関西医大HOME -> 市民公開講座目次 -> 第10回市民公開講座 (2008) 男女ともに見られる尿漏れ、頻尿
関西医科大学第10回市民公開講座
演 題:男女ともに見られる尿漏れ、頻尿
室田 卓之先生(関西医科大学附属滝井病院泌尿器科部長)
日 時:平成20年(2008年)2月2日(土))
関西医科大学附属滝井病院本館6階臨床講堂

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 演 者:室田 (関西医科大学附属滝井病院泌尿器科部長)

 きょうは「男女ともに見られる尿漏れ、頻尿」と題してお話をしますが、尿もれ(尿失禁)と頻尿とは実はほとんど同じものです。そこに新しく2000年頃から、概念が少し変わってきて「過活動膀胱」という言葉が新聞や雑誌等でたくさん使われるようになってきました。そのあたりをご理解いただくために話をいたします。

 

 【正常な排尿とは?】

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 正常な排尿とは? (成人の場合)

 ・1日の排尿量   :200〜400mL

 ・1回の排尿時間  :20〜30秒

 ・1日の排尿量   :1,000〜1,500mL

 ・1日の排尿回数  :5〜7回

 ・排尿間隔      :3〜5時間に1回(起きている間)

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 正常な排尿とはどういうものか。自分のこと以外、他人の排尿状態をそう簡単には知ることはできません。生まれ育ってきて、自分にはそれがずっと当たり前のことで、それが正常だと感じていると思います。

 一般的に正常な排尿とは、1回量は200〜400mLと言われています。コップ2杯くらいですね。1回の排尿時間は20〜30秒くらい、少し時間がかかると思っていても1分以内です。これくらいの排尿時間で200mLの人もいますし、400mLぐらいを20秒くらいでさっと出す方もいます。1日排尿量は朝から晩まで尿をためると、1,000〜1,500mLあります。これは水分の摂取量によって変わってきますが、だいたいこれくらいです。発汗する夏場や運動の後では排尿量は少し少なめになります。

  割り算すると1日の排尿回数は5〜7回。少し多く2,000mL/日くらい尿を作る方では排尿回数も少し多くなることもあります。排尿間隔はその回数から計算してみると、3〜5時間に1回。夜寝てから朝起きるまでに1回くらいあってもおかしくないと言われています。

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 ・お腹に力を入れなくても排尿できる

 ・尿が途中で途切れたり、なかなか終わらなかったりすることがない

 ・残尿感がない

 ・尿失禁や尿もれがない

 ・排尿後、すぐに尿意を感じることがない

 ・普通排尿のために夜起きることがない

 ・尿意をはっきり感じてからもある程度がまんができる 

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 排尿するときにお腹に力を入れなくても尿が出せる。途中で途切れたり、なかなか終わらなかったりすることがない。排尿した後、おしっこがまだ残っているかなあという感覚(残尿感)もない。トイレがないところでもらすこともない。排尿後トイレを出てドアのところでまた行きたくなるという感じもない。夜寝てから朝起きるまで排尿がない。おしっこしたいなあという気持ちを感じてからある程度がまんできる。この‘ある程度’というのは1時間か30分か15分か10分か、個人によって違います。病的な場合には1時間も頑張ると倒れそうになるので、だいたい15分と定めています。

 この図には前立腺が描かれているので男性です。ためるところ(膀胱)から尿道はつながっていて、バルブ(括約筋)があります。

 蓄尿状態:膀胱の中に尿がたまってきて膀胱が膨らみます。その刺激はずっと頭のほうに行っています。ところが「ここにはトイレがないからがまんしなさい」と抑制がかかります。赤ちゃんの場合はこの抑制系がなくて、ある程度尿がたまると反射が起こって排尿します。「尿がたまりました」と頭に指令が行きますが、「ここはトイレのない電車の中です」と自分が意識しなくても抑制しています。「これ以上ためることができない(最大尿意)」という指令が行っても、「それでもここにはトイレがない」ということになれば、さらに強い抑制がかかります。

 排尿状態:先ほどあった抑制が解除されて、「がまんしなくてもいいですよ」という命令が行きます。出口にある括約筋が広がり、膀胱はぐっと自然収縮して正常な排尿が起こります。

 尿のトラブル、どんなことで悩んでいるかについて日本排尿機能学会の統計を見てみます。男女別になっています。昼間の頻尿、夜間の頻尿、排尿に勢いがない、残った感じがする、おむつを使用しているなどが挙げられています。

 【排尿障害の原因】

 排尿障害はどういう原因で起こってくるのか。男性には前立腺という精液を作る臓器があり、45歳くらいからホルモンのバランスが変化してくるので、テストステロンが下がることで前立腺肥大症を起こす場合もあり、急激にふえても前立腺肥大症を起こす場合もあります。前立腺に細菌が入って炎症を起こして腫れる、前立腺にがんができるなど。

 膀胱については、蓄尿機能で起こる過活動膀胱。膀胱炎、膀胱がんなど膀胱に何らかの刺激がある病気で障害が出てきます。

 その他に尿路や膀胱に結石ができて粘膜上をころころ転がることで刺激されて頻尿になったり、糖尿病がすごく進行すると末梢神経障害を起こして膀胱にも障害が出てきます。尿道炎。例えば試験前におしっこに行きたくなる、講演前になるとトイレに行きたくなるなど、精神的な要因で頻尿になることがあります。

 意外に忘れられているのは服用中の薬の要因です。高血圧の治療薬である利尿剤は体からどんどん尿を出すようにしますので、この薬を飲んでいると尿量がふえて何回もトイレにいくようになります。「朝ご飯を食べてからお昼まで、その間のトイレ回数が多い。夕方になると減る」、このような朝だけという方の話をよく聞くと、血圧が高くて利尿剤を飲んでいることがあります。もちろん内科の先生は「尿を出す薬ですよ」という説明をされますが、実際に飲んでみないことにはどうなるのか理解できない場合があります。

 排尿の状態がおかしい、つまりがまんできずにトイレに駆け込むような尿意切迫感や尿失禁は薬剤性によるもの、脳梗塞、脊髄損傷、交通事故などによる中枢神経障害によるもの、交通事故で足をけがすることがありますが、膀胱そのものを傷つけてもそういうことが起こります。

 女性と男性では少し違って、女性特有のものに腹圧性尿失禁があります。膀胱の中に尿がたまっているときにくしゃみや咳をするともれることがあります。男性の場合には前立腺が大きくなる前立腺肥大症。女性と同じでトイレが近い頻尿、尿失禁、尿意切迫感。前立腺肥大症には尿が出にくいという排尿困難に特徴があります。

 【尿もれ(尿失禁)とは?】

  尿もれとはどういうことか。

 (1)突然おしっこをしたくなるが、トイレに間に合わない

 (2)くしゃみ、咳でおしっこがもれる。

 (3)坂道や階段を下るとき、重いものを持つときにもれる。

 (4)出産後、おしっこがもれるようになった、という状態です。

  尿もれのタイプにはお腹に力を入れるともれる腹圧性、脳梗塞や脳出血などの後遺症のような中枢性の障害や髄膜炎から神経障害となったような神経因性、膀胱自体に問題がある非神経因性、そして溢流性。

  前立腺肥大症の末期になるとおしっこが出ない、残尿がどんどんふえていっぱいになっても尿が作られるので、オーバーフローの状態になってポタポタと溢れ出てきます。尿が実際にどれくらいあるかと調べると1,000mLもあったというときの尿もれです。「おしっこが出ないのですか」と尋ねると、「頻尿で困っている。10分毎に出るんですが、チョロチョロしか出ない。でもお腹が張ってしんどい」という場合、溢流性のこともあります。

  もう少し詳しくみてみます。神経と膀胱の筋肉の間に神経・筋接合部というところがあり、神経からアセチルコリンという物質が出てきて膀胱の筋肉に引っつくと、膀胱が収縮します。正常な膀胱では排尿時にはアセチルコリンという物質が働いて筋肉を収縮させています。このアセチルコリンが過剰に出ていて、いつも収縮するような状態となったのが過活動膀胱です。

  糖尿病によって末梢神経が障害されると、受ける側の膀胱にも障害があり、神経側にも障害があります。アセチルコリンを出す神経の側、受け皿となる膀胱の側のいずれかが障害されると、今度は逆に低活動膀胱になります。膀胱が収縮しない、伸びきった風船のように膨らんできます。

 【頻尿とは?】

  どれくらいの回数を頻尿と定義しているかというと、トイレ回数が日中に8回以上、夜間に1回以上あるときを頻尿と定義しています。頻尿の症状は尿量が多いから、尿が全部出ずに残尿があるから、1回に出る量が少なくなっているから、そういう理由で起こってきます。

  ここで算数の時間です。考えてください

 問1)  1600mL ÷ 200mL = 8

      3200mL ÷ 200mL =16

 1日の尿量1600mL、1回に200mLずつ排尿すると、1日8回になります。1日の尿量が倍の3200mLになると16回になります。これは頻尿ですが、1回の量200mLは正常です。これは多尿という状態で、頻尿を訴える一つですが正常です。


 問2)  1600mL ÷ 200mL = 8

      1600mL ÷ 100mL =16

 1日の尿量が1600mLで、1回に200mLずつ排尿すると8回トイレに行きます。ところが何らかの理由で膀胱の容量が半分の100mLに小さくなると、16回トイレに行きます。1回量が100mLというのは異常です。

 患者さんのお話を聞いていると、問1のような3200mL/日の場合がありますし、問2のように実際に状態が悪くなって100mL/回の場合があります。尿量が多くなっていることでまず考えられるのは水分の摂りすぎです。最近ふえてきました。昼のワイドショーで「夜寝る前に水を飲んだほうがいい」「朝起きたらまず水を飲みましょう」「トイレの後には水を飲もう」などと放送された後、実行された方は多尿になります。泌尿器科医の間でその話が出て5、6年くらい経ちますが、一時期、実際には正常ですが夜間頻尿だと思って受診する患者さんがめちゃくちゃふえました。正常の腎臓の機能を持っている人が水分を摂りすぎたら、尿量がふえてトイレ回数が多くなります。そういう社会的な要因もあります。

 初期の糖尿病では喉が渇くので、水分を多く摂り、多飲・多尿の状態になりやすい。また利尿剤を服用しているとき。加齢によって腎臓機能が低下すると夜間頻尿が起こります。

 1回に出る尿量が減ってくる、残尿があるということは、200mL膀胱でたまっていても100mLの残尿があれば、1回量は100mLしか出てきません。結果的に膀胱が小さくなったことと同じで回数がふえてきます。実際に膀胱が小さくなっていくタイプもあります。

 昼間は普通に尿が出ていても、なぜ夜間はおしっこの回数が減るのでしょうか。夜になると抗利尿ホルモンが頭のほうから出てくるからですが、抗利尿ホルモンは一生懸命作った尿から水分をまたくみ上げて体内に戻します。そのために朝一番のおしっこは濃縮されて色が濃くなっています。ところが高齢になると抗利尿ホルモンの分泌が減ってくるので、昼間と同じだけ夜間でも尿を作って排泄しようとするから、夜間にトイレの回数がふえていきます。それともう一つ、高齢者は睡眠が浅い。目が覚めたついでにおトイレに行っておきましょうかと。おしっこのせいで目が覚めたと勘違いしていることがあります。こういう方に睡眠薬を使って深い眠りにすると、夜間頻尿が減ってきます。

 精神的な原因、例えば入社試験があって心配だ、がんかどうか結果が心配だ、電車にはトイレがないなど、実際に心に負荷がかかったような状態になると何回もトイレに行きたくなります。これを心因性頻尿とも呼んでいますが、過活動膀胱の原因ではありません。このとき正常な膀胱の容量である300mLくらいまでたまらずに、100mLとか200mLでトイレに行ってしまいます。膀胱を限界まで膨らまさないので、膀胱は怠けて小さくなって、100mLで行きたい。それを繰り返しているとどんどん小さくなります。精神的な原因で頻尿がある方には膀胱が小さくなっている方がいます。それは膀胱を膨らませる訓練をすることで解消できます。

 今話題になっている排尿障害について、病院に行かない理由を日本排尿機能学会でアンケート調査を行っています。1番は頻尿だけども「困っていない」。夜中に3回も4回も起きても困っていないから。2番は「歳をとれば当然」。体の変化で老化の場合もありますし、そうでない場合もあります。多くの方は高齢になればトイレが近いのは当たり前、老化だと自分で判断しています。3番目は泌尿器科を行くのが「恥ずかしい」。「治療できない」ので行かないですませよう。この順番です。

  

 【過活動膀胱とは?】

 今まで話してきた尿意切迫感(おしっこに行きたいと思ったときにもれそうになること)、頻尿、尿もれ、こういう状態をひっくるめて過活動膀胱と言います。過活動膀胱とは尿意切迫感があり頻尿があり尿もれがある。切迫性尿失禁は該当しますが、腹圧性尿失禁は違います。

 「尿をする回数が多い」、「急に尿をしたくなってがまんが難しいことがある」、「がまんできずに尿をもらすことかある」、このうち1つでも症状がある方は過活動膀胱の可能性があり、次の質問票を使って最近の1週間にこの症状が何回あったかを答えていきます。過活動膀胱に該当としないときは次の質問票は飛ばしてください。


  お手許に過活動膀胱症状質問票があると思います。

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 1. 朝起きた時から寝る時までに、何回くらい尿をしましたか。

   0点:7回以下、1点:8〜14回、2点:15回以上

 2. 夜寝てから朝起きるまでに、何回くらい尿をするために起きましたか。

   0点:0回、1点:1回、2点:2回、3点:3回以上 

 3. 急に尿がしたくなり、我慢が難しいことがありましたか。

   0点:なし、1点:週に1回より少ない、2点:週に1回以上、

   3点:1日1回くらい、4点:1日2〜4回、5点:1日5回以上

 4. 急に尿がしたくなり、我慢できずに尿をもらすことがありましたか。

   0点:なし、1点:週に1回より少ない、2点:週に1回以上

   3点:1日1回くらい、4点:1日2〜4回、5点:1日5回以上

 合計は・・点?

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 症状質問票による過活動膀胱の診断基準と重症度判定です。質問3の尿意切迫感スコアが2点以上、かつこの質問票の合計点が3点以上であれば過活動膀胱と診断します。質問3の2点とは「週に1回以上がまんすることが辛いと思ったことがある」ということですね。それと他に1点あれば過活動膀胱となります。合計点が5点以下なら軽症、6〜11点では中等度、12点以上では重症と分類します。

 過活動膀胱の患者さんは日本には40歳以上の人口の12.4%、810万人くらいいます。そのうち尿もれのある方は430万人、尿もれがないけども症状がある方が380万人という統計が出ています。それ以外に女性が主ですが腹圧性尿失禁の患者さんが540万人います。40歳以上の人口が6600万人くらい、その12%ですから、男性では7人に1人くらいは過活動膀胱です。

 その受診率ですが、泌尿器科や内科を受診しているのは全体の22.7%。年齢が上がるとともに受診率は大きくなります。特に男性では過活動膀胱に前立腺肥大症が加わりますから非常に多くなります。日本排尿機能学会は泌尿器科医らの学会ですので対象は男性が多く、女性は婦人科や内科で治療されることもあります。ですから女性のデータはあまり参考にならないかもしれません。

 過活動膀胱を1日8回以上の頻尿と週1回以上切迫感があることと定義して、その有病率をみると、40代の5%前後から始まって、80歳以上では40%近くまで高くなっています。

 なぜ過活動膀胱は起こるのか。

原因(1)神経系のトラブル:中枢の脳卒中や脊髄損傷の後遺症で、脳と膀胱の筋肉を結ぶ神経の回路に障害が起きた場合。

原因(2)男性の場合:前立腺肥大症。

原因(2)女性の場合:骨盤底筋のトラブル。出産や加齢によって子宮、膀胱、尿道を支えている骨盤底筋が弱くなった場合。

原因(3)それ以外の原因:特定できない場合も多い。

  頻尿を伴う病気や疾患

(1) 膀胱の異常:膀胱がん、膀胱結石、間質性膀胱炎。膀胱自体を刺激する、その刺激によって正常でない反射が起こって膀胱が収縮することもあります。

(2) 膀胱や尿道の周りの異常:前立腺肥大症、子宮内膜症、尿管結石、尿道結石。

(3) 感染:膀胱炎、前立腺炎、尿道炎

(4) その他:多尿、心因性頻尿。

  膀胱がんであれば手術をする、結石があれば取り除くことで症状が改善します。このような病気や病態はその原因を取り除けば頻尿がなくなります。

  ところがこれらの病気や病態が何もないのに過活動膀胱になっている人がいます。そのような人にはここに挙げている治療をします。

(1) 行動療法(生活指導、膀胱訓練、骨盤底筋訓練)

(2) 薬物療法(抗コリン剤)

(3) その他の療法(電気刺激療法)

 何もない方に対する行動療法。コーヒーを飲みすぎない、お茶も紅茶もよくない、トイレは早めに行きましょう等の生活指導をします。トイレの場所を確認しておけば心因的な不安から起こる頻尿もなくなります。太子今市駅から梅田まで通っている方が頻尿になって、この方法で解消した方がいらっしゃいます。駅に着くたびにトイレに駆け込むことがありますが、○○駅のトイレはどこにあるかを確認しておいて、乗って不安になれば次の駅のトイレに行く。膀胱訓練はトイレをがまんする訓練で、きょうは○○駅までトイレをがまんしてみようと訓練して改善させます。女性には特に骨盤底筋の訓練をします。それと薬物療法と電気刺激療法があります。

 どれくらいトイレをがまんするか。初めは15分くらいから始めて1時間くらいがまんできるように間隔を延ばしていきます。目標は2、3時間です。これで治っていく人はいいんですが、この訓練が不十分なら腹圧性尿失禁の治療でもある骨盤底筋訓練をします。膣と肛門を意識的に閉めたり緩めたりする体操です。訓練用のビデオがありますので、体操を3カ月くらい続けてください。1カ月や三日坊主ではよくない、3カ月くらい続けると併用している薬をなくすことができます。30%くらいの方はこれで改善するというデータがあります。

 先ほど出ましたアセチルコリンについて。アセチルコリンが出すぎているために過活動膀胱になっている場合、このアセチルコリンを抑えようというのが抗コリン剤です。アセチルコリンが膀胱の筋肉に引っつかないようにして膀胱の収縮を抑えます。この2年ほどの間にいろいろなタイプの薬が出ています。

 抗コリン剤の一番の副作用は口渇です。何度も水を飲みたくなる、そうすると尿がたくさん作られて頻尿になって、抗コリン剤を飲む……。頻尿を改善する薬を飲んでも治らないと言われますが、口が渇くだけで実際に体内の水分が少なくなっているわけではありません。水分を補給する必要はなく、飴玉でも舐めて唾液腺を刺激して唾液を出すことで副作用の予防ができます。

 もう一つは日本ではあまり実施されていない電気刺激法です。埋め込みタイプで、副作用も少なくて効果もよいと言われていますが、滝井病院でもやっていません。自分で装置を購入するのですが、意外に高価なので保険診療の関係からまだ普及しておりません。

 

 【女性の排尿障害:腹圧性尿失禁】

 咳やくしゃみ、笑ったり重いものを持ち上げたり、走ったり階段を降りたり、腹圧がかかったときにもれます。例えば膀胱がいっぱいのときにおもしろいテレビを見てケタケタと笑ったらもれてしまった等。子どもでもおしっこをがまんしながらテレビを見ているときがあります。

 腹圧性尿失禁の頻度は出産と関係があり、未産の方は少なく、初回分娩の方は10%強、多経産の方は20%強です。女性の場合、分娩によって骨盤底筋が10cmくらい拡張します。伸びきった筋肉をできるだけ早く元に戻すために、最近は分娩後も早くからリハビリするように、運動のためにどんどん歩くように指導しています。このようなデータが出ていますが、次回データを取ったときには、このデータより少なくなっているかもしれません。70歳以上で出産経験を持っている方ではこのように高い失禁率が出るかもしれませんが、今の30代の方ではもう少し低いはずです。山口大学の病院看護師(20〜59歳、平均35.7歳)にアンケート調査した結果では、尿もれの経験は非分娩者では13.2%、分娩者は50.4%でした。

 どうしてもれるか、腹圧がかかっても骨盤底筋が正常に働いていないとき(左絵)と働いているとき(右絵)を描いています。膀胱とハンモック(骨盤底筋)と尿道をつり上げる筋肉があります。腹圧がかかったときにちょうどうまくひっかかっています。下がっても尿道がぐっと挙上され、均整を保ちます。それが具合悪くなります。

 腹圧性尿失禁と診断するために、残尿があるかどうかの検査、ストレステスト、パッドテストをします。ストレステストは膀胱に尿がたまった状態で咳をしてもらいます。ちょっとお腹に力を入れて尿もれがあるかどうか。パッドテストは実際にどれくらいの量がもれるかテストをします。500mLくらいの水を飲んだ後、縄跳びしたり階段を昇り降りしたりした1時間くらい散歩をしてもらったり。高齢の方に縄跳びは無理なので散歩をした後、パッドにどれくらいもれているかを調べます。

  治療には

 (1) 下部尿路リハビリテーション(骨盤底筋訓練、膀胱訓練、電気刺激法

 (2) 薬物療法(βアドレナリン刺激薬)

 (3) 手術(尿道スリング手術(TVT法))

  リハビリテーションとして骨盤底筋が弱っているのでそれ用の体操、トイレを少しがまんする膀胱訓練、電気刺激療法、その他に薬物療法と手術があります。尿道を締める括約筋が緩くなって膀胱と尿道の角度が悪くなり、そのためにもれることから、薬物療法では骨盤底筋の筋肉の緊張高める薬を使います。僕らはスピロペント(成分名クレンブテロール)という気管支にも使われている薬を使っています。

 それでもどうしても具合が悪い人、例えば膀胱脱とか子宮脱に伴う排尿障害にはテープを入れるスリング手術をします。昔はつり上げ術とも呼んでいました。尿道を引っ張りあげると尿は止まるけども、つり上げたままでは排尿困難なります。その点を改善した手術で、テープを通すだけで何もしません。腹圧がかかると自然に膀胱が落ち込んでいくのを利用して均整を保ちます。

 

 【男性の排尿障害:前立腺にかかわる病気】

 男性の方、こんなことで悩んでいませんか。夜中に何回もトイレに起きる。出るまでに時間がかかる。後ろに人が立つと気になって出ないという人がたくさんいらっしゃいますが、誰もいないときでも時間がかかる。おしっこの勢いが弱い。お腹に力を入れないとうまく出ない。残ったような感じがある。トイレに間に合わずにもれてしまう。会陰部に不快な感じを持つ。

 尿にトラブルがあると、血尿であるかどうか、細菌が混ざっているかどうか、炎症があるかどうか、これらの尿検査をします。男性ですから前立腺がんの可能性を調べるPSA(前立腺特異抗原)を血液検査で年に1回測定しましょう。

 厚労省はPSAと死亡率との関係についてはっきりしたエビデンスが出ていないことから、PSAの集団検診は意味がないと結論を出しましたが、日本泌尿器科学会は即日に反論を出しました。欧米のデータを厚労省の研究班は取り上げていなかったようです。実際は生命予後と関係します。そのデータが日本でぼちぼち出てくるようになりました。PSA検診の意義はあると僕は当然思っています。55歳以上になると年に1回健診を受けてください。早期発見されると、10年生存率は98%くらいありますので、非常に有意義な検査だと思います。

 前立腺の大きさは超音波検査で見えますが、その硬さは触診でないとわかりません。このスライドの超音波の画像では前立腺が腫れていて、その中に一部黒くがんが描出されています。さらに結石も見つかりました。尿に勢いがあるかどうかはテストをしなければなりません。実際に器械に向かって排尿していただきます。だらだらと出る方もいますし、勢いよくさっと出る方もいます。前立腺肥大症のために最大尿流率が10mL/秒以下になっていても、手術をすると20mL/秒ぐらいまで改善させることが可能です。

 前立腺肥大症の復習になりますが、前立腺が大きくなるとその中を通っている尿道を圧迫して、尿が出にくくなります。尿がなかなか出ない、そのためにトイレ回数がふえます。実際に尿が膀胱の中に残っている感じがします。最近のとらえ方として専門的には前立腺の腫大、下部尿路症状、膀胱出口部の閉塞を3要素と考えています。膀胱がしっかり収縮しない、勝手に収縮してしまう、前立腺が大きくなって尿道に閉塞がある。これらが関連して排尿困難(排尿症状)、頻尿(蓄尿症状)、残尿感(排尿後症状)を呈します。これが前立腺肥大症の特徴です。

 がまんできる程度ならいいのですが、前立腺肥大症を放っておくとどうなるのか

 (1) 膀胱の筋肉が異常な動きを生じやすい。正常の膀胱であっても出るところが細くなっておしっこがうまく出ないので、いつも膀胱に圧力がかかった状態になります。過活動膀胱となり、異常な働きを生じやすくなります

 (2) さらに放っておくと膀胱の筋肉までおかしくなって、膀胱の機能が衰えて残尿が生じやすくなります。これは突然起こってきます。膀胱から尿がうまく出ない尿閉状態で、自分では出せません。あまりに残尿が多くなると、例えば800mL以上に膨らんだ膀胱を8時間放置しておくと、膀胱の筋肉に働いている神経の接合が外れてしまって、今度は収縮できない低活動膀胱になります。

 (3) 残尿がどんどんふえてくると腎臓の機能が低下します。腎臓で作られた尿は尿管を通って膀胱にたまりますが、出口が混んでいると腎臓で作っている尿が流れなくなって腎臓が腫れてきます。水腎症からさらには閉塞性腎不全、尿毒症に進展します。

 (4) 尿閉を起こすことがある。普通はどうもないけどもアルコールを飲んだ後、あるいは風邪薬を飲んだ後、急におしっこが出なくなることがあります。誰でも風邪薬を飲んだ後は出にくくなりますが、それを感じるかどうかは前立腺の大きさによって違ってきます。

 頻尿と尿意切迫感と切迫性尿失禁は蓄尿症状です。これを治療するには抗コリン剤を使用します。

 

 生活習慣病と尿のトラブル。糖尿病と排尿障害とは関係があります。喉が渇くからたくさん水を飲みます。膀胱の機能は正常でも多飲・多尿になり、量がふえることで頻尿になります。糖尿病がどんどん進むと末梢神経障害が起こってきて膀胱の神経も侵されてきます。低活動膀胱になり、残尿がふえてきます。高血圧や心不全の治療に利尿剤、血管拡張剤、強心剤等が使われ、それによって尿量がふえることで症状が出てきます。

 感染すると排尿に関してどんなトラブルが出てくるか。同じように頻尿や尿もれを起こしてきますが、尿道炎や膀胱炎のような細菌感染症は原因を排除できれば改善します。抗菌剤を服用して3、4日間、急性膀胱炎の場合にはほとんど1日でよくなります。感染してしばらく経っている方は3、4日くらい服用していただきます。

 前立腺炎。急性の前立腺炎は高熱が出ます。放っておくと敗血症になってショック死となることがあります。それでも初めは排尿時に痛みがあり、頻尿になるという同じ経過をたどります。慢性の前立腺炎は少し難しい。細菌感染によるものとそうでないものとがあり、細菌感染によるものは抗菌剤を割合長期間服用しながら治していきます。菌の存在が証明されない無菌性については前立腺マッサージや温熱療法などで治療しています。

 膀胱がん。頻尿や尿失禁という症状が出現するものとして膀胱がんがあります。50歳以上の男性に比較的多く発生し、初期症状は血尿です。自分で尿に血が混ざっていることに気がついたらすぐに泌尿器科に来てください。

 がんを見過ごしてしまうよくある例は、けさ血尿が出たけども何も症状がない、夕方には出ていなかった。これで治ったと思う方が非常に多い。また半年か1年くらいしてまた出血するけども、2、3日続くと出なくなった。また1年くらい経って症状が出てきます。排尿時に痛みがあって残尿感が出たり頻尿になったりします。今度血尿が出たときには止まらない。そうなってやっと来院される方が割合います。

 膀胱がんの場合、自覚症状が初期にはないので、1回でも自分で見て血尿を確認した方は泌尿器科を受診したほうがいい。検査としては尿検査、細胞検査でがん細胞がないか、超音波やCTでもみます。ここには書いていませんが、膀胱鏡で見るのが一番いい方法ですが、ちょっと辛い検査です。治療は内視鏡で経尿道的に切除する手術法か化学療法です。膀胱の中に薬を入れるという治療をします。

 頻尿と血尿があればやはり注意すること。もちろん膀胱炎でもそうなりますが、50歳以上の男性で肉眼で血尿とわかればおかしいと考えて、泌尿器科を受診するといいと思います。

 最後のまとめです。頻尿と失禁に関する疾患。トイレが近い、頻尿になっている、おしっこが出にくい、切迫感がある。こういう症状があればこれまでお話ししてきたような病気が考えられます。過活動膀胱はがまんできるなら放っておいても大丈夫でしょう。腹圧性尿失禁も症状が弱ければがまんできる方もたくさんいらっしゃいます。だけど膀胱がん、前立腺がんあたりが怖いですね。こんな症状が続くようであれば泌尿器科にご相談いただいたらいいかと思います。

 きょうは泌尿器科医の集まりである日本排尿機能学会が排尿異常について啓蒙するために作ったスライドを主に使って説明いたしました。どうもありがとうございました。

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