関西医科大学第9回市民公開講座
頭痛について
伊東 秀文(関西医科大学附属滝井病院神経内科助教授)
平成19年(2007年)2月3日(土)
関西医科大学附属滝井病院本館6階臨床講堂

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 伊 東(関西医科大学附属滝井病院神経内科助教授)

(スライド1)

 赤木先生のお話は非常におもしろかったですね。私も腰痛がありせいぜい‘腰磨き’をしたいと思います。

 頭痛の話は構造が単純ではないので赤木先生のようには見晴らしがよくありません。皆さんも頭痛を経験されたことがあると思います。頭が痛いと、頭の中には脳がありますからたいへん心配されます。ただ頭痛にはいろいろな種類があり、原因は必ずしも単純ではありませんし、また心配な頭痛と心配のない頭痛があります。きょうは心配な頭痛からそうでない頭痛まで大きく3つに分けて、どんな症状があれば心配な頭痛か、どんな症状があれば受診したほうがいいのかということを中心に話をしたいと思います。

(スライド2)

 早速グロテスクな絵が出てきました。これはヨーロッパから出土した石器時代、紀元前5000年頃の頭蓋骨です。ここに開いている孔は死後に開けられたものではなくて、生きているときに手術によって開けられたものだということが骨を調べてわかりました。生存中に何か傷害を受けると、体には修復しようとする能力があります。この頭蓋骨にはその生体反応、つまりこの傷害を修復しようとした痕が残っています。どうしてこのような孔が開けられたのかというと、昔は頭痛があると頭の中に悪霊がいると信じられていました。その悪霊を頭の外に出すために開けたと考えられます。実際にインカ帝国では脳の手術をしているような石像が残っています。

(スライド3)

 生きている間にこんなに大きな孔を開けられるとどんなに痛いだろうと思います。脳は神経が集まっているところですから、少しでも触ると痛いのではないかと思いがちですが、実は脳実質は痛みを感じません。私たちは定位脳手術を脳外科の先生方と一緒にすることがありますが、脳自体は麻酔をせずに針でつついても全く痛みを感じません。骨膜は少し痛いのですが、頭蓋骨自体も局所麻酔下でドリルで孔を開けても全く痛みがありません。

 では痛いのは何か、何が痛がっているのかというと、頭蓋内では動脈と静脈、頭蓋底にある硬膜、頭蓋外では頭皮、その下にある血管や筋肉です。実は痛いのは脳自身ではなくて血管や筋肉や一部の硬膜が痛みを起こしています。

(スライド4)

 頭痛は脳自身からきているものではない、脳の周辺にある血管や筋肉からきています。もちろん脳自体に病気があれば頭痛が起こりますが、これは脳を圧迫してその中にある血管や硬膜を刺激することによって頭痛が起こってきています。血管と筋肉と脳の病気が頭痛の主な三大原因と考えられます。

 それ以外に眼・鼻・耳・口の病気、例えば緑内障、副鼻腔炎、顎関節症といった病気から頭痛を感じることがあります。脳の表面には前頭神経や大後頭神経などいくつかの神経が走っています。三叉神経痛という言葉を聞いたことがあると思います。三叉神経は前頭部から口の周辺まで広い領域をつかさどっていて、その感覚を伝える神経ですが、この神経が痛むこともあります。また神経痛が頭に起こることがあります。最後の‘気の病’という心因性の頭痛も無視できない頻度であります。後ほど心療内科の福永先生からお話があるかもしれません。

(スライド5)

 先ほど赤木先生から一生のうちに腰痛を経験する人は7〜8割というお話がありました。一生のうち頭痛を経験する人がどれくらいかというと、頭痛を経験したことがない方はほとんどいないと思います。頭痛を経験したことのある人は90%、一生のうち頭が痛くなったことがないまま亡くなる方は10人に1人くらいしかいません。ところがその内訳はほとんどが心配しなくてもいい頭痛です。風邪をひくと頭が痛くなりますね。それも数えていますから風邪を引かない人はいないと思います。多くの方は風邪を引くと頭が痛い。これは心配しなくてもいい頭痛です。治療が必要な頭痛は4割くらいです。

 1.心配しなくてもよい頭痛

(スライド6)

 代表的なものに「アイスクリーム頭痛」と言われる頭痛があります。アイスクリームやかき氷を食べて頭痛を経験したことがあると思います。ゆっくり食べるといいのですが、急いでがつがつ食べると頭痛を感じます。James Jonesという方が30年くらい前に書いた『氷菓子の頭痛』という短編小説の中でこれをモチーフに使っています。アメリカの一つの村でおじいさんが子どもたちにアイスクリームをどっさり食べさせるのですが、子どもたちは喜んで急いで食べるので頭痛がすると言い始めます。それから暴飲暴食について説き始めるという話です。

 この頭痛がどうして起こるかというと三叉神経に因ります。三叉というくらいですから、頭のほうとほっぺたのほうと口のほうと、神経が3本に大きく枝分かれています。アイスクリームを食べると三叉神経のうちの1本を刺激して、冷たいという感覚を脳に伝えますが、冷たいという感覚と痛いという感覚は似ています。温痛覚と呼ぶくらいですから、温度覚と痛覚が同じ神経を伝って脳に刺激を伝えます。この刺激によってアイスクリームは冷たいという感覚と脳の上のほうから伝わる痛いという感覚とを混同して、冷たいものを食べると「冷たい」と「痛い」を感じてしまいます。これは関連頭痛とも言われています。この場合、アイスクリームを食べたから痛くなったということがわかりますし、しばらくすると治まるので、決して心配することのない頭痛です。アイスクリームを食べて頭が痛くなったといって私たちの病院に来られた方は今までに一人もいません。

(スライド7)

 それ以外に心配ない頭痛がいくつかあります。「ホットドッグ頭痛」というのは、ホットドッグの中に入っている亜硝酸塩という防腐剤が原因です。亜硝酸塩は狭心症治療に使うニトログリセリンという薬と似ているので、そういうものを食べると血管が開いて頭が痛むことがあります。「中華料理店頭痛」はグルタミン酸が原因のようです。大量のグルタミン酸が一気に体内に入ると血管が開いて頭痛が起こってきます。「二日酔い頭痛」は説明するまでもないと思います。お酒を飲まない方は経験されませんが、アルコールが体内に入ってアセトアルデヒドに変わると血管を刺激して血管が開きます。「酸欠頭痛」、これは特殊な状況でないとまず起こりません。2000m級のマチュピチュのような標高の高いところで酸素が少なくなると、脳が酸素をもっと取り入れようとして血管が開きます。これで神経が刺激されて痛みになります。「飛行機頭痛」は私も経験があります。離陸や着陸のときに、気圧の変化によって副鼻腔内の空気が膨らむことで頭痛が起こります。「性交時頭痛」の患者さんは多くはありませんが、困った症状です。男性に多く、女性にもあることはあります。何度か経験された方は心配ありませんが、初めて起こったときにはクモ膜下出血を心配して来院されます。「目覚まし時計頭痛」は決まった時間に頭痛が1時間くらいあるようですが、私は治療経験がありません。1日のうちでこれから活動しようとするときに、体内時計の働きで体の活動が活発になるのですが、その体内の様子が変わることによって頭痛が発生することが知られています。特に高齢者の方に多くみられます。原因がはっきりとわかっていて、いつまでも続くわけではない、そのたびに繰り返されていても原因がわかっている頭痛は決して心配する必要はありません。

  2.怖くないが放っておけない頭痛

(スライド8)

 これには2種類あって、怖くないけども放っておけない頭痛と危険なので放っておけない頭痛があります。まず怖くないけども放っておけない頭痛には大きく3つ、「緊張型頭痛」「片頭痛」「群発頭痛」があります。ここでは緊張型頭痛と片頭痛について。

  「緊張型頭痛」

(スライド9)

 先ほどのグラフでは頭痛が全くない方が約10%、全く心配のない頭痛が約50%でした。その残りの約40%が治療が必要な頭痛ですが、その中で一番多いのが緊張型頭痛で約半分です。

(スライド10)

 緊張型頭痛は前頭部と頸の後ろあたりをぎゅっと押さえつけられるように痛むのが典型です。肩こりが一緒に起こる方もいますが、肩こりがなくても頭の前頭部、頸の後ろだけあるいは側頭部だけが押さえつけられるように、締めつけられるように痛むという頭痛です。この頭痛を経験された方はたぶん多いと思います。

(スライド11)

 この頭痛が起こる原因と成因は、頭には筋肉があり、その筋肉は頸とつながっています。肩から頸、頸から頭にかけて筋肉でつながっていますから、一定の姿勢を続けていたり姿勢が悪いとその筋肉にだんだん負担がかかってきます。そして筋肉が緊張し収縮して頭を締めつけるように、鉢巻きを巻いたように頭痛が出ます。

(スライド12)

 緊張型頭痛は上司に怒られたり、場合によっては部下がへまをして怒ったり、こういったいろいろなストレスが誘因となって起こるようです。右の絵のような状況ではどちらに頭痛が起こるかわかりませんが。総じて緊張型頭痛は女性に多いと言われています。

(スライド13)

 その理由の一つとして頭重負荷指数が考えられています。頭の周径(cm)の3乗を頸の周径(cm)の2乗で割って頸の長さ(cm)をかけて1,000で割ると算出できます。重い頭を頸で支えていますから、この指数から頭の大きさの割りに頸が細い人、頸の長い人ほど緊張型頭痛が起こりやすい。平均値で女性は2.45、男性は2.01です。男性のほうが相対的に頸が短いので、緊張型は基本的には男性より女性に起こりやすい。

(スライド14)

 緊張型頭痛の特徴を挙げています。(1)だらだらと続く頭痛です。頭全体が鉢巻きで締めつけられるような、お椀をかぶったような頭痛です。(2) 楽な日と辛い日があるかもしれませんが、だいたい毎日起こります。(3)ただ痛いのは痛いのですが、我慢して頑張っていれば仕事や日常生活はできます。(4)動いている間は何とか紛れて、(5)精神的ストレスが引き金になります。

(スライド15)

 緊張型頭痛を予防するあるいは和らげるためには頸を動かしたり肩を上げ下げしたり、先ほどの腰痛体操と似ています。基本的には頸を回す、腕を回す、肩を回す、ずっと同じ姿勢を続けない、ときどき休憩を入れながら作業や仕事を続けます。治療についてはきょうは省きます。
「片頭痛」
(スライド16)片頭痛は片頭痛発作という言葉があるように、毎日続くのではなくて、ときどき発作のように痛みが出ます。頭痛の発作があるときには患者さんは動けません。頭痛のために頭を抱えて吐き気を伴います。暗い部屋で静かに横になるしかないというのが片頭痛発作の典型的な症状です。

(スライド17)

 外来に「頭の片方がズキズキ痛いのですが、片頭痛ですか」、「片頭痛がひどいんです、頭の横が痛くて」という症状で来られる方が非常に多い。片頭痛は片方が痛むと書きますから、まさに頭の片方が痛いと片頭痛と思われるようです。もちろん片頭痛の可能性もありますが、そうでないことも多く、頭の片方がズキズキ痛いというだけでは片頭痛とは診断できません。

(スライド18)

 片頭痛は片方の頭がズッキンズッキン痛むという典型的な症状であれば診断しやすいのですが、両側が痛むという方が23%と最も多い。右だけ痛む17%、左だけ痛む17%と、片方だけが痛むという方のほうがむしろ少なく、両側であったり痛む側が移動することもあります。また、片頭痛は血管の痛みですから拍動性だと思いがちですが、50%以上の方は拍動性ではない。肩こりからくる緊張型頭痛でも頭の片方がズキズキ痛むことがよくあるので、頭の片方が痛むというだけでは片頭痛なのか緊張型頭痛なのか鑑別できません。

(スライド19)

 もう一つ、視野の一部がギザギザしたようになり、ピカピカして見えなくなるという症状が片頭痛にはあります。これは閃輝暗点と呼ばれる症状です。

(スライド20)

 頭痛の症状が起こる前にこの症状が出れば、片頭痛に非常に特徴的です。この閃輝暗点の前兆があればわかりやすいのですが、これがない片頭痛の方のほうがずっと多い。それに対して緊張型頭痛で眼がチカチカするという症状を訴える方がいますので、これでも診断できません。

(スライド21)

 片頭痛はどういう頭痛かというと日常生活ができなくなるような頭痛でときどき痛む頭痛です。片頭痛という名前があって、片側がズキズキするというのが片頭痛と一般に考えられがちですが、「日常生活に支障があって発作性に痛む」という症状のほうが大事です。
(スライド22)片頭痛に関して国際頭痛学会から診断基準が出ています。多くの医者はこの診断基準に基づいて診断しています。診断基準について簡単に説明します。

−−−−−−−国際頭痛学会による片頭痛診断基準−−−−−−−−−
1.1前兆のない片頭痛
A B〜Dを満たす頭痛発作が5回以上ある。
B 頭痛の持続時間は4〜72時間(未治療もしくは治療が無効の場合)
C 頭痛は以下の特徴を少なくとも2項目を満たす。
1.片側性
2.拍動性
3.中等度〜重度の頭痛
4.日常的な動作(歩行や階段昇降など)により頭痛が増悪する、
あるいは頭痛のために日常的な動作を避ける。
D 頭痛発作中に少なくとも以下の1項目を満たす。
1.悪心または嘔吐(あるいはその両方)
2.光過敏及び音過敏
E その他の疾患によらない。
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  頭痛発作が5回あるということは、痛い時が何回あるか数えられるということです。痛いときと痛くないときがあって、ずっと痛いわけではない、間があるということですね。それが発作性の痛みという意味です。しかも4〜72時間持続する。痛みの持続時間があります。片頭痛と診断するには4〜72時間続く頭痛が少なくとも5回あるということが必要になっています。しかも以下の項目の4つのうち2つを満たす頭痛であること、片側性、拍動性、日常生活に支障があって動くと余計に痛い。だから動けずに暗い部屋で横になっているしかない。このような症状であれば片頭痛と考えられます。それプラス吐き気や光がまぶしいという症状があれば片頭痛と考えます。

(スライド23)

 片頭痛の特徴についてまとめますと、(1)ときどき起こる頭痛で、頭が締めつけられるように毎日痛いのではなくて、月に何回か起きます。頭痛がないときは全く症状はあまりせん。(2)片頭痛は体を動かすと痛みが強くなるので寝込んでしまいます。頑張れば起きることができる程度の頭痛ではなくて、動けない頭痛です。(3)痛みは発作性ですから、長くても数日間で治まりだらだら続かない。

(スライド24)

 片頭痛の患者数は実は高血圧や糖尿病よりも多いと統計では言われています。840万人といいますとだいたい10人に0.8人です。

(スライド25)

 片頭痛には家族歴があって、母親に頭痛があれば娘にも頭痛があることが多い。片頭痛は昔はあまり知られていなくて、ごく最近になって注目されている病気です。20代から30代の若い女性に多いのですが、母親の世代では、頭痛があっても頭痛は病気ではないので我慢するように言われて医者にも行かなかった人が多かった。

(スライド26)

 20代、30代の女性に多く、特に月経の前後に頭痛が起こる頻度が多いので、これはどうもエストロゲンやプロゲステロンの影響があるのではないかと言われています。男性にもありますが、女性のほうが多い。

(スライド27)

 片頭痛の方に話を聞いてみると、7割くらいの方は一度も病院に行ったことがなく、ほとんどの方は市販薬で治療をしています。最近になってようやく片頭痛についてコマーシャルがされるようになって知られてきました。もし皆さんご自身に頭痛があって、娘さんに似たような頭痛があれば片頭痛の可能性があります。

(スライド28)

 片頭痛は今では病気と考えられていますが、通常の市販薬ではよく効きません。片頭痛治療薬であるトリプタンという薬が1999年から使えるようになり、発売からまだ10年しか経っていませんが、最近では正しく診断がついて正しく治療がされれば日常生活が随分楽になって、仕事にも行けます。月に何回か頭痛があって寝込んでしまう、外に出られないという方がいれば、ぜひ病院で治療を受けたほうがいいと思います。

  3.治療の必要な頭痛

(スライド29)

 最後に症候性頭痛について。症候性頭痛は実は危険な頭痛です。頭痛のある方が40%、症候性頭痛はそのうちの20%足らずですから、人口の7〜8%の方が症候性頭痛を経験します。慢性頭痛など頭痛を経験された方の7、8人に1人が危険な頭痛です。

(スライド30)

 危険な頭痛の特徴について。

(1)これまでの頭痛と違って、今までにない激しい頭痛が突発した場合。経験したことのない頭痛が突発した場合。

(2)徐々に頭痛が強くなる場合。

(3) 50歳以降に初めて頭痛が起こった場合。それまでに頭痛を経験された方はいいのですが、50歳以降に初めて頭痛が起こった場合。

(4)それまでに頭痛があったけども、そのパターンが変化した場合。頻度、程度、場所が変化して、今までと違う頭痛が起こってきた場合。

(5)随伴症状がある場合。発熱があったり意識を喪失したり手足が動きにくくなったり、頭痛とともに気になる症状が起こってきた場合。

  これらの症状があれば病院で治療を受ける必要があります。

「突発性頭痛」

(スライド31)

 突発性頭痛は例えばテレビを見ていて「ドラマの後のコマーシャルが始まったとき」というように何時何分に頭痛が起こったとはっきりとわかる頭痛です。ハンマーで殴られたような今までに経験したことのない痛みが起こってくると、典型的なクモ膜下出血の症状です。この場合には緊急のCTを撮る必要があります。ハンマーで殴られたことがないのでどんな痛みかわかりませんが、聞いてみるとガツンという痛みだそうです。

(スライド32)

 左側が正常、右側がクモ膜下出血の患者さんのCT像です。どこが出血部位でしょうか。CTでは出血しているところが白く見えます。この白いのは頭蓋骨で、この人の場合はここに出血しています。クモ膜下出血です。

(スライド33)

 もう一つのクモ膜下出血の例です。こちらの正常と比べて、ここが目立ちます。このあたりにも出血しています。

  クモ膜下はどこかというと、頭の表面に皮膚があり、その下に骨があり、骨の下にクモ膜があり、そして脳実質があります。骨と脳の間がクモ膜下腔というところで、ここには太い血管が走っていて、血管はさらに枝分かれして脳に血液を送っています。クモ膜下腔にある血管は太く、そこに先天性であったり動脈硬化や感染などによって動脈瘤ができます。この瘤が破裂の恐れのない瘤であれば心配ないのですが、それが破裂すると動脈ですから出血して、それがなかなか止まりません。手足の出血なら傷口を押さえていれば止まりますが、脳血管で出血すると押さえることができないので、治療が遅れると命にかかわります。

(スライド34)

 血管造影すると瘤が描出されます。動脈が走っていてここに瘤があります。反対側にもあり、破裂した動脈瘤はこれです。

(スライド35)

 同じ突発性頭痛ですが、頭痛と同時に手足の麻痺、感覚異常、しびれ、視野欠損などの異常が起きてきくると脳出血の可能性があります。脳梗塞でも痛みが出ることがありますが、脳梗塞では痛みが出る頻度は少なく、多くの場合は脳出血です。

(スライド36)

 CTをすぐに撮ります。左が正常で、白いところが出血部位です。小さい出血が視床にあります。脳内で出血すると手で押さえることができませんので、血圧をコントロールしたり安静にして自然に止血するのを待ちます。この程度で止まれば軽度の麻痺やしびれが残るかもしれませんが、それほど命にかかわる出血ではありません。しかし翌日になってもう一度CTを撮ると、出血が大きくなっている場合があります。そうなると命にかかわってきます。頭痛が起こった直後では小さい出血像でもどうなるかわからないので、脳出血は小さくでも危険です。2、3日経ってCT像に変化がなければ出血は止まっていると考えられます。

(スライド37)

 この方の場合は後頭部に出血があり、この場合手足の麻痺が出ません。半身不随など身体的な症状が出てくると脳梗塞であっても脳出血であっても病院に早急に搬送されますが、この部位の脳出血では麻痺が伴わないので脳出血が非常にわかりにくく、来院そのものが遅れがちになります。この場合、視野が半分欠ける症状、左の脳に起こると右の視野が欠けて見えなくなります。そうなると右側にあるものにぶつかったりつまずいたりすることで初めてわかります。出血の場合は頭痛が伴う場合が多く、また視野に異常があればすぐにCTを撮る必要があります。

 「急性頭痛」

(スライド38)

 急性頭痛とは突発した頭痛ではありません。4、5日かけて、徐々に頭痛が強くなる場合を言います。じわじわと強くなる頭痛があり、急に頸の後ろがこってきたりします。熱があれば緊張型頭痛と思わずに病院に行ったほうがいい。吐き気や光をまぶしく感じる症状が伴えば髄膜炎の可能性があります。

  髄膜炎の頭痛はウィルスや細菌が脳内あるいはその周辺の髄膜に感染して起こります。これは放っておくと脳の細胞を壊す炎症に広がることがあるので、早めに抗生物質で治療をする必要があります。これはCTでは異常がないことが多く、髄液検査でその感染を確認します。もし発熱、頭痛、頸の後ろがこるような症状、吐き気があれば、病院で診察を受ける必要があります。確かに風邪を引いて熱があれば多少頭痛がします。風邪に伴う頭痛でも1、2日で治まる頭痛であれば心配要りません。髄膜炎は一度感染すると数日間は炎症が治まりませんから、1、2日間様子を見て頭痛が治まらない場合には受診したほうがいいです。

  「進行性頭痛」

(スライド39)

 同じところの痛みが日増しにだんだん強くなってくる頭痛です。緊張型頭痛はストレスが原因ですから夕方のほうが痛いのですが、この頭痛は夕方よりも朝起きたときのほうが痛い。咳をしたり前かがみになると脳圧が上がって痛みが増します。この場合、脳腫瘍や慢性硬膜下血腫の可能性があります。これも心配な頭痛です。

(スライド40)

 CTでみると、右に髄膜腫という大きな脳腫瘍があり脳を圧迫しています。その周囲は浮腫になっています。

(スライド41)

 この例は左は正常ですが、右のここがおかしい。もやもや、もろもろしています。この部分に多型膠芽腫glioblastomaがあります。これは脳腫瘍の中でも最も悪性のものです。

(スライド42)

 これはわかりやすいですね。転移性の脳腫瘍です。胃癌や肝臓癌や肺癌などからの転移で、この例ではリング状の像を示しています。1個の腫瘍なら取り除くことができますが、転移の場合病巣が1個でもあれば目に見えない病巣が他にあると考えられますので非常に危険です。

(スライド43)

 左が正常のCTです。脳はだいたい左右対称にできていますから、左側と右側を比べると脳のしわがこのように見えます。右側のしわが見えにくい。ここに三日月型に白く描出されているのが慢性硬膜下血腫です。あるとき急に脳の中に出血するのではなくて、細い静脈が切れて脳の表面にじわじわと出血して血腫を形成します。

  これはお年寄りに多く、軽い外傷がある場合もありますが、いつかわからないけども頭を角にぶつけたり壁にぶつけたり、ほとんど覚えていません。それくらいの軽い頭のぶつけ方で静脈が切れて、何日かかけてじわじわと脳に出血してきます。そしてある程度の出血がたまると麻痺など異常が出てきます。頭をぶつけたときにCTを撮っても何も見つけられなくて安心していても、何日かしてから手足の動きが悪くなるという症状が出てくると、慢性硬膜下出血の恐れがあります。脳外科の先生は一週間経っておかしくなったら来てくださいとお話されると思います。血腫の量が少なければそのまま経過観察して、血腫もだんだん吸収されて消退します。

(スライド44)

 この例では何が具合悪いかというと、脳の中心がこちら側に寄っています。脳は骨で囲まれていますから、多量に出血すると行き場がなくなってこちら側に押しつけます。そうすると脳幹が圧迫されて呼吸が止まることもあります。脳に出血が起こる場合、中心が移動するmidline shiftしたCT像があれば慢性硬膜下血腫といえども非常に危険です。

(スライド45)

 いろいろ怖い話をしてきましたが、最後のスライドです。原因がはっきりしている場合は何も心配ありません。風邪を引いたときの頭痛、アイスクリームを食べたときの頭痛のように、たわいのない頭痛を皆さんのうち50%の方は経験されています。私も経験しています。

  そうではなくて、原因がはっきりしない頭痛があったり頭痛を繰り返す場合には、それが治療が必要な頭痛かどうか、危険な頭痛かどうか、診断を受ける必要があります。そういう方が来院されると私たちはどういう症状かまず尋ねます。その主に聞く観点は(1)その頭痛はいつから始まったか。例えば3日前からか1カ月前からか10年前からか。(2)突然始まったのかじわじわ始まったのか。(3)毎日あるか間隔をおいて繰り返して起こっているのか。どれくらいの時間続くのか。(4) どこが痛いか、どういうときに増悪するか、仕事ができるか、動くと紛れるか。(5)他に症状があるか。頭痛には随伴症状や起こり方に特徴があるので、心配な頭痛があれば受診されることをお勧めします。

  ご静聴ありがとうございました。