関西医大HOME ->市民公開講座目次 -> 第9回市民公開講座 (2006) 目次 ->メタボリック症候群の予防と管理
関西医科大学第9回市民公開講座
「メタボリック症候群の予防と管理」
木村 穣(関西医科大学附属枚方病院健康科学センター センター長)
平成19年(2007年)2月17日(土)
関西医科大学附属枚方病院13階講堂

-----*-------*-------*-------*-------*-----

 木 村(関西医科大学附属枚方病院健康科学センター センター長)

 最近はマスコミでもメタボリック症候群という言葉がよく出ていますので、ご存じの方も多いと思います。おさらいを含めて動脈硬化について説明しながら、動脈硬化を予防していかに未病で長生きするかということについてお話ししたいと思います。

 1.健康科学センターの紹介

 健康科学センターは病院の一番奥の淀川河川敷公園に一番近いところにあります。最初からそうなるように設計されたわけではないのですが、できあがってみると公園に近いところになり、使いやすいかと思っています。1階の突き当たりの自動ドアを入ると、院内ですから普通に診察室があります。

 この奥で患者さんは実際にストレッチをやったり運動したり歩いたりできるように、それ用の器械も置いています。普通のフィットネスクラブのようにも見えますが、病院ですから横には看護師さんがいて、血圧や血糖を測ったり、心臓の悪い方には心電図モニターを付けることもあります。どのような方でも運動できるように設備を整えております。

 実際にはこのようにフィットネスクラブのように器械がずらっと並んでいます。すべてご高齢の方でも使えるように油圧式の体に優しい器械を選定しています。隣には広いスペースがあって、歩行のためのトラックがあります。白いラインを引いていますが、そこにランプが付いていて、この光を追いかけるように歩くと自動的にスピードが決まるようになっています。

  歩きなさいといっても、突然走られても困りますし、ゆっくり歩かれても困ります。このランプはその人にあったスピードを探すためでもあり、光を追いかけると、その方にあったスピードの歩行ができるように光が自動的に誘導してくれます。足が不自由な方でもその方にあった適切な歩行ができるように設計されています。こちらのパネルではそのコントロールとモニターをするように、競馬場のランプのようですが、何番の患者さんはいくらで走っているということが我々にもわかるようにしています。

  この部屋から外の河川敷に出られます。この写真は河川敷の水際から病院を写していますが、なかなかいい景色に撮れました。こちらの写真は病棟から河川敷を見た風景です。枚方大橋が見えますね。この公園のウォーキングマップも既に作っています。どの道を歩けば消費カロリーはいくらということまで計算しています。ご希望の方には健康科学センターに寄っていただければ地図をお渡しします。体力にあったコースを選んでいただけます。

  健康科学センターは動脈硬化を中心にして主に生活習慣病の方を診ています。その他に禁煙外来。当敷地内も禁煙ですが、どうしてもたばこをやめられない方、やめたい方、さらにやめたくない方も来ていただければ何らかのお話ができると思います。またメタボリックシンドロームと関係ある肥満外来ですね。肥満気味の方から十分に肥満の方まで。今までで最高の方は210kgでした。そういう方でも減量していただけるようしています。こういう難しい話をしているとスースーと心地よいいびきが聞こえてくることが多いのですが、すぐに居眠りをされる睡眠時無呼吸症候群という怖い病気も治療しています。これは心臓病と関係があります。

  運動が必要なのは外来患者さんだけではありません。この病院の8階には広いクリーンルームがあります。癌治療のためにこのクリーンルームから外に出られない方のためにもトレーナーは出向いて実際に運動や体操の手助けをしています。もちろん患者さんの体力にはいろいろなレベルがありますが、運動が健康にもつながります。少しでも役立ちたいという気持ちでやっています。

  2.メタボリック症候群の始まり

  これは某放送局で夕方放映されている番組の1シーンです。運動の話だけでなく食事のほうも大事ですから、専門の栄養士の方から食べ方の問題や食べ物の内容について、私からは食事でどんなものを摂取したらやせるとか血圧にいいかという話をしています。このときの番組では血圧を下げるにはどうしたらいいかというテーマで、カリウムについて説明を求められました。

  本題に入ります。人間ですからどんな方でも命は尽きます。これはどういう原因で亡くなっているか、日本人の死亡原因を示しているグラフです。たくさんある中でベスト3を選ぶと、癌、脳血管疾患、心臓病。この3つに大きく限られ、その中でもやはり癌が一番多いです。「死亡原因の一番は癌ですから、これを何とかしたい。脳卒中や心臓病は多くない」と思ってしまいますが、心臓病も脳卒中も血管疾患ですから、動脈硬化という視点から両者を足してみると、「癌」対「動脈硬化」はほとんど同じです。アメリカでは動脈硬化が抜いていますから、日本人もいずれ逆転するかもしれません。事故やインフルエンザや感染症もありますが、大きく分けると血管疾患か癌か、動脈硬化でやられるか癌でやられるか、そのどちらかです。癌については別の機会にお聞きいただきたいと思います。

  動脈硬化をいかにコントロールするか。動脈硬化になってからでもそうですし、ならないようにするのも我々の仕事です。皆さんと一緒にやっていきたい。

  動脈硬化はどこからきたのでしょうか。今までは「血圧が高い、血糖が高い、コレステロールが高い、だから高血圧症、糖尿病、高脂血症という病気です。こういうことがあると動脈硬化になるので薬を飲みましょう」という話でした。血圧が高いと症状がなくても薬を飲むように、血糖値が300mg/dLもあれば糖尿病の治療をしよう、コレステロールの薬を飲んでいる方も多いと思います。発症してから血圧外来や糖尿病外来という専門の科で治療をしていたんですね。

  何も好きこのんで病気になったわけではないのですから、どこからこんな病気になったのか、よくよく見ると最初は生活習慣からです。過食、運動不足などがかなり悪さをしていることがわかってきました。もちろん遺伝的な体質がありますが、遺伝の影響は3割程度です。

  ではこの生活習慣がどうして病気につながっているのかというと、肥満がその間に挟まっています。体重が多いとインスリンというホルモンの働きが悪くなり、代謝が悪くなって病気が出てきています。病気の出方は人の顔が違うように人それぞれです。血圧が高くなる人、血糖が高くなる人、コレステロールが高くなる人がいますが、その行き着く先の動脈硬化は一緒です。病気の上流では実はよくない生活習慣プラス肥満が悪さをしていることがわかってきました。

  これまでの診療では生活習慣から高血圧とか糖尿病で動脈硬化になるという話をしてきました。高血圧症や糖尿病を発症した人には動脈硬化にならないために治療しましょうと簡単に説明することができますが、高血圧症や糖尿病を発症する前の人、つまり実際には病気になっていないときから動脈硬化を防ぎたいと考えています。病気を発症する前の人ですから、どのような病気を発症するかわからない。そのような人にどういう話をしたらいいか、あるいはそういう人をどう呼べばいいか。いろいろな名称が付けられてきましたが、最近それがまとまってきました。「よくない生活習慣から発症する」という概念ではなくて「代謝が悪くなった状態」という意味から「メタボリックシンドローム」あるいは「メタボリック症候群」と呼んでいます。

  3.肥満と内臓脂肪

  かたよった食事、運動不足、食べ過ぎ等によって内臓脂肪がたまり肥満になると、インスリンというホルモンの働きが悪くなってきます。難しくは「インスリン抵抗性」と呼んでいますが、病気になる前のここまでの方をまとめて「メタボリックシンドローム」と呼びます。ほとんどの方は発症していませんから病院に来る必要もありませんし、薬を飲む必要もありません。

  ところが実際にはインスリン抵抗性の方々が最終的に病気になるので、健康でいるためには(病気を発症しないためには)発症する前の段階から退治しないと間に合わない。ということから盛んにこの話がされています。

  そこで肥満の話です。今まで肥満はそれほど大きく取り上げられていませんが、最近になって肥満が悪さをしているという話になっています。肥満のどこが悪いのか。ぽっちゃりした人が好きな人もいますし、最近ではやせすぎでも体に良くないと言われます。

  左図の方はウェスト90cmですね。CTでみると、周囲の白い部分は脂肪です。中に筋肉があって、この白い部分は背骨です。この白いのが内臓脂肪です。外側の脂肪は15cmくらいあって分厚くて摘めません。右図の方のウェストは同じ90cmですが、この方の外側の脂肪はそれほど厚くないので指で摘めます。「お腹が出ているけども脂肪はない」という話をされていましたが、CTで見ると実際には内臓の間に白く脂肪があります。お腹の中ですから摘めないのですが、脂肪がたくさんあります。左図ではお腹の中には脂肪はそれほどない。同じ脂肪でも両者は性質がぜんぜん違う脂肪だと言われています。

  先ほどのメタボリック症候群は動脈硬化を引き起こす原因ですが、それは主にお腹の中の脂肪だろうということがわかってきました。同じウェストでも摘める脂肪でなくて、摘めない脂肪がものすごく悪さをしています。これを内臓脂肪と呼んでいます。外の周囲の皮下脂肪はそんなに悪さをしません。この内臓脂肪を何とかしましょうというのが現在の考え方です。日本人の半分の方が亡くなる死因の動脈硬化で、最も悪いのはお腹の脂肪です。これが動脈硬化を徐々に進ませます。

  ところがこの内臓脂肪は意外ととれやすい。銀行の貯金でたとえれば、左図の皮下脂肪は定期預金で一回ためると勝手にふえてきます。減りませんが、あまり悪さをしません。右図の内臓脂肪は当座預金ですから、すぐに出し入れができます。減らそうと頑張れば減らせますし、使おうとすれば使えます。

  4.メタボリック症候群の診断基準

***************************************
腹囲:男性 ≧85cm  女性 ≧90cm
さらに以下のうちの2つ
1.脂質代謝異常:中性脂肪≧ 150mg/dl
またはHDL-コレステロール ≦40mg/dl
2.高血圧:最高血圧 ≧130mmHg and/or 最低血圧 ≧85mmHg
3.空腹時血糖: ≧110mg/dl
***************************************

  実際にこの内臓脂肪を基準にしたメタボリック症候群の診断基準が策定されました。アメリカやヨーロッパでもそれぞれ診断基準を作っています。当然欧米人と日本人は人種も違うので、日本人用の数字を出して、2005年に日本内科学会で発表されました。

  まず腹囲を測ります。男性85cm、女性90cmが第一条件です。おかしいと思いませんか。ウェストは女性より男性のほうが大きいので、腹囲は男性のほうが大きいというのが理に適っていると思いますね。ところが女性は90cmと5cmまけてくれています。なぜ5cm大きいのか。皮下脂肪は女性型、内臓脂肪は男性型と考えられ、女性はホルモンの影響で皮下脂肪がつきやすい、内臓脂肪はつきにくい。男性はホルモンの影響からお腹に内臓脂肪がつきやすい。そういう理由からですが、いろいろな考え方があるので後年変わるかもしれません。今のところ日本人女性は90cm、男性は85cmです。

  皆さんは病院で検査結果をもらっていますから、中性脂肪、HDLコレステロール、血圧、血糖などの数字をよくご存じですね。この診断基準で注意したいのは最高血圧です。病院では140mmHg以下ならOK、それ以上だと高そうだ、160mmHgを超えるとまずいなあと言われますが、この診断基準では130mmHgでもう×です。外来では135mmHgならよかったと言えるのですが、残念ながらこの診断基準では高いと判断されます。血圧が上がってくると言う病気になる前の話なので基準が、辛くなっています。血糖も110mg/dL以下なので、これもかなり辛くなっています。

 ですからお腹が出ていて、こういう健診結果が出てくると、動脈硬化が始まっていると考えて、メタボリック症候群に要注意だと警鐘しようとしています。ただしこれは始まったところですから、何とかしようとすれば何とかなります。

  腹囲の85cmないし90cmはどこから測るのか、その測り方も決められています。男性の85cmは結構厳しいですね。僕もちょっと気を許してしまうと83cmくらいにはなります。日本でもお腹が出ている方がたくさんいます。

  日本でお腹が出ているメタボリック症候群の里はどこかご存じですか。枚方も結構多いように思いますが、実は正月に探していて滋賀県の信楽にたくさんおりました。この方でだいたい100cm、この方では200cmくらいあります。何とかこのお腹を改善したいと、思わず健康科学センターの入り口にお招きしています。メタボリックシンドロームの象徴として確か‘メタポン’というニックネームが付いていたと思います。センターに来たときにはぜひお腹をなでてあげてください。

  腹囲はお臍の周りを測ります。一番細いところを測りたいのが人情ですが、そうではなくてお臍の上です。ベルトのウェストとは微妙に違いますから気をつけてください。ところが中にはものすごくお腹が出ていて、おへそが見えないとか上から覆いかぶさっている人がおられます。そのときの測り方も決まっていて、肋骨下線と前上腸骨棘を結ぶ線の中間をとります。

  自分で測るとなると少しでも成績をよくしたいのが人情です。メジャーを渡すと締めつける人がいますが、そうしないで軽く測ると書いています。普通に立って軽くあてて測ります。寝た姿勢で測ると脂肪の位置がずれます。この数字が85cmないし90cmより大きくなるとメタボリック症候群の第一歩が始まっているということでご注意ください。

  5.肥満と睡眠時無呼吸症候群

  肥満の方の特徴の一つは居眠りです。健康科学センターの肥満外来には結構たくさんの方が来られています。朝外来に来て待っている間にぐーぐーいびきをかいて寝ています。今はピッチ対応で番号で呼び出していますが、それでも目覚めず、診察室に入って来られません。なぜそんなに眠るのかというと、実は朝から眠いんですね。寝不足ではなくて、よく寝ているんですが朝から眠い。

  睡眠時無呼吸という病気はいびきをかく人に多く、ときどき息が止まります。息が止まると寝不足なって、昼間ついつい寝てしまいます。体重がふえるので運動をしようと思っても、昼間眠いので寝てしまいます。寝ると当然エネルギーを使わないのでカロリーが余って体重がふえます。それがまた気道を狭くする要因になって、いびきがひどくなり、無呼吸がひどくなるという悪循環になってしまいます。

  肥満の方の話をよく聞いてみると、ある程度肥えると急に体重がふえると言います。いびきがひどくなって無呼吸が出てきて、体重が一気にふえてしまうようです。日本人は残念ながら骨格の問題から、やせていてもいびきをかく方がいます。しかし肥満の方、中でも特にいびきのひどい方がいればチェックしてあげてくださいね。眠たいだけだといいのですが、それからメタボリックシンドロームを加速して動脈硬化をどんどんひどくさせることがわかってきています。血圧が上がり最終的に脳卒中や心筋梗塞に発展します。

  この絵の真ん中は新幹線です。5年くらい前に新幹線が止まりました。運転手は緊張して運転しているはずなのに寝てしまった。その人はさぼっているわけではなくて、この病気のために眠気が襲ってきたわけです。これもメタボリック症候群や動脈硬化とともに非常に大きな問題になっています。

  いびきは昔なら耳鼻科や呼吸器の領域でしたが、今や循環器の領域に入ってきました。そういう時代になってきました。

  6.肥満の治療

  肥満外来をやっていると、どんな治療をしているか、どれくらい成果があるかが問われます。これは某放送局の番組で、このときは内臓脂肪はどれくらい減らせるかというテーマでした。実際に患者さんを連れてきてやった生データを使いました。

  実際に肥満の方の体重を減らすにはどうしたらいいか。運動もちゃんと説明して指導します。もちろん食事についても内容や食べ方まで。食事では特に食べ方が大事です。肥満の方や体重がふえる方は同じ2000カロリーでも病院で食べれば体重は減りますが、家で食べるとふえる傾向にあります。同じものを食べていても、体重はふえるときもあれば減るときもあります。実はそれは食べ方にあります。特に肥満の方に多いのは、何も考えずに噛まずに飲み込むような早食いですね。早く食べないと怒られるようにして食べている人がいます。これが一番体重がふえる原因です。食べる時間帯も問題になります。入院中は他にすることがないので、食事はゆっくり食べていると思います。細かいカロリーの計算をしなくても大丈夫です。ゆっくり食べる、よく噛んで食べる、それだけでも確かに効果が出ます。

  気持ちの問題、心の問題もあり、何かをやろうとしてもすぐに挫折する方も多いですね。いわゆる三日坊主です。我々のところにいる臨床心理士にカウンセリングを受けていただくこともできます。そうならないように基本的には褒めちぎっています。肥満の人では少しくらい体重が減っても誰も何も言ってくれませんが、うちのカウンセラーはそれをわざわざ見つけて、少しでも減ると「よかったね」と言ってくれます。もちろん体脂肪を測定するともっと具体的にわかりますが、そういう言葉をかけてもらえると、患者さんも被験者の方もやる気を出します。

  そしていかにやる気を継続できるか。1カ月頑張ると体重は必ず減ります。ところが食事制限や運動をやっても、だいたい1週間で終わります。1日に100gくらい減りますから、体重は1週間後には確かに1kg弱は減ります。ところが翌週の1週間で戻ってしまって、2週後、3週後、4週後ともなると体重が変わっていない。「私の体重は変わらない、水を飲んでも肥える」と。実は一時は減っていますが、ふえて元に戻っていることが多い。そこを見つけて理解できれば効果が出てきます。そういう細かいところをチェックすれば、またやる気が出てきます。

  7.運動の効果

  運動をするとエネルギーを使うのはもちろん、それ以上に血流をよくし血管を丈夫にします。これは動脈硬化の予防そのものずばりです。そして運動をすると気持ちがよくなったり、楽しくなりますね。この画面ではゲームで運動をやっています。

  皆さんも暇なときにはスキップをしてみてください。どんなに怒っている人でも怖い人でもスキップをしてくれると絶対に笑います。体を動かすとリラクゼーションになります。医学的に言えば自律神経の緊張をとる効果が出ます。運動には水分を減らしたり、血糖とかコレステロール値とか中性脂肪の値の改善とか、さまざまな効果がありますから、動脈硬化を防いで長生きする一つの方法ですね。
どれくらい運動すればよいのかと皆さんから質問されます。外来に来る皆さんには気合が入っていますから、どれくらい歩きますかと尋ねると、1日に2時間くらい歩く、1日5時間くらい歩く、1日1万歩歩くという方もたくさんいらっしゃいます。40歳を超えて毎日1万歩以上歩き続けると、糖尿病がよくなりましたと言いながら、膝が痛くなったと整形外科にお世話になることがあり、歩きすぎも要注意です。

  一般には1万歩とわかりやすい数字を書いていますが、毎日1万歩も歩かなくても大丈夫です。8000歩でも十分、とにかく今の歩数よりもふやしていただければ十分効果があります。そんなに頑張って歩かなくても大丈夫です。自転車であれば膝への負担は少ないので、体重が多い方は自転車運動もおすすめです。

  そして週に2〜4回、少なくとも2カ月、3カ月続ければ十分な効果が出てきます。

  ただその運動の強さが非常に難しい。どれくらいの強さがいいかというのはその人によってかなり変わってきます。個人にあった運動の強さを調べるために、実際に自転車に乗ってどれくらい運動できるかをみて、そこから逆算します。同じ年齢でもすごく体力があって15分くらい乗れる人もいれば5分で十分息が上がる人がいますから、それぞれによって強さを変えます。日頃運動をしていればご自身でも息が上がるというのがわかりますが、運動不足になるとそれもわかりにくくなるので、検査を受けてどれくらいの運動が適切か説明を受けていただければ、より的確にその人に適した運動ができます。

  8.脂肪の燃焼

  運動するとエネルギーを使うので体重は当然減りますが、どうしても内臓脂肪をちゃんと減らしたいと考えますね。定期預金(皮下脂肪)はともかく、当座預金(内臓脂肪)だけは何とか減らしたいと。しかしあまり激しく運動しても脂肪はうまく使えないことがあります。

  運動の最初軽いところから全力疾走までを模式図にしています。マラソンランナーは42kmを2時間強で走ります。あの人たちはあの速度で走り続けるために、走っている間ずっと脂肪を燃やしています。あの速度で僕らが走るとどうなるか。息がすぐに上がって、絶対に一緒に走れません。僕たちはそのスピードに見合う速さで脂肪を燃やすことができないからです。糖質しか燃えないし、糖質はずっと持続して燃えてくれません。マラソンのつもりで走っても200mで終わってしまいます。マラソンランナーでない私たちが歩くだけなら42kmはともかくも5kmや10kmは行けるというのは、歩くスピードならそれに見合う速さで脂肪を燃やしてエネルギーを作り出すことができるからです。つまり、脂肪を燃やす運動の強さというのが非常に大事になります。

  こんな話を聞くと、翌日からフィットネスクラブに行って運動を始めるのかもしれませんね。日本人は外見から入りますから、新しい靴を買って、ウェアを新調して、きょうから運動をしようと。汗をしっかりかいて「かなりきつい」という自覚強度まで頑張りますが、やはり糖質燃焼の範囲で残念ながら脂肪を燃焼していません。糖質を燃焼すると当然お腹が減るので、ついついご飯を食べます。汗をかくから体重は減りますが、きょうくらいビールはいいかな、から揚げはいいかなと食べると、3カ月後には逆に体重がふえています。「運動しても減りません」というのは実はやりすぎですね。この頑張りすぎが逆効果になるのです。無理に強い運動をする必要はありません、軽い運動でも十分効果が出ます。

  9.運動を始めるときの注意点

  もっと怖いことがあります。この方は50歳男性で2年前の健診で血糖が高いことが指摘されて、運動を勧められした。日本人には達成感が強い方が多い。とことんやらないと気がすまないというタイプAです。歩きだして運動にだんだんはまって、ジョギングになってホノルルマラソンに挑戦したいと。

  この方は今回の健診で心電図異常があると指摘されて関西医大を受診されています。家族歴を聞いてみると、父親が若くして亡くなっています。もともとメタボリック症候群と言われている人ですから、全身の血管で動脈硬化が既に始まっています。この時点で血管がどうなっているかわかりません。

  そこで実際に心臓の冠動脈を造影してみると、左側の冠動脈は2つに枝分かれしていますが、その根元が狭くなっています。一番大事なところが詰まりかけていて、心臓を養っている大きな血管3本のうちの2本分が危険な状態でした。運動負荷の少ない日常生活では幸い全く症状がないので、検査をしないまま知らずに運動を続けると、たぶんホノルルマラソンでは倒れて残念なことになる可能性が高かったと思います。

  多くの場合、胸痛が出るのですが、この方のように症状のない方がいます。現にフィットネスクラブで倒れて我々の施設に搬送される方がいます。この方の治療は心臓の大事なところですので、院長の今村先生の守備範囲です。うまく治療できれば元気に復帰できますし、マラソンも可能だと思います。こういう病気をまず見つけておくことが大事です。

  スカッシュで亡くなる方もいます。マラソン大会で倒れる方もいます。一生懸命やる方に倒れる方が多く、事前に検査を受けていればと思います。日本人で心臓突然死で亡くなる方は年間5万人。交通事故死は3万人強ですから、それより多くの方が心臓による突然死となっています。非常に大きな数字ですね。これを何とかしたい。

  どれくらい運動すればいいか確認するために実際に運動負荷試験をしていただきます。具体的には自転車をこいでいる間に血圧や症状を確認するのですが、運動をしてどうもないということを確かめておきたい。これは毎日する必要はありません。たまにこのような検査を受けて、心臓に変化がないことを確認することにあります。なおかつその検査から先ほどの脂肪を燃焼させるための運動の強さがわかります。その検査の結果、どれくらいの運動を負荷すれば脂肪を燃やせるか、それによって一番効率のよい運動ができます。しかも安全が保証されます。病院ではここまで調べないと、先ほどの方のようにジョギングを勧めて倒れると危険なので、積極的に走りなさいとは言えません。このような検査を受けていただければその運動強度がわかります。

  他にこわいのが不整脈です。関西医大にもいたるところに不整脈を止めるAED(体外式除細動器)を置いています。心臓の発作を抑える治療機器ですね。写真のものはポータブル型で、どこでも一般の方でも使えます。除細動器は本来医療機器ですから、医療職の者しか使えないのですが、この機器だけは法律を変えてどなたでも使えるようになっています。また機会があれば講習を受けて使えるようにしていただきたいと思います。

  健康科学センターでは皆さんといろいろなイベントをやっています。この写真は年に1回やっている交野市のほしだ園地へのウォーキング・イベントで、40、50人くらい参加されています。府民の森の中で見晴らしのいいところに吊り橋がかかっています。高所恐怖症の方には渡れないかもしれません。こんなところで心臓発作が起こっても安心してください。トレーナーがいつでもどこでも対応できるようにAEDを持ち歩いています。それほど簡単な器械です。これがあるとないとではぜんぜん違います。これが現場になければその場で心臓が止まってしまいますが、現場で使えれば救急対応ができます。

  皆さんのお手許にはウォーキングチェック表があると思います。ウォーキングがいいのはわかりますが、どういうウォーキングがいいのか、チェックのための表です。日本人によくあるのが摺り足歩行です。特に足を上げるのが下手な方が多く、爪先が先に付きます。また腰が下がっている方。きょうから歩こうと思ったときに、少し姿勢を変えるだけで全く違います。これも大事で、ちゃんとしっかり歩けば膝もそんなに悪くなりません。下手に歩くとたとえ5000歩でも腰が痛くなったり膝が痛くなったりします。もちろん健康科学センターではトレーナーが実際にウォーキングチェックをして、指導してくれます。同じ時間を歩いても効果が上がってきて、メタボリックの予防になります。歩き方も非常に重要です。

  10.有効例

  ほんとうに体重が減るのか、運動が有効だった例を紹介します。この方は60代の女性で、内臓脂肪はもとからそんなにありませんが、内臓脂肪面積は53cm2。6週間の運動で32cm2まで下がっています。

  こちらの方は40代の男性です。内臓脂肪面積は124cm2です。100cm2以下が理想ですから確かに多いです。6週間の運動で64cm2までほぼ半減しました。体重は5kgくらいしか減っていませんが、内臓脂肪は非常によく減っています。うまく運動ができているとこれくらい減ってきます。

  この方は30代の男性です。この方のCTを見ると、見るからに脂肪で真っ白です。6週間で117cm2から74cm2まで減っています。CTですから普通に寝た状態で撮っていますが、お腹の張り具合が6週間の運動前後で違います。仰向けで寝たときにお腹が張るかどうかは内臓脂肪の見つけ方の一つにもなるようですが、このCTを見るとそうだろうと思います。内臓脂肪が多いと寝たときに確かに張りつめているのでお腹がへこみません。内臓脂肪が減るとお腹が下がってきます。内臓脂肪を少し減らすだけでも元気になります。メタボリックシンドローム返上です。

  11.運動医療システム

  この病院には健康科学センターがありますが、1日20人くらいしか受け入れられない状況です。もっと楽しく運動したいという方のために、近隣のフィットネスクラブとお話しして、KMFネットワーク(keihan medical fitness network)を立ち上げました。このようなクラブには、すべてのトレーナーではありませんが、教育を受けてこれまでの話を理解しているトレーナーを配置していただいています。高齢になっても基本的には体を鍛えるという気持ちがありますから、筋力トレーニングをされる方がいますが、そうでなくても十分効果が出ます。クラブでもトレーナーとお話ししてくれればと思います。

  自転車をこぐのはあまり楽しくないかもしれません。遊びながら楽しく運動したい人もいます。そこでこのようなゲームも開発しました。ジャッキー・チェンがコマーシャルをしていますが、実際にこのようにジャンプしたりステップを踏んだり、ボクシングやゴルフやテニスもあります。これは家庭用のテレビにつないで非常に楽しく気軽に運動ができます。このような自宅でやるトレーニングを‘うちトレ’と呼んでいます。

  ゲームですから、こんなもので効果があるのかと疑問に思いますが、健康科学センターではゲームしたときの心拍数や酸素摂取量や脂肪燃焼量などを計算して効果を検証しています。年齢も加味してカロリーも計算されるようにしています。

  体力測定をちゃんとしてみたいという方には別の新しいゲームがあります。テレビの前で画面を見ながら実際に体力測定ができます。飛んだり跳ねたりすると実際に画面が反応して楽しいのですが、自分がどれくらいできているのかわかりません。そこでセンサーを付けて、テレビの前でやるだけで数値が出てきます。これも励みになると思います。

  一番しんどいのは10秒間の全力ダッシュです。その歩数が表示される楽しいゲームで、ダッシュが終わると年齢と歩数が出ます。この画面の人はうちのトレーナーです。

  運動だけではやせられない、食事も大事です。もっと簡単に栄養について教えてほしい、食事をもっときちんとしたいという方のためにも、そのスタッフがいます。また栄養士に話を聞くのは面倒だし病院に行くのもたいへんだという方のために、携帯電話を使ったサービスがあります。携帯電話のカメラを使って、皆さんが食べる前に食事の写真を1枚撮っていただきます。これをメールに添付して送っていただきますと、栄養士が何カロリーか計算してくれます。そのデータはこちらで残していますから、後で見なおすこともできます。メタボリックシンドロームの方の食事には油ものが並びますが、それを指導していくとあっさりしたものに変化します。写真でもわかりますし、実際に栄養士から栄養指導のメールも届きますので、これも励みにもなります。

  某番組から記者さんがきて、このシステムがどれくらい機能しているのかを確かめています。記者さんは写真を撮るだけですから、そう面倒ではありません。うちの栄養士がそれをチェックします。一番新しい方法はテレビ電話で同様のことができるようにしています。お話ししながら栄養指導を受けていただきます。皆さんの負担をできるだけ少なくして栄養指導ができるように整えています。

  また当センターでは自転車の貸出もしています。いろいろなツールを使って皆さんの健康に役立ちたい。病院に来なくても簡単に自宅で健康に気をつけていただいて、少しでも病気の予防になればというのが今のメタボリックシンドロームの新しい考え方であり今後の有効な方法だと思います。

  そして最後に、もっと若返りましょう。メタボリックシンドロームの最も新しい考え方は突き詰めるとアンチエイジング(抗加齢)になります。若返りとは言いませんが、若さを保つための治療につながります。

  健康科学センターのスタッフを紹介します。糖尿病の先生、大学院の先生、トレーナー、検査技師、管理栄養士、カウンセリング担当している臨床心理士、調理師の方々がいます。ホームページにも掲載していますので機会があればごらんください。
どうもありがとうございました。

 


関西医大HOME ->市民公開講座目次 -> 第9回市民公開講座 (2006) 目次-> メタボリック症候群の予防と管理