関西医大HOME -> 市民公開講座目次 -> 第10回市民公開講座(2008) 膝の痛み −主に変形性膝関節症の原因と予防及び治療−
関西医科大学第10回市民公開講座
演 題:膝の痛み −主に変形性膝関節症の原因と予防及び治療−
大野 博史(関西医科大学附属枚方病院整形外科助教)
日 時:平成20年(2008年)4月19日(土))
関西医科大学附属枚方病院13階講堂

-----*-------*-------*-------*-------*-----


 演 者:大 野(関西医科大学附属枚方病院整形外科助教)

 1.はじめに

 普段私は膝関節の疾患を専門にしておりますので、今回はわかりやすく膝についてお話しいたします。当然のことながら膝の痛みにもさまざまな原因があり、すべてをお話しするわけにはいきませんので、これから高齢者がますます増加していくとともにふえると思われる変形性膝関節症についてお話しします。その原因と予防法と治療について、特に当院で行っている外科的治療とその現状についてお話しします。

 一般に日本は世界でも有名な長寿国です。一番上にある日本の平均寿命はWHOの2004年の世界保健報告によれば、女性85歳、男性78歳と言われています。一方、健康に支障なく生活できる年齢は女性77歳、男性72歳くらいまでですから、実際のところ自立できなくなって亡くなるまでの8年ないし6年間、日常生活で支援や介護が必要になってきます。 

 平均寿命が80歳を超えるのが最近では当然のように言われていますが、我が国では平均寿命が50歳を超えたのは実は昭和22年、それほど時間が経っていない。60年ぐらいの間の医療の進歩がそれにいかに貢献したかと思います。江戸時代初期の平均は30歳くらいだったと言われています。

 変形性膝関節症は高齢になるほど罹患率は高く、これで悩んでおられる方がたくさんいます。東大の22世紀医療センターのコホート研究によれば、男性の場合50歳以上の44.6%、840万人、女性の場合50歳以上の66.0%、1560万人になると報告されました。実際に介護を受けている方の原因を厚労省が調査すると、要支援では17.5%、要介護では8.9%と関節症が大きく関与しています。

 

  2.膝の構造

  具体的に膝の構造についてみていきます。広辞苑には膝について「脚のももとすねをつなぐ関節の前面、ひざがしら」と載せています。膝を中心とした正常な脚の形は、一般に脚はまっすぐだと思われていますが、実は180°真っ直ぐではなくて、少し外側に反っているいわゆるX脚になっています。3°程度ですからごくわずかですが、右側のきれいな女性の脚を見るとその傾向がわかると思います。

 ところが生まれたときは実はやや内側に反っているO脚になっていることが多い。これが歩行期になって、だいたい4歳くらいになると成人の脚の形に落ち着いてきます。このO脚の形状が将来の変形性膝関節症に関与するとも言われ、出生時にほぼ決まっているのが現状です。

 膝関節の構造は具体的にどうなっているのか、膝の中を具体的に見ていきます。レントゲンを撮ってみると、単純に大腿骨、脛骨、お皿と言われる膝蓋骨、こういった簡単な形状です。ところが実際の膝の中は非常に複雑で精密にできています。骨以外に関節包、靱帯、軟骨、筋肉などから構成されている軟部組織があり、逆に言えばこういったものが傷つくと膝の痛みとなり、関節が不安定になることもあります。

 簡単に絵で示すと、大腿骨、脛骨、その側に腓骨があります。横から見ると、大腿骨の前面にお皿と言われる膝蓋骨があります。関節包があり、半月板も実は軟骨の一部です。関節包の内側には滑膜があり、滑膜から分泌される滑液はこういった軟骨に栄養を与えています。一般に膝に水がたまると言われますが、それもこの滑膜から出てきます。その水は正常な水ではなくて、痛みを起こす物質を含むことがあります。関節の中には通常3mL程度の関節液があります。

 今回のテーマである膝の痛みは、特にこの変形性膝関節症においては、軟骨、半月板、滑膜にその原因があります。ですからそのへんを中心にお話しします。

  これは関節鏡という内視鏡で膝の中を覗いたときに見える像です。上には大腿骨があり、下には脛骨があり、この表面はきれいな滑らかな軟骨で覆われています。白いのが正常な軟骨です。この骨の間にあるのが半月板で、これもクッションとして大事な軟骨です。

  表面の軟骨はこのような形状をしています。表面からいつくかの層に分かれていて、軟骨細胞がこの中にまばらにあります。この軟骨細胞の周りにはヒアルロン酸、コラーゲン、水などからできているスポンジのような軟骨マトリックスがあります。膝の痛み予防のためにヒアルロン酸、コラーゲンを補給しようとサメの軟骨などサプリメントを飲むこともあると思いますが、サプリメントを飲んでも軟骨に供給されるかどうか、ほんとうのところは実はわかっていません。軟骨の構造は実はまだまだわからないことがあり、世界中で研究されています。

 このように軟骨にはスポンジのようなマトリックスがありますので、体重がかかるとその中から水分が抜けて凹み、荷重が抜けるとまた水分が戻ってきて膨れます。このようなクッションの役割を繰り返しています。この繰り返しの間に、滑膜からヒアルロン酸など栄養が関節腔に出てきて軟骨に供給し、出てきた老廃物は取り除かれて外で処理をします。そういった循環も行われています。

 

 3.半月板の形状と役割 

 半月板は大腿骨と脛骨の間にあり、辺縁が分厚くて中心部が薄くなっているすり鉢状の形状をしています。内側半月板と外側半月板で少し形状が違いますが、膝関節に2つあります。この本来の目的は衝撃を吸収するクッションとしての役割ですが、その他に膝を安定させたりスムーズに動かしたり。ここに描いてあるように、体重を受ける脛骨の上端は割と平らで、上の大腿骨の下端は丸くカーブしています。平らな脛骨は大腿骨のカーブした一点で接しているように見えますね。そこに体重がかかると、体重のストレスはこの一点に集中するので、荷重がかかりすぎて傷みやすい。したがって体重を分散するように半月板が間に挟まっています。この半月板を損傷したり半月板がすり減ってなくなると、荷重の分散ができなくなって膝の変形が進行していきます。

 半月板は軟骨ですが、関節の辺縁から1/3程度には血流がありますが、真ん中の2/3程度は血が通っていないという特徴があります。半月板損傷でも、辺縁で切れると出血しますが、中ほどで切れると出血もしません。ですから中ほどで切れると自然に修復することができません。このような特殊な構造をしています。スライドの右端の写真は東洋人に多いと言われている円板状半月板です。このようなまん丸の半月板を持って生まれてくる方が15%くらいいらっしゃいます。

  

  4.膝関節疾患

  膝の痛みを起こす病気にはたくさんありますが、代表的な疾患を具体的に挙げれば変形性膝関節症。きょうはこの話を中心にいたします。膝は本来真っ直ぐより少しX脚ですが、真ん中のレントゲン写真のようにO脚に変形します。町中で歩いている方を見ても、O脚が強くなっている方をときどき見かけます。それ以外に関節リウマチ。若くして発症する方がたくさんいますが、高齢化社会に伴い最近では高齢になって発症する関節リウマチもあります。特発性骨壊死。原因がわかっていませんが、膝の内側の骨が壊死して非常に強い痛みが起こります。これも高齢者、特に60歳以上の女性によく起こります。偽通風は結晶が軟骨にたまって、これが原因となって非常に強い痛みを伴う発作を起こします。まれに救急車で搬送されます。

 

  5.変形性膝関節症

  特に日本人の場合、O脚になる方が非常に多い。内側型が多く、膝の内側から変形が始まり、その結果O脚になってしまいます。この方も昔は右の写真の女性のようにすらっとしていたと思います。まず歩き始めのときに痛い、階段の昇り降りが痛い、正座がだんだんとしにくくなってきた、床から立ち上がるときに痛い、膝の内側を押すと痛い、水がたまって腫れる等の症状があります。レントゲンでは水をたまってくるとお皿の形が見えにくくなってきます。

  この病気の経過をレントゲン像で追ってみます。大腿骨と脛骨があり、腓骨のある側が外側です。隙間は外側と内側で基本的に均等に開いています。これが正常です。初期になると内側の隙間が少し狭くなってきます。中期になると隙間が狭くなったりなくなったり。このへんが白く写ってきます。さらに進行すると、骨そのものの形が変わったり欠損したり、そういった経過をたどります。

 先ほどサプリメントの話をしました。サプリメントを使ったたくさんの研究がありますが、きちんと実験された報告が少なくて、サプリメントは有効だったという報告と無効だったという報告があり、どちらが正しいのかわかっていません。初期の場合、少し狭くなっているのがわかると思いますが、このような方にサプリメントを使うと有効ではないかという程度で今は理解されています。

 中期になると内側の軟骨が徐々にすり減ってきます。そして末期では隙間がなくなって骨同士があたるようになると、硬化してきます。ここの骨はえぐれています。こういった経過で徐々に変形します。

 変形性膝関節症の危険因子にはどのようなものがあるでしょうか。大森先生と古賀先生が新潟県の小さな村の健診を28年間継続して得られた結果から、多くのことがわかりました。40歳だった方は68歳に、50歳だった方は78歳になっています。一つの危険因子は女性であること。詳細はわかりませんが、筋力が弱くなる、肥満傾向である、ホルモンの影響があるのではないかと言われています。出生時のO脚のまま成長した方は内側に体重がかかりやすくなっているので、これも危険因子になります。もちろん肥満。若いときは細かった、結婚前は50kgだったとおっしゃる方がいます。関節痛が出る頃に80kgにもなっていれば、若いときと比べて30kg以上の荷物を背負って歩いているわけですから、膝にも負担が随分かかってきます。これは変形性膝関節症の男女別のグラフです。関節症は明らかに女性のほうが多い。

 その危険因子以外に、半月板を若いときに損傷してしまった場合。クッションとしての役割が少なくなったために変形性膝関節症が進行します。この原因はどちらかというと男性に多いと言われています。

 変形性膝関節症、リウマチ、通風では滑膜から軟骨を破壊する異常な物質が出てきます。これによって機械的な刺激だけでなく化学的な刺激で軟骨が破壊されることもあります。

  

  5a.変形性膝関節症の治療

  治療には大きく分けて、外来でする方法と入院して手術で治療する方法があります。

 基本的には初期の方は体操など保存的治療が有効です。膝は徐々に硬くなってきますので、お風呂では温めてゆっくり立ったり座ったり伸ばしたり。軟部組織の軟らかさを保つようにします。ストレッチ体操もその一つです。かかとのアキレス腱を伸ばすように、この筋肉も膝関節の周囲から出ています。歩いてそんなに痛みのない方なら普段から20分でも30分でも歩くように癖づけて練習を続けます。「膝が悪いのに歩いたほうがいいですか」、「悪化しませんか」とよく言われます。歩かないと余計に悪くなることがよくありますので、それは少しよくなってから考えていいと思います。

 痛みのある方はこういった要領でストレッチをします。テーブルに手を置いて脚を前後に開いて体重を前にずらしながら歩くようにふくらはぎの筋肉を伸ばす体操や、仰向けに寝て片方の脚を少し挙げる体操は家で簡単にできます。図では重りを使っていますが、初めはなくてもいいです。脚は上げすぎると意味がありません。10°くらい、少し上がったかなという状態でゆっくり5秒くらい保ちます。必ず痛くない脚と交互にします。時間があればプールで歩くのもいいと思います。

 私がよく指導しているのは、丸く巻いたタオルや枕を膝の下に置いてする体操です。太股に力を入れてタオルを押しつぶすようにします。膝を安定させる大事な筋肉である太股の内側広筋を鍛えます。これを続けている初期の方はほとんど楽になっています。

 体操でも痛みが解消しないと薬を出したり、湿布をしたり。関節内注射は開業医の先生もよく行っていますし、我々もときどき行います。痛みが非常に強いときにはステロイド剤、それほど強くないけども歩くと痛みがある方にはヒアルロン酸ナトリウムの注射を1週間に1回か2週間に1回継続して注射をします。そうすると痛みがなくなります。装具にもいくつかあります。

 

 5b.関節鏡視下手術

 それでも痛みがとれないと、残念ながら手術による治療を選択せざるを得ません。内視鏡を使った手術、人工関節の手術をご紹介します。

 膝関節鏡は実は世界中で使われているかなりポピュラーな医療機器です。最初に考案したのは日本人の高木先生で、渡辺先生がこれをさらに発展させました。渡辺先生は内視鏡の手術法を開発して、これを見た多くの外国の先生が世界に広めたと言われています。日本が誇る手術の一つです。

 関節鏡の手術とは内視鏡で関節の中を見ながら行う手術ですので、関節鏡視下手術と呼ばれています。この写真は前十字靱帯の再建術を兼ねています。実際には膝蓋骨の下に1つか2つ、それ以外に処置が必要な場合にはさらに1つか2つ、1cmくらいの傷ができます。開発当時は直に覗いていましたが、清潔さが保てないので、今では内視鏡の先にカメラを付けて、カメラの映像がテレビに映し出されます。そのテレビを見ながら我々は手術をします。

 実際に膝関節の中を覗いてみます。これは90°曲げた状態での写真です。大腿骨があり、下には脛骨があり、その間に半月板があります。こういった写真がこれからたくさん出てきますので、見比べてみてください。基本はこのように滑らかで白くきれいな軟骨で覆われています。

 立ったり座ったりするときに痛いという方では、軟骨表面は比較的滑らかでも、めくれあがったり毛羽立ったり裂けたりしています。このようなことが多く、これが動作をしている間に引っかかって痛い。「曲げ伸ばしのときに引っかかったような感じがする」と表現をされる方もいます。

 もう少し変形が進行した初期の変形性膝関節症になると、滑らかだった軟骨が毛羽立ったようになり、すり減ってスムーズに動かなくなってきます。軟骨は年齢とともに全体がおかしくなるというよりも表面から傷んできます。

 もっと進行すると様相がかなり変わってきます。非常に毛羽立ちが強く、ここに半月板がありますが、脛骨側の軟骨がありません。黄色く見えているのは軟骨下骨といって、下の脛骨が露出している状態です。

 先ほど滑膜を傷めると言いましたが、膝に水がよくたまるという方の滑膜には実はこのような異常な膜がひょろひょろといっぱいできています。これは増殖した滑膜で、この中から異常な物質がたくさん出てきます。このような滑膜炎は変形性膝関節症にもありますし、リウマチにも必ずあります。細菌が入っても反応性の滑膜炎ができてきます。

 関節鏡を使った手術にどういたったものがあるのかというと、半月板を切除する、場合によっては縫合する、先ほどあった滑膜を掃除するといった手術をします。

 半月板切除術とはめくれあがったところを引っかからない程度に特殊な器械で削り落として滑らかにきれいにします。少し毛羽立ったところは電気熱処理で滑らかにすることも可能です。

 半月板を縫合するとほんとうにくっつくのか、それはわかっていませんが、安定化すると症状がとれますので、可能な限り軟骨を残すためにも縫合しています。先ほどのような毛羽立った半月板は変性してその性質が変わっているので、縫合しても効果は乏しい。そういうことで比較的若い方の損傷に対して縫合術をしています。

 滑膜切除術は異常に増殖した滑膜をバリカンのような器械で削り取る手術です。最後にこういったもので熱処理して止血します。

 

 5c.末期の変形性膝関節症の治療


 内視鏡の治療では十分な効果が出ないほど変形が進行した末期の変形性膝関節症はどう治療をするのか。代表的な治療法は高位脛骨骨切り術。これは骨の一部を切り取ってO脚をX脚に治します。単顆型人工膝関節置換術は膝の内側だけ悪い人に適する方法です。膝全体で変形が進行した場合にはやむをえず全人工膝関節置換術を行います。

 膝の内側だけに痛みが限局している場合。脛骨の上のほうの骨をこのように切ってとってしまいます。高位脛骨骨切り術と呼ばれる所以です。そうすると大腿骨がまっすぐ上に乗っかって、脚はきれいなX脚になります。手術前はO脚ですので、股関節から足関節にかけて体重は膝の内側に集中しています。その結果内側が傷んでしまったわけですが、手術をすると体重のかかる荷重線は真ん中よりやや外側になります。これで痛みは軽減できます。

 内側だけの変形を治すための人工関節術は回復もよく非常にいい手術ですが、体重過多の方、骨が弱い方、高度に変形して膝が伸びなくなった方などには向きません。いくつかの制限がありますので、この術式に適した人がこの手術を受けることができます。

 膝全体に非常に変形が強く出た場合には全人工膝関節置換術となります。一般に言われている人工関節置換術はこの方法を指すことが多い。当院でも開院以来250例以上の人工関節置換術をやってまいりました。非常に成績もよく患者さんの満足度も非常に高い手術の一つです。

 これはその手術中の様子です。随分変形が進行しています。内側型が多いと言いましたが、この方の場合も内側の軟骨が全部削れてしまっています。ここは大理石のように硬くなっています。骨棘といって骨が盛り上がった状態、下の軟骨がなくなって、強く変形しています。ときには軟骨が折れて関節の中で育ってしまったというケースもあります。

 人工関節の手術をする際には、人工関節の内側の形状に合わせて傷んだ骨の表面を切ります。靱帯のバランスを整えた上できちんと人工関節を入れます。この手順でします。

 これが手術中に行っているスタイルです。毛髪、皮膚等から細菌が落下しないように、その予防のために特殊な格好をしていますし、室内の空気もフィルターを通しモーターで循環させています。一部ここに器械を置いています。手術をするにはたくさんの器械が要りますから看護師さん泣かせになっています。たくさんの器械を駆使してやっています。

 実際に膝の中をみますと、大腿骨、脛骨、膝蓋骨があります。膝蓋骨は大腿骨の前にありますので、切開して膝蓋骨を反転した状態で初めて手術ができます。これは実際に中の骨を切り取ってきれいに整えているところです。これもそうです。

 これが関節を留置した状態です。人工関節はこの場合はコバルトとクロムの合金を使っていますが、セラミック製のものもあります。各々にメリット・デメリットがあります。現在我々はこれを使っています。脛骨側はチタン製を使っています。その上にポリエチレンの軟骨の代わりとなるクッションが入ります。

 皮膚を閉じてこういった形で終わります。手術終了後をレントゲンで見るとこういうふうに。上の大腿骨側は骨の表面を覆うように、下の脛骨側には柱(ステム)を骨髄の中に埋め込んでいます。その表面は歯医者さんでも使われている骨セメントでしっかりと止めています。欠損が非常に強くても、オプションを付けるときれいな脚に戻ることが可能です。横からみてもこれだけ骨棘があったのですが、きれいに治すことが可能です。  

 変形は片足だけにある方もいますが、両足に起こる方もたくさんいらっしゃいます。このように非常に強いO脚変形でも手術によってきれいに真っ直ぐの脚になると痛みがなくなります。

 5年、10年前までの人工関節では非常に動きに制限がありました。人工関節は椅子の生活に対応した欧米で開発されたものですから、膝が曲がるのは120°程度です。正座では150°くらい必要ですので、日本ではそのニーズを受けて改良され、その結果このように手術前の稼働域が温存できるようになっています。手術前に正座が可能だった方は手術後もこのように正座できる方もいます。ただ非常によく曲がる人工関節は最近開発されたものですから、こういった動作を続けると人工関節にどれくらいのストレスがかかっているかわかっていませんのでお勧めしておりません。どうしてもという方は、立ち上がるときには必ず手を添えてそっと立ち上がるように指導しています。

 写真をこのような場で発表に使ってもいいとこの方から許可をいただいて、皆様に紹介することができます。非常に高度な変形があります。両足の内側の骨破壊が非常に強いために変形がきつく、ほとんど歩けない状態でした。手術をして1年半ですが、直立できます。大きなステムの付いた人工関節が入っていますが、生活が非常に快適になったと喜んでいらっしゃいです。


 博物館にある恐竜の標本を見ると、恐竜の時代から股関節、膝関節が我々ヒトの関節に近い構造であることがわかります。

 

 6.関節リウマチ

 あと少し、膝の痛みの出る疾患をいくつか紹介します。関節リウマチは原因がわかっていない疾患の一つです。膝の中の滑膜が異常に増殖しています。ここからいろいろな物質が出て軟骨が破壊され、このように足の指の形も変形してしまいます。今ではリウマチをコントロールするいい薬が出てきましたから、変形が進行したひどいリウマチの患者さんはだいぶ減りましたが、やはり破壊が高度になると手術を選択せざるをえません。

 

  7.偽通風

  関節の中にピロリン酸カルシウムという結晶が沈着する病気です。ここをレントゲンで見ると、白い点々が描出されます。これはカルシウム結晶が沈着して、それに反応した体が膝に痛みを起こすということで病院にいらっしゃいます。内視鏡で見るとこのように結晶がたまっています。これにはステロイドの注射が劇的に著効します。ですから人工関節の手術にまで至る人は少ないかもしれませんが、これは突然に発症する病気です。

   

 8.大腿骨顆部特発性骨壊死

 大腿骨の体重のかかる場所に原因がわからない骨の壊死を誘発する疾患です。レントゲンでは初期はわかりません。あるとき膝ががくっとして、以来とにかく痛い。病院でレントゲンを撮ってもどうもないと言われるケースです。そのまま経過をみることもありますが、MRI検査を行うと骨の中でこんなに強い変化が起こっています。この原因はわかっていません、ですから特発性なのです。九州大学の先生の最近の研究によれば、どうも60歳以上の高齢の女性に多い。何かの弾みで途端に痛くなります。転倒するほどではないものの、つまずく程度の歩行の後から強い痛みが出てくる。各病期の組織を調べると、どうやら骨折が原因のようです。例えば骨粗鬆症があって軽い外傷や小さな骨折を起こしたまま、だんだん骨が壊死していく。今ではそういう考え方がされています。

 ダイナミックな変化が起こるので痛みがものすごく強い。早いうちに足底板という足の裏の中敷きを付けて内側に体重をかかりにくく調整すると、痛みをがまんしている間に数カ月の経過で治っていくケースがよくあります。レントゲンで原因がわからない強い痛みの場合にはMRIを撮るのも有効かと思います。

 以上、膝の痛みについてお話しいたしました。ご清聴ありがとうございました。

関西医大HOME -> 市民公開講座目次 -> 第10回市民公開講座 (2008) 膝の痛み −主に変形性膝関節症の原因と予防及び治療−