を持っています。先程衝動性と攻撃性とは違うと申しましたが、攻撃性を帯びてくる子もいます。それから自分が苦手とすることを攻め続けられるので、抑うつ的な気分になりやすく、不機嫌で気分が変わりやすいということもあります。必要以上に怖がったり不安になって学校に行けないことも多い。

  友達関係でも問題を起こします。口達者ですから生意気だと言われたり、いじめのターゲットになったり、反対にいじめる側になる子も多い。3人に1人は非行に走ります。僕らが「多動はそんなに問題にない」「字が書けて読めたらいい」「計算できなければ計算機がやってくれる」、そんな目でその子をしっかり認めて育てていけば、非行に走る子はもっと減るはずです。叱ってうまくいくはずがない。

  そういう子供は中学校に入ると今度は薬物依存になります。治療薬に依存するのではなく、ブラックマーケットから薬を買って飲むようになります。麻薬に手を出すのは子供たちに限りませんが。自動車の免許を取る年齢になると、スピード違反や交通事故などが多くなります。ADHDを考えている親たちが集まっている会「のびのびキッズ」に僕も加わっていますが、そのホームページが暴走の自慢大会になることがあります。早い性的活動。中学生、高校生ぐらいから性的な行動をしはじめます。ですからエイズになる可能性がすごく高く、その他の性的感染症の危険性も高まってきます。

  ADHDの原因でないものとして、食品添加物や食物アレルギーは関係ありません。砂糖、牛乳、コーヒー(カフェイン)などは大丈夫だろうと思います。環境中のアレルギー性物質は原因になるかどうかわかりませんが、まず大丈夫だろうと思います。親の育児の間違いではない。テレビを見すぎたりテレビゲームをやりすぎてもADHDにはなりません。

 ADHDはほめ言葉

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ADHDとは
・おっちょこちょい ・人なつっこくて感激家
・想像力、多芸、いろいろな才能を持つ
・芸術家、科学者、偉人 ・実行力、行動力
・怒りっぽいけども指導的な立場をこなす
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 ADHDはまんざらでもないということを最後に申し上げます。先程からADHDの子供は落ち着きがない、多動、衝動的、身勝手だと何もいいことがありませんが、これを言い換えると、おっちょこちょい、人なつっこくて感激家、想像力にあふれていて多芸でいろいろな才能を持つ、芸術家、科学者、偉人に多い。

  集中力がないけども、ひらめきや創造性にあふれています。いろいろなものに目が向くので、僕らが見ていないことでもADHDの子供たちは気がつきます。多動ということは、3時間半も机の周りを走れるほどエネルギッシュです。政治家たちをみると、日本でも外国でもすごく雄弁です。衝動性は逆に言えば実行力や行動力にあふれています。集中力がない、多動、衝動性がイコール悪いことばかりではない。診断のときに、ひらめきにあふれていて想像力があってエネルギッシュで雄弁で実行力、行動力にとんでいると言われると、ADHDということですね。このあたりは難しいですね。

  ADHDの治療

  治療としてその子にどのようにかかわるかという行動療法と、ほんとうにしんどいときには薬物療法をします。行動療法(ABA:applied behavior analysis)ではADHDを持つ子に対して、社会生活がうまくいけるようにトレーニングをします。またその保護者に対しては、この病気について特徴を理解させ適切な対応ができように訓練をします。

  ADHDの子供は集団の中で静かにすることが苦手ですから、社会から見れば問題行動として映ります。待てなかったり席から離れたり教室から出ていったり、自分勝手に振る舞います。国語の時間に算数をしていたり、注意も聞きません。そういった子供たちには教育の現場でもできないこと、苦手なことばかりに注目しないで、一生懸命ほめるようにしてほしいと思います。国語の時間に算数をするなら、算数についてほめてほしい。登校したらほめてほしい。学校に5時間目までいたらほめてほしい。勉強したいと思ったときには自分で勉強するようになります。それよりも登校できないほうが問題だと思います。適切な行動を身につけるにしても、大人にとってやりやすい方向を押しつけるのではなく、子供たちが楽しい、おもしろいことを発見させるようにやって、それをほめていかなければならないと思います。

  ほめるテクニックはあると思いますが、シールを貼ったり点数にしたり、具体的に見える形にしてほめてほしい。また、いいことをするとみんなの前で発表してほしいと思います。叱るほうでは体罰は絶対にだめです。体罰をずっと続けていると、子供でもやはり弱い子供に向かいます。ADHDの子を家で叩いて育てた場合、家の中では小学校時代くらいまでなら子の力が弱いのでうまくいきます。ただ学校にはその子より弱い子がいますから、その子に対して叩きます。ですから学校ではとても問題児です。先生は問題があると訴えますが、家では問題ないというずれが出てきます。ですから家でも叩かない。叩かれた子供たちは大人になって自分の子供を持ったときに叩きます。このような連鎖があるので、絶対に叩かない。

  最近気にかかっていることですが、今の若い母親たちは相談する相手がいません。孤立していて、どうやって育てていいかわからない、子供が泣いてうるさくなると叩いて黙らせてしまうと悪循環を作ってしまいます。周りから非難するのではなく、どうしてかと聞いたり教えたりする必要性があると思います。体罰はだめだと言うのは簡単ですが、行うのは非常に難しい。力の強いほうが弱いほうを叩くという動物的な論理はいけないと思います。

  治療の目標はADHDを持つ子が自分のよいところを見つけて伸ばして、良好な社会生活を送れるようにすることです。そのためにはセルフ・エスティーム self esteemを伸ばすこと。これは自己意識、自尊心、自分の気持ち、自分は人のためにいいことができる、自分は生きていてよかったと誇れる自尊心を伸ばすことです。そのために僕は薬物を使うこともあります。
薬物療法は大人が子供を扱いやすくするために使用するものではありません。子供が学習障害で苦しんでいる、集中できずに苦しんでいる、問題を起こして仕方がない、そのために怒られて不利益を被っている、そういう場合に使ってこそ効果があります。いろいろな治療薬がありますが、今回は省略します。

  でも周囲が変わらなければ何も変わりません。まず家族支援が最も大切です。ADHDの親の会「のびのびキッズ」ではADHDの啓発や理解、支援をしていただくために、事例検討会や講演会を行っています。寝屋川を中心に香里園の駅前のビルで、家庭教育へのアドバイスや子供の療育や仲間作りもやっています。問題行動にどう対処するかというのはかなり難しいので、私にダイレクトに相談されればお答えできることもありますが、親の会のほうがもっと詳しくて、いろいろな相談を受けています。ホームページがありますので、ごらんいただければ嬉しいです。(http://homepage3.nifty.com/nobinobikids/)

  「ほめる」と先程申しましたが、そう大げさなことではありません。もっとしてほしい行動をするとほめる。嘘をつかない、ごめんが言える、何かもらったらありがとうと言える、食事のときに椅子に座るなど簡単なことです。また選択させることもすごく大切です。例えば「ゴミを捨ててきてちょうだい」と言ってもすぐには行きません。「今すぐする?後でする?」と聞くと選択できます。子供にやる気を出させるためには選ばせることも大切なことです。

  明日コンサートがあります。子供たちのためのチャリティーコンサートで障害者施設に収益金を寄付します。よろしければご来場ください。

  どうもありがとうございました。

 

 

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